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低学年サッカーの環境改善が必要な理由とは?/ドイツ国際コーチ会議で示された指導理論と新たな試合形式

およそ15年にわたる育成改革を経て2014FIFAワールドカップで優勝を果たしたドイツ。2018FIFAワールドカップでは、残念な結果に終わったが、継続的にジュニア年代の育成、指導者養成のブラッシュアップを行っている。

今回のCOACH UNITED ACADEMYでは、毎年ドイツで開催される国際コーチ会議で示された新たな指導指針について、ドイツサッカー協会の公認A級ライセンスを持ち、現地で育成年代の指導にあたる中野吉之伴氏に解説していただいた。

前編では、「低学年サッカーの見直し」と題し、世界基準、スタンダード、サッカーの原理原則を育成年代から落とし込むためにジュニア年代を指導する指導者が知っておくべき内容を解説。国際コーチ会議はドイツサッカー協会公認A級、プロコーチライセンス(UEFA-S級相当)を持つ指導者を対象に行われる会議。ぜひCOACH UNITED ACADEMY読者の方にも参考にしていただきたい。

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キッズ年代の時からサッカーを楽しむ環境作りが必要不可欠

元日本代表監督イビチャ・オシムは「そこにこそその国のサッカーのルーツがある」と語ったというし、元ドイツサッカー協会会長テオ・ツバンツィガーは「全国に広がるアマチュアサッカークラブこそドイツサッカーの基盤」と表現した。(文・写真=中野 吉之伴)

その国のサッカー分布図を表すのに、よくピラミッド型の図を用いる。底辺がどっしりしているほど高くがっしりしたピラミッドを築き上げることができるというのが見て取れる。それは誰にでもわかることであるし、誰にとっても当たり前のことではないかと思うのだ。

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では、ピラミッドの形は本当にそれでいいのかと考えたことはあるだろうか?

あるいは、そのピラミッドは本当にその姿をしているかと疑ったことはあるだろうか?

サッカーへの入り口として日本でもキッズ年代(~U6)への普及活動が多く行われていると聞く。数多くの子どもたちにサッカーの楽しさを知ってもらい、そこから多くのタレントが生まれてくる土壌を築き上げたい。でもグラスルーツへの活動という点で考えたときに、そうしたキッズ年代への働きかけだけで十分なのだろうか。

グラスルーツ=キッズサッカーではない。キッズはやがて、小学生となり、中学生となり、やがては大人となる。ということはそれぞれに受け皿が必要ではないか。キッズ年代の子どもたちを増やす活動は小学生、中学生、高校、そして社会人サッカー環境を改善していくこととリンクされていなければならない。どれだけのアプローチをしても、98%以上の子どもはプロにはなれない。ではプロサッカー選手になれないならサッカーはもうしないのか。あるいはサッカーをやる以上、プロ選手になろうとしなければならないのか。

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それだとみんながみんな無理をしなければならない。無理をすればほころびが必ず生じ、ほころびが生じれば、少しの衝撃で砕け散ってしまう。それは個々で見ても、全体図としてみてもそうだ。

キッズ年代へのアプローチを強化するなら少年サッカーチームが増えてくる必要があるし、そこが増えてきたらジュニアユース、ユース、そしてトップチームが整ってくることが求められなければならない。せっかく小学生でサッカーの楽しさを知ったのに、行く先の中学校にはサッカー部がないからもうできない。そんな話を今でもたくさん聞くではないか。

お互いの縄張り争いや権力闘争で新チームを作っていくことが難しいのでは本末転倒ではないか。育成とは一人の指導者、一つのチーム、一つのクラブで完成するわけでも、達成できるわけでもない。つながりがなければならない。そのためには他クラブとの、他年代との交流が欠かせない。そこの視点の重要性をまずはもう一度認識してほしい。

最適な形でサッカーと向き合えてない子どもたちが多い実情

もう一つの指摘、「そのピラミッドは本当にその姿をしているのか」という点についてはどうだろうか。ピラミッドは現在の登録数を意味する。これだけの選手が全国津々浦々のクラブや少年団に所属してサッカーをしている、ということではない。

「サッカーをしている」というのを掘り下げてみよう。今皆さんのチームの子どもたちはみんなプレー時間を得ているだろうか。試合に出たときにどれだけのボールタッチ数があるだろうか。どれだけの距離を走っているだろうか。どれだけの頻度でプレーに関われているだろうか。どれだけの頻度で試合が行われているだろうか。最適な数字を見いだせているだろうか。

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例えばAという選手が年間100試合をしているとする。これは明らかに負担過多だ。サッカーとしっかり向きあうためには、一つ一つの試合にその全力で向き合えているかが大事になるわけだが、試合数や練習頻度が多すぎると、一つ一つの試合への意識はどうしても薄れてきてしまう。「ただ試合をしているだけ」という現象も起きてしまう。それではよろしくない。

逆にBという選手は年間ほとんど試合に出ることができない。出ることができても5分間。ボールにタッチすることもできないまま試合を終えることも少なくない。それでは「試合に出た」という実感を得ることができるはずがない。それこそ試合に関われてないと悔しさも喜びも生まれてくるはずがない。

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最初のピラミッドの図に戻ってみよう。このように最適な形でサッカーと向き合えてない子供たちが自分たちが思っている以上にたくさんいる。公式戦があればメンバー入りかどうかで外される選手がいる、試合となるとスタメンかどうかで外れる選手がいる、ポジションを固定されて限られた可能性のプレーしかできない、指導者が外からの指示ばかりで選手が状況を認知する経験をすることができない。
 
そうなると、実際のピラミッド図はこんなに整った形はしていないのだ。もっとやせ細ったり、いびつだったりしてしまうのだ。

子どもたちはサッカーがやりたくて練習に来る。試合に出たいから練習にも熱が入る。でもその思いをどこまで受け止められているだろうか。どうか今一度この根底にあるべき命題と向き合ってみてほしい。

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【講師】中野 吉之伴/
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。
2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16の監督を務める。