TOP > コラム > 選手がチームの中で明確な役割を見つけるために必要なこと/福富信也氏が提案する脱・トップダウン思考

選手がチームの中で明確な役割を見つけるために必要なこと/福富信也氏が提案する脱・トップダウン思考

COACH UNITED ACADEMYでは、チームビルディングでおなじみ、福富信也氏の講義動画を公開中。先ごろ出版した著書「脱・トップダウン思考~スポーツから読み解くチームワークの本質~」をベースに、「コーチがチームを成長に導くためのアプローチ方法」について、解説してもらった。大学サッカー部の監督として、指導現場での数々の実体験から導き出された考え方を、ぜひ参考にしてほしい。(文・鈴木智之)

この内容を動画で詳しく見る

fukutomi02_03.png

<< 前回の記事を読む 

スポーツをする上で理解しておくべき「言語化の重要性」

動画後編では「リーダーとフォロワーの理想的な関係」「指導者がチームを成長に導くための具体的なアプローチ方法」など様々なトピックについて話が展開していくが、ここでは「選手が思考を深めていくことの重要性」を取り上げたい。

昨今、スポーツをする上での「言語化の重要性」に対して、多くの議論が行われている。福富氏は「言語化には二つの役割があります」と前置きし、説明していく。

「一つがコミュニケーションの手段。つまり、他者との対話です。そして二つ目が、自分自身の思考の深化。すなわち、自分と対話をすることです」

サッカーがチームスポーツである以上、コミュニケーションの重要性は言うまでもないが、チームが個人の集合体であると捉えた時に、個人レベルで言語化することの重要性が浮き上がってくる。

ikegami_column51_01-thumb-600x400-24242.jpg

「人間は疑問を持ち、答えを導き出す時に、頭の中で言葉を使っています。その際にどこまで深く疑問を持ち、掘り下げることができるか。つまり、どこまで言語ができるかが、思考を深めるための重要なポイントになるのです」

ここでひとつ、例を挙げる。

「例えば子どもに『宇宙って広いんだよね?』と聞かれたら『広いんだよ』と自信満々に答えますよね。だけど『どのぐらい広いの?」と聞かれたら、答えに詰まってしまいます。つまり、言語化に行き詰まった時が思考が止まる時であり、思考の限界と言えます」

たしかに、わからないことを聞かれると、言葉に詰まる。頭の中で考えてはいるが、結論が出ないので、言葉にすることができないのだ。

自分の強みや弱みを知るには、思考を深掘りし、言語化すること

福富氏は「思考を掘り下げていくこと」の重要性を強調する。

「思考に行き詰まってもそこで止めず、言語化するプロセスを経ることで、自己理解を深めることができます。自問自答や自己対話が、自分への理解を深めるのです。サッカーで言うと、自己理解を深めて、自分の強みや弱みをはっきりとわかっている人は、チームの中で役割を持つことができます。その選手が持つ強みが、役割になるわけです。そうすると、チームの中で機能することができます」

sports21_01-thumb-600x400-24361.jpg

自問自答し、自己理解を深める事で、他者との違いが明確になる。たとえば、「サッカー選手として、自分の特徴はなんだろう?」と自問自答したとする。そこで「特徴はスピードだな」と答えが出たとしよう。そこで終わりではなく、さらに一歩踏み込んで「スピードにも種類はいろいろある。自分のスピードはどんな特徴があるだろう?」と自己対話して思考を深め、言語化していく。福富氏は言う。

「思考を深掘りして、言語化すること。まずはこれをやってみてください。そうすると、自分のスピードの特徴は、初速が速いこと、加速が得意なこと、スピードに乗ったドリブルなど、より深めて考えることができるとともに、それが他の選手との差別化にもつながるのです」

fukutomi02_01.png

初速が速い選手であれば、ディフェンスラインの裏に飛び出すプレーで、チームに貢献することができる。加速が得意な選手は、長い距離のスルーパスに追いつくことができるだろう。スピードに乗ったドリブルが得意な選手であれば、前方にスペースがある状態で突破を仕掛けるといったように、自分の特徴をチームの中で役立てるイメージが湧きやすい。

「自問自答を繰り返し、自己理解を高めていくと、他者との違いが明確になります。集団の中で曖昧になっていた自分の輪郭が浮き出てくるのです。はっきりとした役割を担えるようになり、スタイルが確立できるようになります。結果として、集団の中での存在感が高まります」

fukutomi02_02.png

福富氏は「深い自己理解こそ、チームの一員として活動するための第一歩になる」と、言葉に力を込める。

「自問自答を繰り返しながら、自分の心のど真ん中にあるものを探り当てていく作業をしましょう。三つ、四つと自分に問いかけて、少しずつ深掘りしていくのです。自分のことが理解できれば、自分の考えを相手に誤解なく届けることができるようになるでしょう。そのような自立した人間になることが、チームとしての成長につながっていくのです」

fukutomi02_04.png

動画ではサッカーチームを例に挙げながら、スポーツにとどまらず、ビジネスの場や社会の一員として活動する上で役に立つ考え方を紹介している。「サッカーには社会課題を解決するヒントがある」と語る福富氏の講義の全容を、ぜひ動画で確認して頂ければと思う。サッカーチームだけでなく、様々な集団活動の場で役立つ考え方を学ぶことができるはずだ。

<< 前回の記事を読む 

この内容を動画で詳しく見る

【講師】福富信也/
信州大学大学院教育学研修科修了(教育学修士)。
横浜F・マリノスコーチを経て、東京電機大学理工学部へ。専任教員として教鞭を執る傍ら、電大サッカー部監督として指導の現場に立つ。
JFA公認S級指導者ライセンスで講師を務め、北海道コンサドーレ札幌・ヴィッセル神戸など、Jリーグトップチームでも指導を行うほか、企業研修なども多数行うチームビルディングの第一人者。