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限られた時間内で強度を高めていく練習の流れ/練習は必ず90分以内!スペインに学ぶ時短トレーニング

COACH UNITED ACADEMYではスペインサッカー協会の指導者資格レベル3(UEFA Pro相当)を保有する吉田和史氏によるスペインで実施される「基礎から応用をコンパクトにまとめる練習法」を紹介中。後編では、「短い時間で強度を高めていくトレーニング」と題し、75~90分のトレーニングの中でどのような練習メニューを行ってプレーの強度を高めていくのか。その方法を実践してもらった。(文・鈴木智之)

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パスを受ける選手は常に半身の状態を意識する

後編1つ目のトレーニングは「マルチロンド」から。日本では「鳥かご」と呼ばれる練習で、グリッドの中央にオニ(守備役)が入り、周囲にいる4人の選手でボールをポゼッションするというもの。しかし、ここでは「マルチ」という言葉からも分かるように、複数のグリッドを統合させ、一度に4箇所でロンドを実施していく。

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そのため、グリッドの接合面に立つ選手は、2つのグリッドを受け持つことになる。常に周囲を見て、プレーに関与し続けなければいけないので、体以上に頭が疲れるメニューだ。ルールとしては、パスはワンタッチかツータッチで行う。

パスを出す選手は、グリッドの接合面にいる選手がどのような体の向きで、どこを観て、どちらのグリッドのボールに関与しているかを、常に注意を払う必要がある。そして接合面の選手が、隣り合う反対側のグリッドを向いている場合は、パスを出す選手が相手の名前を呼んで意識を向けさせ、パスを出すという実際の試合に近い状況が作り出されている。

吉田氏は接合面にいる選手に対して、「常に首を回して、体の向きも変えよう」「ひとつのグリッドだけを見ない!」とコーチング。そして、グリッドの近くにボールを置いておき、プレーが途切れたらすぐにリスタートする。なるべくプレーを止めず、心拍数が高い状態をキープするのがポイントだ。吉田氏は「止まらない。練習を止めてはダメ」と伝え、常に動きのある状態で体と頭を動かし続けることの重要性を説いていく。

2つ目のトレーニングは「4対4(または4対4+1フリーマン)」。

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このトレーニングの目的は、サイドの選手にボールが入った時、周囲の選手はどこに動かなければいけないか?を考えてプレーすること。「サイドの選手にボールが入ったときに、どこにサポートに入るか」をテーマに、サポートの位置を細かくコーチングしていく。

吉田氏は「後ろ、横、前、サイドチェンジと、ボールを持っている選手が、パスを出せる位置に移動しよう」とアドバイス。ボール保持者の周りの選手に対して、「そこにいる理由があるんだからね」と、適切なポジションを常にとれているかを考えながらプレーするように促していく。

練習の最後に狭いグリッドでゲームを行い、強度を高める

3つ目のトレーニングは「7対7+1フリーマン」。3-3-1のシステムで行い、ここでも、ボール保持者の周囲にいる選手のポジショニングにフォーカスし、そこにのみコーチングを行っていく。

吉田氏はボールを奪われた場面でプレーを止め、「なぜボールを奪われた?」と攻撃側のチームに問いかける。「この状況はさっきの練習であったよね?」「仲間はどうしなければいけない?」と選手にたずねると、「横と逆サイド、後ろにポジションをとる」と答えたので、適切なポジショニングを指示。「近くにいればパスを受けやすいが、敵も近づいてくるよ」と簡潔にポイントを伝え、選手たちに適切なポジションを意識させていく。

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さらに、GKからのビルドアップの場面で、サイドでボール保持者と相手が1対1の状況になったところでプレーをストップ。ボール保持側のチームに対し、「サイドで1対1の状況なるのは良いこと、悪いこと?」と質問。そして、「1対1の状況はボールを奪われる可能性があるので、敵陣では思い切ってプレーしていいけど、自陣ではしないように」と、プレーエリアに応じて、適切なプレーの選択をするようにアドバイスを送っていく。

さらには「GKがDFにパスを出した時に、周囲の選手の配置が変わっていないこと」を指摘。どうやって動けばいいかを細かくコーチングしていく。

「GKとのパスコースの間に周囲のDFは入らない。同じラインに人が2人いるのは、1人しかいないのと同じことだから。1人は縦、もう1人は横にサポートし、複数のパスコースを作るように。さっきの練習と同じだよ。サイドでボールを持ったら、後ろと前と横にパスコースを作ろう」

練習の最後は「5対5+GK+5フリーマンのトライアングルマッチ」。

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ゴールとゴールの距離が近いミニゲームでプレー強度を高め、トレーニングを締めくくる。マンマークなので、局面で激しい競り合いが生じるのもポイントだ。

「点が入った後に、GKから素早くリスタートする」「チームの入れ替わりを速くする」というルールを設定。プレー強度を高く保つとともに、グリッドが狭くプレッシャーが速い中で、これまでのトレーニングでやったことができるかを確認していく。

この日、実演してもらったのは、およそ90分という短い時間にも関わらず、テーマを絞って、段階的に複雑にしていくとともに、常に頭と体を動かすことが求められるトレーニングだった。短時間ながら高いプレー強度を保つことで、十分に効果のあるトレーニングとなっていた。最後に吉田氏から、COACH UNITED ACADEMYの読者に向けて、メッセージが送られた。

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「スペインでは、どのチームもクラブで練習するため、75~90分しか、練習時間がありません。この中でテーマをまとめて、強度の高いトレーニングをするのは大変なことです。今回は複数のメニューに分けてしまいがちな練習を統合し、プレー強度を高めるトレーニングであり、テーマを共通して発展させていくやり方を紹介したので、ぜひ練習の参考にしてみてください」

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【講師】吉田和史/
イタリアに4年、スペインに16年在住し、2007年にスペインサッカー協会の指導者資格レベル3(UEFA Pro相当)を取得。
バルセロナ市内で2003年より9才から社会人チームの第1監督を歴任し、日本人では初めてカタルーニャ州ジュニアユース2部リーグ、ユース3部リーグ、社会人7部リーグの監督を務める。
現在はバルセロナ近郊のマリアナオ・ポブレ ジュニアユース(カタルーニャ2部)の監督を務めている。