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選手と指導者の理想的な関係性とは?/福富信也氏が提案する脱・トップダウン思考

COACH UNITED ACADEMY、今回の講師はチームビルディングでおなじみの福富信也氏。大学サッカー部の監督として指導現場に立ちながら、Jクラブや企業に向けたセミナーなどでも精力的に活動している。先ごろ「脱・トップダウン思考~スポーツから読み解くチームワークの本質~」という著書を出版した福富氏に「チームワークの高め方、在り方」について解説してもらった。(文・鈴木智之)

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指導者が果たすべき役割は「選手の目標達成を助ける」こと

2018年はスポーツの不祥事が相次いだ。アメフトの悪質タックル問題、体操、レスリングのパワハラ問題など、ネガティブな話題に事欠かない年だったと言えるだろう。

以前から、サッカー界は指導者養成の中で「暴力根絶」を訴えてはいるが、福富氏は「暴力に頼る必要がない、頼る価値がないというマインドを持つことが重要で、形だけ暴力を取り除いたとしても、精神的な支配や圧力が残っていては意味がありません」と断定する。

「スポーツにおけるパワハラ、暴力に向けられる目は年々厳しくなってきています。いかにして選手の力を発揮できるかという指導力が、ますます問われることになるでしょう」

選手を教え、導く立場である指導者。「コーチ」の語源は馬車であり、大切な人や物を目的地まで届けることから転じて、コーチには選手の「目標達成を助ける存在」という意味がある。

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福富氏は「主役は目標を持った選手であるべきで、指導者が名誉を得るための駒に選手がなってはいけないし、日常のストレスのはけ口になってはいけない」と言う。日本ではどうしても監督が上、選手が下という上下関係、主従関係になりがちである。いわゆる「トップダウン型」の指導だ。

福富氏の著書は「脱・トップダウン思考」というタイトルだが、「トップダウンにも魅力はある」という。

「優秀なリーダーが指示を出し、命令をすることで全体のレベルが引き上げられます。意思決定から実行のスピードも早いです。統率が取れ、足並みが揃うのも特徴です。指示が具体的で明確なので浸透しやすく、即効性や安心感があります。戦後の驚異的な復興もトップダウンでもたらせた面もあるでしょう。トップダウンは、優秀なリーダーのもとで、正解のある問いに対して強烈な効果があります」

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フットボールに"絶対解"はないが"最適解"が存在する

一方で福富氏は「トップダウンは不正の温床にもなりうる。選手の自主性を奪うことにもなりかねない」と警鐘を鳴らす。

「トップダウンはリーダーの限界が組織の限界になりやすいのです。リーダーが直面したことのない問題にぶつかると、組織が倒れてしまいます。また、近年はインターネットの発達で知識、情報の価値が極端に低下しています。リーダーだけが最新の知識を持っているわけではありません。選手が自分の力で、最新のサッカーを学べる時代です。指導者の持っている情報がすべてではないことを理解することが肝心です」

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さらに、こう続ける。

「トップダウン型の指導だけでは通用しない時代が到来しています。旧態依然としたトップダウンで、指導者が『俺の言うことを聞け』とやっていると、知識のある選手たちは『このリーダーはこんなことも知らないのか』となり、ついてこなくなることも考えられます。そうなると、雑音を力でねじ伏せてシャットアウトするしかなくなり、悪循環になりかねません」

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福富氏は「フットボールには絶対解はありません。最適解があり、それをチームの納得解にすることが重要です」と言葉に力を込める。

ここからは、チームの関係性をより良く、強固なものにするための考え方を紹介したい。

●心の安全を担保した環境づくり

・違う意見が出るのはあたりまえ。人は全員違う、ということを理解する。
・違いを束ねるのは目標やコンセプト。権力や威嚇ではない。
・このチームは、何に共感した集団なのか? それがそのチームらしさになる
・心の安全が担保された状態でこそ「ダイバーシティ」が生きてくる

「心の安全が担保されたチームは、成果をあげやすくなります。チーム内で活発な議論が出て、意思決定に関わった分だけ責任感が生まれるからです。期待感や絶対に成功させたいという思いが強いと、チームメイトが計画通りやっているかが気になり、互いにチェック機能が生まれます。そうなると、指導者が指示や命令、進捗確認をしなくてもチームは発展していくのです」

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動画ではこの他に「心の安全が脅かされる、4つの不安要素」なども紹介。関係の質、思考の質、行動の質、結果の質というダニエル・キムの成功の循環モデルを例に挙げ、「良いサイクルを回して、良いチームを作る」ための方法論について話している。良い例だけでなく、バッドサイクルも紹介しているので、自チームの関係性を顧みるのも良いだろう。

動画前編ではサッカーやビジネスの組織に求められる、チームワークの在り方について触れた。後編では、コーチがチームを成長に導くためのアプローチ方法、選手のマインドに対する向き合い方について、紹介していく。

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【講師】福富信也/
信州大学大学院教育学研修科修了(教育学修士)。
横浜F・マリノスコーチを経て、東京電機大学理工学部へ。専任教員として教鞭を執る傍ら、電大サッカー部監督として指導の現場に立つ。
JFA公認S級指導者ライセンスで講師を務め、北海道コンサドーレ札幌・ヴィッセル神戸など、Jリーグトップチームでも指導を行うほか、企業研修なども多数行うチームビルディングの第一人者。