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何のために指導者をやるのか? 指導者の価値とは?/アメリカと日本の違いから学ぶ

2月9日。スポーツの壁を越えて繋がるコーチ・リーダーのためのカンファレンス「SCJ Conference 2019」が開催されました。前編の「部活動のこれからを考える。」につづき、後編では、分科会「アメリカのコーチングに学ぶ~世界視点の選手育成~」のレポートをお届けします。

スタンフォード大学アメリカンフットボール部などでコーチを歴任した河田 剛氏と、NBAをはじめ世界のトップチームで長年経験を積み、日本バスケットボール協会 スポーツパフォーマンス部会長を務める佐藤晃一氏のお二人に、日本とアメリカのスポーツの違いについてお話いただきました。

アメリカのスポーツの捉え方からはじまり、日本のこれからのスポーツのあり方について熱い議論が繰り広げられました。

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アメリカの学ぶ指導者を生み出すカルチャー

村松(モデレーター):どのような経緯でアメリカへ渡ったのですか。また、その時の印象を教えてください。

河田:スポーツに関わっていきたいという気持ちがありました。そこで、アメリカでは一線を退いたコーチ陣がいて、70歳くらいの人がコーチをしているのを見て、お金を得られるのはこの国しかないと思いました。また、アメフト部がパトカーに守られて、空港へ行くといった特別対応を受けたのです。私は一般人がそういう扱いを受けるアメリカに驚きました。

佐藤:私はソ連統合事情を勉強するために、アメリカへ行きました。世の中には色んな人がいるということを知りました。バスケは不遇な環境で育った選手が多い。日本と比べアメリカの選手は、人が優しくしてくれるのは、裏になにかあると考えてしまう選手が多くいました。話していることを、すんなり受け入れてくれることは少ない。疑い深い印象ですね。

佐藤:アメリカは特殊で、日本に帰ってくると未来から帰ってきた感覚に近いですね。日本はアメリカを目指しているが、それによる弊害もある。現在、早期特化という、小さい頃からずっと同じスポーツで専門性を高めるといったことがアメリカでは弊害が出ています。日本はそもそも早期特化が普通である。だから今、早期特化をやめたら、選手がすごく成長するかもしれない。

河田:コーチや指導者自身が将来を考えているのか、考えていないかの違いが大きいです。指導者が関われる時間は限られているのに、悪影響を与えることは本来できないはず。例えば、若い女の子にスポーツをするために髪の毛を短くするのを強要することなど。人間として扱っているか、扱っていないか。指導者の目に先が見えているか、見えていないかが違う。これでいうと日本はほぼ悪い方にあたります。学校の先生が指導者であるといった、社会的構造のせいだと感じています。

佐藤:アメリカはプロの指導者が多い。小学校や中学校もそうで、横のつながりが多い。「練習を見に行かせてください」というのは比較的アメリカのほうがやりやすい感じがします。コーチたちが、「本当に何が大切なのか?」がわからなくなってしまう。最終的に優勝できるのは1チームなのに。勝ち負けを追求していったらそういう社会になる。

河田:日本では、負けても公立の先生はクビにはならないが、アメリカは勝たなきゃすぐクビになる。日本とは、家族の構造や時間のバランスがぜんぜん違いますね。アメリカ人は家族との時間を大切にする。もちろん、コーチやスタッフにもです。仕事と家族とのバランスをよくマネジメントしています。日本の「働き方改革」はおかしなことです。アメリカ人は、自分のライフスタイルを軸にして、働き方を決めているのに対して、日本は働き方が自分の生活に落とし込まれる。

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なんのためにやるのか? 指導者の価値とは?

村松:なんのために、コーチをやっていて"Goal"ではなく"Purpose"。目的はなんなのか。選手はもちろん、コーチ自身も関わるスタッフも持っているということがキーになるということですね。

佐藤:ボランティアで、バスケットを教えている人から「何が目的なのかわからない」と相談を受けました。20人~30人の子どもたちを対象に、バスケットを教えたいと考えている人結構いる中で、あなたはその環境にいます。「どうやったらうまく教えられるだろうと考えたらワクワクしませんか?」と問いかけました。それは指導者としての成長じゃないですか。義務としてやっているのか、お金としてやっているのか。選手も同じ志を持てればいい環境にできるのでは。

村松:私たちは指導者が「学ぶリーダー」であってほしいという願いのもと活動している。自分はなんのためにやっていて、実現できることはなんなのかということ。
枠を超える。コーチ同士のネットワークや、スポーツを超えた領域での学ぶものはなんなのか。

河田:私は、10年後ボランティアがなくなっていってほしいと願っています。スポーツがお金を生み出す社会になっていてほしいです。自分のやっていることが価値になることを知ってほしい。アメリカに比べて、日本のスポーツ業界はクオリティが低い。スポーツに関するボランティアが減っていってほしい。

佐藤:価値を創出しているかが重要な点です。お金が入ってくるということは、指導者も価値を生み出さないといけないという環境になる。「上手じゃない指導者のもとへは行かないよね」という状況が起きてくるはず。そうすると、指導者も成長せざるを得なくなる。

世界で活躍する人材の共通点は「素直さ」

佐藤:素直に人の話をきけるか。質問を、批判と捉える人がいる。「質問→叱られている→何を答えても言い訳がましい→答えにくい」。これは純粋なやりとりとして成り立たない。受け側のマインドセットを変える。そうするとネガティブな要素が減る。「なんでそういう質問が出るのか」ということを考えるようになれば成長。

村松:これは、自己認識ということですね。

河田:生徒と同じテーブルでは、ご飯は食べない。選手とコーチのマインドを分ける。日本の環境で育ったまま、アメリカに行くと思い込みが多い。アメリカは多種多様な環境で育っているので千差万別なコミュニケーションが生まれます。自分の経験上での判断を高く持ちすぎると、世界で活躍は難しいと思います。

村松:思い込みってことですね。それを確認する、取り除くということができるといいなと思います。


【スピーカー】
・河田 剛氏
スタンフォード大学 アメリカンフットボール部 オフェンシブアシスタント

・佐藤 晃一氏
公益財団法人日本バスケットボール協会 スポーツパフォーマンス部会長

【モデレーター】
・村松 圭子
一般社団法人スポーツコーチングJapan
チームデベロップメントセクション プログラムディレクター

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記事提供:一般社団法人スポーツコーチングJapan