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育成年代に関わる大人たちが知っておくべきこと/ドイツ国際コーチ会議で示された指導理論と新たな試合形式

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師はドイツサッカー協会の公認A級ライセンスを持ち、現地で育成年代の指導にあたる中野吉之伴氏。

毎年ドイツで開催される国際コーチ会議で示された新たな指導指針について、前編では、「低学年サッカーの見直し」と題し、世界基準、スタンダード、サッカーの原理原則を育成年代から落とし込むためにジュニア年代を指導する指導者が知っておくべき内容を解説していただいた。

後編では、実際にどのような試合環境が育成年代にとって適切かを紹介していく。

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子どもになぜそのミスが起きたのかを自分自身で考えさせることが大切

試合ではプレッシャーがかかる。「もっとよくみろ!」「ちゃんと考えてプレーしろ!」「どこ蹴ってるんだ!」そんな声が外から聞こえてくる。そんなことは子どもたちも分かっている。(文・写真=中野 吉之伴)

みんな「もっとよく見よう」「ちゃんと考えてプレーしよう」「味方にパスしよう」としている。でもできない。それは「もっとよく見よう」としても、どこを見ればいいのか分からなく、「ちゃんと考えてプレーしよう」としても、何をどのように考えればいいか知らない、「味方にパスをしよう」としても、いつパスをすればいいか身についてないからだ。

ボールを持った時に「もっとよく見て」「ちゃんと考えて」「味方にパスしよう」とするまで、相手選手はボールを取ってはダメというルールがあるわけではない。ボールがあるところに相手選手は取り返そうとやってくる。その前に準備をしておかないと慌ててしまうし、見ることも考えることもプレーすることもできない。

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ミスには様々な「なぜ」がある。そのなぜを考えなければ、いつまでも子どもたちと指導者や保護者との見えているものが共有されない。ただでさえ試合となれば子どもたちは様々なプレッシャーやストレスを受けながらプレーする。そこに加えて、自分たちが許容できない人数、広さ、長さ、複雑さでプレーするということは、単純に考えて大変すぎるではないか。

人間というのは物事を「認知」、「判断」、「決断」、「実践」というプロセスをたどりながら成長する。最初は一つひとつを確認しながら、「やっていいのかな?」「これは危ないかな?」と探りながら試すことが経験として蓄積されていくわけだ。生活習慣もそうやって身についていくものではないか。では、そのための環境がサッカーの現場に今どれくらいあるのだろうか。練習でも、試合でもそのプロセスをたどるための環境が準備されているだろうか。

ドイツのエアランゲン大学教授マティアス・ロッホマンはこの点を指摘する。

「世界中の現場でアンケートを取ってきた。その結果で分かったのは、トレーニングの80%が実践に関することにしか取り組んでいないということだ」

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子どもたちがそれぞれの年代にあったキャパシティの中で「認知→判断→決断→実践」ができる環境がないと、いつまでも子どもたちは指導者に操舵されるロボットか、ラジコンのままだ。では育成に関して大事な目的とは何だろうか。そうした操作される対象となることだろうか。

大人の圧力をかけすぎず、子どもがサッカーに思いっきり打ち込める環境作りが必要

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「選手としても、人としても、将来自立した生活ができるようになるための基盤作り」

それが育成で取り組まなければならない何よりも大事な点ではないだろうか。そのためにはそれぞれがあらゆる局面で「認知→判断→決断→実践」できるように支えてあげることが欠かせないではないだろうか。

どこから始めるべきか。それは最初からだ。小さな子どもたちが外からの圧力を受けることなく、子どもたちが子どもたちらしくサッカーと向き合い、安心して大好きなサッカーを思いっきり一生懸命できる環境を周りの大人が作ってあげなければならないのだ。

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今そういった環境は日本にはほとんどない。子どもたちを追い込んでどうする?子どもたちを恫喝してどうする?子どもたちをおびえさせてどうする?子どもたちの目から輝きを奪い去ってどうする?

子どもたちは"普通"に話しかければ普通に会話を交わすことができる。"普通"に伝えれば、ちゃんとそれを受け止めて考えようとする。それができない。子どもより先に大人が我慢できなくなってしまう。取り乱してしまう。本来"普通"であることが特別になってしまっていないだろうか。だとすれば、あまりにも悲しく、そこにあるものはあまりにもいびつだ。

誰のためのサッカーか。

そのためにできることは何だろうか。

伝統とは既存のフォーマットを無条件に継続することではない。そこに思慮が加わり、熟考が行われ、バージョンアップしていくことで形が作られていくものだ。間違いは認め、改善されなければならない。それが我々指導者や保護者が大人として子どもたちに伝えていく本来の姿ではないだろうか。

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COACH UNITED ACADEMY動画では、U9年代まで向けてドイツで取り入れられた出場時間やゴール体験をまんべんなく体験するための試合形式「フニーニョ」の紹介なども行っているので、ぜひご覧いただきたい。

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【講師】中野 吉之伴/
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。
2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-16の監督を務める。