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なぜ、日本のサッカーは13歳以降で世界と差が開くのか?/欧州と日本の育成を知るゼムノビッチ氏の提言

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師はVONDS市原の監督を務める、ゼムノビッチ・ズドラヴコ氏。1994年の来日以降、鳥栖フューチャーズのコーチ、清水エスパルスのアカデミーを経て2000年にトップチームの監督に就任すると、2001年に天皇杯優勝に導くなど、日本の育成年代からトップチームまで幅広い指導経験を持っている。

20年以上、日本で手腕を振るってきたゼムノビッチ氏は、日本の育成について何を感じているのか。欧州と日本の両方を知り尽くす人物だけに、講義では的確な提言が数多く飛び出した。ここではCOACH UNITED ACADEMYに収録されている内容の一部を紹介したい。(文:鈴木智之)

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公式戦の機会が120試合も少ない日本の中高生

ゼムノビッチ氏の提言。1つ目は日本サッカー、なかでもジュニアユース、ユースの組織編成について。日本の育成においてジュニア年代は世界でも高いレベルにあると語るゼムノビッチ氏。しかし、ジュニアユース以降で大きく差が開いてしまうと言う。その原因について千葉県サッカー協会のテクニカルアドバイザーを務める彼は「ジュニアユース、ユース年代で公式戦を経験する回数が、ヨーロッパの同年代と比べて少なすぎる」と語気を強める。

「日本は学校単位、3学年で1つのチームを作ります。このような編成をしているのは、世界中で日本だけです。学校単位でサッカーが行われているため、仕方のないことかもしれませんが、1~3年生で1つのチームが公式戦に出ます。それが日本の一番もったいないところです」

ゼムノビッチ氏はその理由を次のように明かす。

「1年生の多くは公式戦に出られず、2年生は何人か上手な選手だけが出場できます。そして、多くの選手は3年生になってようやく出場機会を得ます。多くの選手は、選手が成長する上で一番大切な公式戦に、およそ2年間も出られないのです。これは選手キャリアの中ですごくもったいないことで、そのかわりに練習試合がたくさんあります。日本は練習試合の数は、世界一でしょうね」

練習試合と公式戦の一番の違い、それは「緊張感」の有無だ。ゼムノビッチ氏は「緊張感のある中でプレーすることで、選手は成長する」という。実際に、プレー強度も練習試合と公式戦では大きく異なる。

公式戦経験の少なさは、ジュニアユース、ユースともに共通する問題だ。

「中学3年生で公式戦に出られた選手が、翌年には高校1年生になり、また一番下の学年からのスタートです。つまり、ジュニアユース、ユースの6年間で4年間がルーズ。ヨーロッパの選手が毎年30試合、公式戦を経験していることを考えると、日本の選手は4年間で少なくとも120試合の経験が足りません。それを直さないと、いくら良い指導をしても選手は伸びないと思います」

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日本の選手に最も足りないのは「自信」

ゼムノビッチ氏は「日本とヨーロッパは、育成に対する考えが違う」と断言する。

「日本は強いチームを作ることを考えていて、ヨーロッパは良い選手を作ることを考えています。日本は学校単位でサッカーをすることが多いので、難しい部分ではありますが...。ヨーロッパはクラブでサッカーをしているので、18歳までは選手がどのレベルまで成長するかが重視されます。言い換えれば、18歳まではチームの勝ち負けはそれほど関係がないわけです。しかし、日本の場合は幼稚園のサッカーでも、試合に勝つことが重視されています」

育成年代のサッカーは、試合に勝てばOK、負ければすべてが悪いという単純なものではない。しかし、試合結果に意識が行き過ぎてしまうと、選手の成長という面で大切なものを見落としてしまうことがある。

「育成で大切なのは、選手が成長すること。勝ち負けにこだわると、コーチは選手のミスが許せなくなり、ミスをすると怒ります。すると選手たちは安全なプレーをするようになり、チャレンジする機会がどんどん失われていきます。日本の選手は能力はあるのに、いつも自信がないようにプレーしています。それはミスをしたら怒る、良いプレーをしても褒めないという、日本特有の考え方が影響しているのだと思います」

日本の環境、文化を知り尽くしたゼムノビッチ氏ならではの、耳の痛い意見である。しかし、ここで挙げたような部分を改善していかなければ、日本のサッカーが世界のトップレベルと対等に渡りあうのは難しいだろう。

「日本の環境は『サッカーがうまくなる』ことにフォーカスすると、少し厳しいものだと思います。子ども達に対して、コーチが厳しく接することだけを続けると、いつか切れてしまいます。選手とコーチの関係はロープと同じ。引っ張りすぎれば切れてしまいますし、緩めすぎても地面についてしまう。ちょうど良いバランスが大事なのですが、ミスを指摘するだけではなく、良いプレーを褒めるといった形で、子ども達に優しく指導しても良いのではないかと思います。能力がある子はいるので、自信をつけさせてあげてほしい。それもコーチの仕事のひとつです」

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COACH UNITED ACADEMY動画では、ほかにも「日本サッカーから突出した選手があまり出てこない理由」「育成年代の選手が、スタジアムでトップレベルの試合を見ることの重要性」「相手の裏を取るための、プレーコンセプト」など、多くのトピックについて語っている。日本とヨーロッパの両方を熟知したゼムノビッチ氏の提言を、ぜひご覧いただければと思う。多くの指導のヒントが詰まっているはずだ。

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【講師】ゼムノビッチ・ズドラヴコ/
1954年、ユーゴスラビア(現・セルビア共和国)出身。FKテレオプティック、チュウカリチュキ、BSKバタイニッツァで選手としてプレーし、引退後、BSKバタイニッツァで監督業をスタート。1994年に来日すると、鳥栖フューチャーズ、清水エスパルスでコーチ、監督を歴任。清水を天皇杯優勝へと導く。2003、2004年にFKラド・ベオグラードの監督を務めた後、再来日し、千葉県サッカー協会のテクニカルアドバイザーに就任した。2016年シーズンからVONDS市原の監督を務めている。