12.05.2018
「選手を型にはめる?」「育成年代には不要?」プレーモデルの目的と正しい理解
COACH UNITED ACADEMYにも講師として出演し、現在、九州産業大学サッカー部を率いる濱吉正則氏。 スロベニアでヨーロッパの最上級指導者ライセンスであるUEFA PRO Coaching Diplomaを取得し、名古屋グランパスや徳島ヴォルティス、ギラヴァンツ北九州でコーチを務め、SVホルン(オーストリア)では、ヨーロッパのプロリーグで日本人初となる監督を務めた。
日本とヨーロッパの育成からトップカテゴリーまでをよく知る濱吉氏が10月22日に「UMBROアカデミー2018」にて「プレーモデル・プレー原則に従ったトレーニング理論」をテーマにセミナーを開催したので、その一部を紹介したい。(文:木之下潤)
プレーモデルには普遍性と指導者の解釈が必要
濱吉氏は、まず冒頭で「プレーモデルに与える要素」を次のように紹介してくれた。・選手の能力
・チームの目標と構成
・チーム/国のプレー文化
・試合の局面
・指導者/チームのゲームアイディア
・プレーの原則
・組織
そして、大きく関わるのは文化的な背景を理解することだと語り、それがあるから国や地域によってサッカーの色が変わるのだと主張した。
「プレーモデルを構築していくために、指導理論やメソッドは大切なことです。教科書は万国共通で、誰が勉強しても正解を出せるようになります。でも、それでは先生を超えることはできません。鮨職人であれば、どうやって職人になれるかのレシピがあるわけではなく、師匠もそれを教えてはくれません。弟子は何年もかけて『暗黙の了解』として師匠のやることを見て学びながら鮨を握れるようになっていくわけです。それが文化です。職人的な学び方は指導者には不可欠でペップやモウリーニョたちはこのような学びのお陰で成功を収めています。
しかし、それだけを指導者に当てはめてしまうとすごく時間がかかるし、発展していかないから指導理論やメソッドが確立されていったのです。でも、指導者も学んだ理論を超えていかないと、いい指導者にはなれません。そこで重要になってくるのが文化的な背景です。私がオーストリアで指導していて『おもしろい』と感じたのは、例えば彼らはスペイン人になれないことを知っていいて、でも共通することがあるからそれを自分たちなりに実践していたことです」
その共通することがサッカーの教科書であり、それをしっかりと学び自分たちなりの解釈で発展させていくから色に変わっていく。そのためにチームとして必要なのがプレーモデルだ。
プレーモデルは型にはめることが目的ではない
続けて、本題の「プレーモデルに基づいたトレーニング理論」を説明した。日本でプレーモデルと言えばシステムやスタイルなどが多く議論されるが、濱吉氏は「型にはめることが目的ではない」という。「プレーモデルを構築する一番の目的は、プレー原則を身につけながらチームとしての共通理解を高めて個々の力を引き出すことです。それがあるから個々のゲームインテリジェンスが高まっていくわけです。それが鍛えられたら選手同士のプレーの共通のアイディアが生まれます。サッカーは複合的なスポーツで、11対11で戦う偶然性が高いスポーツです。だからこそ、チームで共通理解を高めていかなければ勝利は目指せません。
日本で個の育成と言えば、局面の1対1ばかりが取り上げられます。だから、たくさん1対1の練習をするといった、考えになりがちではと思います。でも、いざ試合でその状況になるとうまくいかないことが多々あると思います。サッカーでオン・ザ・ボールが約束された状態って、どんな状況だと思いますか?
実は、セットプレーの時だけです。それ以外は、例え1対1の状況であってもボールのないところからスタートしています。要するに、味方と合わせて動いたりボールをもらうタイミングを図ったり、プレーのほとんどに他人が関わっているわけです。つまり、トレーニングにはどう複合的にアプローチをするかが大事になります」
そもそも近代サッカーをプレーするためには、4つの要素「フィジカル/戦術/技術/メンタル」を複合的に学ばなければならない。それが選手のインテリジェンスにつながり、ゲームインテリジェンスへと関連していく。
プレー原則があるから共通理解と判断速度が高まる
チーム作りには、指導者が持つゲームアイディアや選手たちの能力を把握し引き出す作業が不可欠だ。そこからチームのコンセプトを決めたら、それを元にプレーの原則を決めていかなければならない。「自分たちがボールを保持している時と保持していない時、攻撃から守備の時、守備から攻撃の時と、サッカーの4つの構造の中でどんな原則を持つのかを考えることがスタートです。例えば、自分たちがボールを持っている時には素早く縦パスを狙うのか、それともトライアングルを作ってボールを大切にしながらフォワードを活用するのか。守備では取られた瞬間に全員がプレスをかけるのか、近くの選手がプレッシャーをかけて他は自陣に戻るのか」
プレーモデルには選手という要素が大きく関わり、彼らの性質や特徴を見極めなければならない。濱吉氏は「SVホルンでは、様々な国の選手がいたのでプレーモデルを構築するのも難しかったけど、話す言語が多すぎて言葉の問題もありました」と、国籍や文化の違いについての難しさも話してくれた。
そういう時に立ち返るべき場所がチームのプレーモデルであり、プレーの原則だ。日本の試合を見ているとチームとしてどう戦うのか、局面でどう対応するのかを選手がわかっていないのに「そうじゃない。こうだ」「もっと判断を早く」と、指導者が怒りをぶつけていることがたくさんある。その原因の一つに、濱吉氏は「小さい部分からトレーニングしていくことが挙げられる」という。
「個人戦術といった小さい部分からトレーニングしていくと、ゲームの全体構造が見えないので、自分がどう判断していいかがわかりません。オーストリアでは7歳や8歳の頃から『ボールを取ったら素早く攻める。奪われたら素早く奪いかえす』というようなサッカーの全体構造を理解させながら指導しています。日本は、ドリブルとかパス回しとか部分的なトレーニングから入っていくことが多いと思います。それはもちろん大事な要素ですが、それらをゲーム感覚につなげていくことが重要です。だから、プレーモデルが必要だし、それはただミニゲームをやらせても身につくものではありません」
指導者たちの間では、よく「ある程度、うまい選手が集まればコンビネーションなんか勝手にできていくだろう」と言われている。しかし、それだけでプレースピードは上がるだろうか、プレーの再現性は高まるだろうか。
セミナーの前半、濱吉氏はプレーモデルを作り上げていく過程で、指導者に必要な知識と指導理論を自らの体験談を交えながらわかりやすく説明してくれた。そして、セミナーの後半では「4種年代のトレーニングに対する考え方」を講義してくれた。
濱吉正則(はまよし・まさのり)/
九州産業大学サッカー部監督、HAMAサッカー塾インターナショナル代表。UEFA PRO Coaching Diploma(ヨーロッパサッカー連盟公認プロコーチライセンス)。スロベニアサッカー協会公認 プロコーチライセンス。中学・高等学校1種 保健体育教諭免許。スロベニアでコーチングライセンスを取得し、柏レイソルU18監督、名古屋グランパスコーチ、徳島ヴォルティスユース監督、トップチームコーチ、ギラヴァンツ北九州コーチ、大宮アルディージャテクニカルアシスタント、監督通訳などを経て、2016年にSVホルンの監督に就任。その後、ホルンの育成センター、アカデミーアドバイザーを経て、2018年より現職。
取材・文 取材・文:木之下潤 写真 写真:吉田孝光