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14歳の国際大会で見えた違いは「センターバックのクオリティ」/2019東京国際ユース(U-14)サッカー大会

5月3日から6日にかけて、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場で開催される『東京国際ユース(U-14)サッカー大会』。毎年、ヨーロッパや南米、アジア各国から参加チームが集まり、ジュニアユース年代における"世界"を体感できる数少ない大会だ。

今年もボカジュニアーズ(ブエノスアイレス)やトッテナム(ロンドン)などのビッグクラブのアカデミーも参加。日本の選抜チームと、どのような戦いが繰り広げられるのか注目される。

そこで、今回は育成大国ドイツで長年指導にあたり、ジャーナリストとしても世界のサッカーに精通する中野吉之伴氏に大会の見所について解説してもらった。

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秀でていたのはセンターバックのクオリティ

「昨年の決勝戦を見てまず思ったのはセンターバックのクオリティの高さですね。どちらのチームもここがしっかりしているから試合が引き締まっていました」

【昨年の決勝戦】

ドイツで15年以上指導現場に立つ中野さんが指摘したのはセンターバックのプレーについてだった。決勝戦はブラジルの名門パルメイラスとロシアのチェルタノヴォの試合。3バックを採用したチェルタノヴォは味方選手との距離をコンパクトに保ちながら、常に自分がマークすべき相手への注意を怠らない。

「時折パルメイラスのFWに背後を取られることがあっても、そこで足を止めたりボールにだけ気持ちがいってしまうのではなく、すぐにポジショニングを修正して空いたスペースを埋める動きを見せていました。背後を取られた後の一歩目って難しいんです。どうしても選手はまず目がボールにいってしまいますから。しっかりと鍛えられているなと感じました」

中野さんはチェルタノヴォのセンターバックをそう評価していた。ペナルティエリア内では攻撃でも守備でも最大限の集中力とプレッシャー下でのプレーの質が求められる。瞬時に最適な判断ができるかどうかはプレーの優先順位が明確に整理されているかどうかが重要になる。そしてその優先順位というのはサッカーというゲームのメカニズムの中で必要とされる要素の中から考えられたものだ。

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育成年代のセンターバックに必要な「チャレンジ」

例えばセンターフォワードとセンターバックがボールの起点をめぐって激しくやりあう。ここで不利となったらやり方自体を変えるべきだろうか?もちろん試合によって、相手とのパワーバランスに応じて対策を取る必要はある。ただ育成年代において考えるべきは「今」だけであってはならず、「選手の未来像」であるはずだ。将来的に求められるのは、そこでしっかりとボールを奪い返せる、あるいは跳ね返せることであり、センターバックというポジションを担う選手にはそれができなければならないのだ。

「せっかく相手守備に対してパスコースを消して前からうまくプレスをかけて、狙い通りにGKに苦し紛れのロングボールを蹴らせたのにセンターバックがあっさりとヘディングの競り合いで負けたり、スピードで振り切られてカウンターからピンチ、だとチーム戦術として成り立たなくなってしまうわけですよ。そこでボールを回収して次の攻撃につなげるというプランがなくなってしまう。だからセンターバックの選手は育成年代でそこにチャレンジし続けないといけない。そこでの駆け引き、戦いが今後に大きく影響するわけです。育成年代の試合に勝つために競り合いを避ける戦いを取って、大きくなった時に『いや、そこが苦手なんです』なんてあってはならないわけです」

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守備力、展開力、ゲームメイク力を兼ね備えた日本人は少ない

一時代前まで言われていた「個の南米、戦術の欧州」という図式はすでに相当あいまいなものになっている。南米だから戦術をやらないわけではないし、欧州だから個を抑え込んでいるわけでもない。どちらもサッカーにおいて重要なファクターだからだ。彼らが見せる特徴はお互いに基盤となるところをしっかりと抑えているからこそ鮮やかに見える。

「パルメイラスのセンターバックもいいですね。チェルタノヴォのセンターフォワードはスピードと突破力が武器のタイプで単独でもかなり持ち込むことができる。実際ロングボールからうまく抜け出してチャンスになりかけるシーンもありました。でもパルメイラスの両センターバックは1対1での対応が素晴らしく、状況に応じてはうまく二人で数的有利の状況を作ってボールを奪取していた。かなりスペースのある状態でスピードのある選手と対峙するのは簡単なことではありませんが、相手への距離の詰め方がうまい。あとパルメイラスのセンターバックに関してはボールを持ち運ぶことができるというのも大きいですね。センターバックが運ぶ際に大事なのは味方選手をフリーにすること。相手選手を自分にひきつけることで周りの選手をフリーにするわけです。それができるとビルドアップからの展開が非常にやりやすくなる」

日本人センターバックの中にも攻撃の起点となるパスを出せる選手が増えてきている。だが守備力があって展開力があってゲームメイク力がある選手となると、全体的にみたらまだまだ多くはないと思われる。急に生まれてくるわけではない。怖がらずにどんどんチャレンジするチームが出てくるとさらに全体的なレベルアップにもつながっていくのではないだろうか。

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自分たちの居場所を再確認するためにも貴重な大会

最後に大会全体についても触れてもらった。中野さんは様々な国から参加するので多様さが見られるのが面白いところを強調していた。

「サッカーといえば南米かヨーロッパ、強豪国といえばスペインやブラジルといった定型文だけで考えるのではなく、これまでよく知らなかった国のよく知らないクラブにもいいサッカーをするチームはたくさんあるし、いいプレーをする選手はたくさんいるわけです。そしてその多様性の中に自分たちもいるという意識をこの年代で感じることができたら、それは大きな財産になると思う」

国際舞台での経験は貴重とされるが、なぜ大切なのかを整理する。この大会で好成績を収めたからオッケーというわけでも、うまくいかなかったからダメというわけでもない。違いを認知する、その中でどのように自分の、自分たちのプレーをアジャストしていけるのかを考える。

U14の大会はあくまでも通過点。その先の将来像を見すえて行われているサッカーなのか、あるいは常に全力で走り続けている中でやっているサッカーなのか。ビジョンが持てているのか。

自分たちの居場所を確認してほしいし、その中で取りこぼしがないだろうか、じっくり時間をかけて取り組むことはないだろうかと考えるきっかけとなるはずだ。その機会をチームとして、個人として持つことができたらとても素晴らしい体験となるだろう。

2019東京国際ユース(U-14)サッカー大会の詳細はこちら>>

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中野 吉之伴(なかのきちのすけ)
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16の監督を務める。