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プレーモデルに即した育成がインテリジェンスを高める/10年後に活躍する選手を育成するために:濱吉正則

COACH UNITED ACADEMYでは、スロベニアでヨーロッパの最上級指導者ライセンスであるUEFA PRO Coaching Diplomaを取得し、名古屋グランパスや徳島ヴォルティス、ギラヴァンツ北九州でコーチを務め、SVホルン(オーストリア)では、ヨーロッパのプロリーグで日本人初となる監督を務めた濱吉正則氏のセミナーを公開中。

Jクラブのコーチとして活躍し、現在は九州産業大学サッカー部を率いる濱吉氏は、日本とヨーロッパの育成からトップカテゴリーまでをよく知る人物である。日本の指導者向けに「10年後に通用する選手を育てるために」というテーマで行われたセミナー後編では「プレーモデルとトレーニングの関係」について講義が行われた。その一部を紹介したい。(文:鈴木智之)

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空間、時間的なプレッシャーの中で求められる解決力

濱吉氏は「近代サッカーは近代モデルの選手と近代サッカーのプレーモデルから成り立っています。プレーモデルはクラブによって異なりますが、どのようなモデルを用いるにしても、チーム内での共通理解、コミュニケーションが重要になります。さらに、近代サッカーでは、プレースピードがかなり高まってきています」と、現状を説明する。

セミナーでは近代サッカーのプレーモデルに基づき、プレースピード、共通理解、コミュニケーションについて、細分化して解説。その上で「10年後に通用する選手を育てるためには、指導者が現代のトレンドを知り、10年後にどのような選手が求められるか。また、目の前の選手は10年後、どのような選手になるかをイメージすることが大切」と語る。

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サッカーには技術、戦術、フィジカル、メンタルなど様々な要素が絡み合うが、なかでも現代サッカーで重要になってきているのが「インテリジェンス」。言い換えれば「状況を解決する能力」だと、濱吉氏は言葉に力を込める。

「選手のプレーを見ても、フィジカルはMAXに来ています。10年後の選手達が、いまより速く、多く走れるようにはならないでしょう。ヨーロッパのトップレベルのチームを見ていると、プレースピードは凄まじいものがあります。プレースピードが加速する中で、何を鍛えていけばいいのか。それは、認知や認識などのゲームインテリジェンスです。より速く、的確に状況を判断すること。そして空間、時間的なプレッシャーがある中で、素早く解決する能力が求められます。ベースの技術やフィジカルに加えて、状況解決における知性の高い選手が、トップレベルに行くことができます」

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ゲームインテリジェンスは、それ単体でトレーニングして伸ばすことができるものではない。濱吉氏による「近代サッカーモデルに即した青少年育成サイクル トレーニングモデル」では、トレーニングの要素を「コーディネーション」「技術」「技術と戦術」「戦術」「運動能力」「プレーモデル」と、定義しているが、「自分たちのスタイル(プレーモデル)に合わせて、トレーニングをしていくことが大切」と述べる。

育成年代のチームでも「プレーモデル」は必要

「育成年代のチームであっても、こういうサッカーがしたいというプレーモデルがあると思います。自分たちのスタイルに合ったプレーの原則があると思うので、それに沿って、複合的にトレーニングをしていくことが大切です。オーストリアのレッドブル・ザルツブルクはU-15から、同じグループであるライプツィヒのコンセプトに合ったトレーニングをしていますし、アヤックスではU-7からプレーモデルに合わせてトレーニングをし、少しずつトップチームのスタイルに合わせていきます。これはクラブだけでなく、国として、たとえ少年団であっても、その方向に向かって進んでいくというモデルを設定する必要があります」

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目指すべきモデルを作り、そのスタイルを実現するために、どのような要素が必要か。さらに、その要素を身につけるためには、どのようなトレーニングをすれば良いかを考えて積み上げていく。それが、濱吉氏がヨーロッパの現場で学んだ、トレーニングに対する考え方だ。

「従来のトレーニング方式は、技術、戦術、フィジカルなどを個別にアプローチして、それぞれを向上させていきました。その結果、試合でうまく生かされない、選手達はいざ試合になると、どう動いていいかわからないという現象が起きていました。一方で、プレーモデルに沿ったトレーニングをすることで、技術、戦術、メンタル、フィジカルに複合的にアプローチすることができ、試合で相互に作用し、効果的に発揮できるようになります」

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原理原則を教えることでサッカーは楽しくなる

濱吉氏のセミナーでは質疑応答の時間が設けられ、U-12の指導者から「チーム内の選手の実力差があり、指導することの難しさを感じています。また、ヨーロッパのトレーニングに対する考え方は、日本の少年団でも実施できるのでしょうか?」という質問が寄せられた。

濱吉氏は「この質問は色々な場所で受けます。私はサッカースクールの運営もしていますが、所属チームでレギュラーではない子がたくさん来てくれています。私はその子達にはまず、サッカーはチームで協力してプレーするスポーツであること。チームメイトと一緒にプレーするためには、共通理解、共通認識のもとに動く必要があること。その結果、お互いの力を引き出すことができるんだよと説明します」と述べ、次のように続ける。

「ボール扱いができないから、リフティングが100回できるまで練習には参加させないではなく、サッカーのゲーム構造、プレーの原理、原則を教えることで、フリーでパスが受けられるようになり、プレーが成功する場面が出てきます。日本人の選手を見ていて気になるのは、味方と関わり合ってサッカーができない選手が多いこと。ボールと自分の関係ではサッカーができますが、味方との関係になるとうまくプレーができなくなる。そこの考え方や原理、原則を教えることで、技術の差があっても、サッカーを楽しめるようになっていきます」

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サッカーを理解させることで、必要な技術が身につき、技術を理解することでプレーが上達する。濱吉氏のセミナーでは、日本とヨーロッパの現状を知るからこそ、貴重な知見が含まれていた。より深く知りたい方は、ぜひCOACH UNITED ACADEMYを御覧いただきたい。トレーニングに対する考え方のヒントが得られるはずだ。

また、セミナー本編の動画では、ナーゲルスマンが指導するホッフェンハイムのトレーニング映像を用いて、「プレーモデルに即したトレーニングの構築」について濱吉氏が詳しく解説している。

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ナーゲルスマンと言えば、若い指導者ながらSAPの技術などを駆使して結果を出しているとばかり捉えられがちだが、空間的、時間的なプレッシャーがある中で、ハイインテンシティで行われる複合的なトレーニングと、それらが全てプレーモデルに即した形で行われていることこそ、ナーゲルスマンが結果を出している本質だと濱吉氏は説く。

近年では日本でもよく聞くようになった「プレーモデル」だが、いまだ腑に落ちない方は、ホッフェンハイムのトレーニング解説を見ていただけると、より理解が深まることだろう。

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【講師】濵吉正則/
九州産業大学サッカー部監督、HAMAサッカー塾インターナショナル代表。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパスコーチ、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルンの監督に就任。その後、ホルンの育成センター、アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。