05.11.2020
試合や練習でコーチが見るべきポイントとは?/元横浜FM監督が考えるU-12年代へ向けた練習メニューの構築方法
『サッカー指導者のためのオンラインセミナー「COACH UNITED ACADEMY」』、今回の講師は木村浩吉氏。横浜F・マリノスやJFA(日本サッカー協会)で長く育成年代を指導し、マリノスではトップチームの監督を経験するなど、グラスルーツからプロ選手まで、幅広く知る人物だ。動画前編のテーマは「コーチが見るべきポイントとアレンジ法」。ジュニア年代の指導について大切なことが詰まっている動画なので、ぜひ参考にしてほしい。(文・鈴木智之)
ジュニア年代の指導で大切なのは、「サッカーの楽しさ」を伝えること
COACH UNITED ACADEMYでは、年末に指導者座談会を行い、ジュニア年代のコーチやボランティコーチの悩みとして多かった事柄に対して、木村氏にアドバイスをしてもらった。木村氏は「U-12年代の指導者を対象に、皆さんから頂いた質問を元にテーマを決めました」と話し、こう続ける。
「いまの時代は、インターネットで様々な情報が手に入ります。良い時代になった反面、サッカーはシンプルなスポーツなのに、難しく考えてしまってはいないだろうか? と感じることがあります。サッカーは本来、シンプルなスポーツです。その根本を伝えていければと思います」
木村氏が横浜F・マリノスのトップチームの監督をしていた頃、チームでは「ENJOY, GROWING,VICTORY」というスローガンを掲げていたという。
「選手たちには、『サッカーの楽しさを伝えてほしい』と言いました。楽しく、成長して、勝っていこう。その気持ちがぶれないように、ロッカールームやクラブハウスの廊下にスローガンを貼っていました。ジュニア年代の指導者の役割として一番大切なことは、子どもたちにサッカーの楽しさを伝えることだと思います」
木村氏はだからこそ、「指導者のみなさんも楽しんでほしい」と言葉に力を込める。
「子どもの成長を見ることができたり、トレーニングの成果が出たり、できないことができるようになると楽しいですよね。その中で選手の自立を促していくことが、指導者の役割だと思います」
動画では、指導者から寄せられた以下のQ&Aを踏まえて、話が展開していく。
・良いトレーニングとは?
・トレーニングの作成方法は?
・トレーニングがうまくいかないときのアレンジ法は?
・トレーニング中のコーチの立ち位置は?
・トレーニング時の選手との距離感は?
・トレーニング中は何を観る?
「選手たちは何ができて、何ができないのか。何を修正し、何を伸ばすのか。指導者が練習や試合から何を感じるのか? それを考えることが"分析"です。分析というと難しく聞こえるかもしれませんが、まずは上記のようなことだと受け止めてもらえばOKです」
木村氏は「それがわからないと、いきあたりばったりのトレーニングになります。そして、分析を間違えると、トレーニングの方向性も間違えてしまいます」と注意を呼びかける。
「たとえば、試合で1点も取れずに負けてしまったときに、『じゃあ、シュート練習をしよう』という流れで良いのでしょうか? その試合でシュートを1本も打てなかったのであれば、シュートに至るまでのパスやドリブル、ボールを運ぶところにミスがあった可能性が高いです。その分析を間違えると、本来すべきことと違う方向に行ってしまうので気をつけましょう」
「4つの特徴」を知ることが子どもたちを上達させる
続いて、ひとつの映像を紹介。小学1年生のサッカーを始めたばかりの子たちが、四角形でパスの練習をしている様子だ。木村氏は「子どもたちは楽しそうにやっていましたか?」と問いかける。
木村氏自身、子どもの頃の単純な反復練習が苦痛だったというエピソードを披露し、それが嫌で、サッカーを辞めてしまった友達がたくさんいたという。
「子どもを預かる、大人の責任は重大です。99%はプロにはなれませんが、サッカーをやっていて楽しかった、仲間と協力できて良かったという記憶は、大人になっても残ります。楽しいからサッカーを始めたわけで、その楽しさを忘れさせてはいけないのです」
子どもたちにサッカーの楽しさを感じてもらい、上達させるためには「子どもたちの特徴」を知ることがポイントになるという。それが、以下の4つだ。
<子どもたちの特徴>
1、運動欲求がある
「子どもたちは、動きたくてグラウンドに来ます。子どもたちを集めて、ずっと喋っている指導者がいますが、肝心の子どもたちはというと、まったく聞いていません。子どもたちはボールに触りたい。ゴールしたいんです。だから、大人の話はなるべく少なくして、子どもたちにたくさん運動させましょう」
2、競争が好き。
「トレーニングがうまくいっていないと感じたら、競争させるのもひとつの方法です。ドリブルで競争させて、『ボールを素早く、たくさん触ろう』など、シンクロしながらコーチングするのも良いと思います」
3、真似をする
「子どもたちはメッシやロナウドの動画を観て真似をしています。サッカー経験のある指導者はデモンストレーションをやって見せ、できない指導者は、上手な子を見つけて『この子のようにやってみよう』と、モデルとしてやってもらいましょう」
4、ちょっとだけ難しいことにチャレンジする
「跳び箱は1段から始めて、2段跳べたら3段というように、ちょっとずつ難しいことにチャレンジしていきます。それをサッカーに置き換えると、コーンドリブルであれば『もうちょっとスピードを上げてドリブルしてみよう』『右足だけでなく、左足でもやろう』『インサイドだけ、アウトサイドだけやってみよう』などと言って、少しずつ難易度を上げていきます。子どもたちの技量を把握して、少し難しいことにチャレンジさせます。この塩梅が、難しいところです」
動画では他にも、子どもたちが持つ承認欲求についてや、「試合でどこを観るのか」なども紹介。「まずは全体を観てから、3対3、2対2、1対1などの局面を観て、最後に個人を観る」といった流れをレクチャーするとともに、経験が浅いコーチの悩みとして多い、トレーニングがうまくいかなかった場合のアレンジ方法など、具体的なメニューも伝えている。
理論と実践の流れがわかりやすい構成になっているので、コーチ個人としてだけでなく、チームの指導者全員で観ることをおすすめしたい動画だ。
【講師】木村浩吉/
日産自動車で選手として活躍後、1995年に横浜マリノスをヘッドコーチとしてチャンピオンシップ優勝に導く。1996年からはトップチームを離れ、クラブの育成・普及部門で長年指導。2008年には横浜F・マリノスのトップチーム監督に就任した。
その後はJFAナショナルトレセンコーチを経て、JFAからの派遣でラオス代表監督などを歴任。JFA技術委員や世代別代表の統括責任者を務めるなど、長年に渡り日本サッカー界の育成や指導者養成に携わってきた。JFA公認S級ライセンス所持。
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取材・文 鈴木智之