02.12.2019
日本が見習うべき海外の育成年代が行う練習の基本コンセプト/エンゲルス流・個々の武器を生かす育て方
COACH UNITED ACADEMY、講師は2019年から京都サンガF.C.のトップチームコーチに就任しているゲルト・エンゲルス氏。
1990年にアセノ・スポーツクラブ(水戸ホーリーホックの前身)の選手およびコーチとしてドイツより来日。滝川第二高校のコーチを務めた後、横浜フリューゲルス、ジェフユナイテッド千葉、京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C.)、浦和レッズでコーチや監督を歴任し、天皇杯、Jリーグ、AFCアジアチャンピオンズリーグを制した実績を持つ。
その後は日本を離れてモザンビーク代表監督に就任したが、昨年2018年にヴィッセル神戸のヘッドコーチを務めるために再び来日。2019年からは京都サンガF.C.のトップチームコーチに就任している。トップチームでの経験が目立つエンゲルス氏だが、過去には日本の育成年代を視察している姿を何度も目撃されており、日本の小中学生の事情などにも詳しい。そんなエンゲルス氏が今回、自身の指導論を明かした。(取材・文:内藤秀明)
日本のスポーツをプレーする意識が高い部分は素晴らしい
まずエンゲルス氏は日本の優れている部分について語った。
「老若男女問わず能動的にスポーツをプレーする意識が他の国よりも高い印象がありますね。減ってきているとはいえ基本的な体の動きをする機会もまだありますし、だから元気な人が多く運動神経も平均的に高いと思います。先程申し上げたような国民のスポーツに対する前向きな姿勢は、間違いなく好影響を及ぼします。例えば日本の運動会はその最たる例です。ドイツも日本の運動会のようなイベントが稀にありますが、両親が子供の運動会を観に参加して子供の動きをカメラで撮影するなんて光景はめったに見られません。50mや100mのタイムを計測するくらいですからね」
昨今は外遊びが減っているため、体の動かし方がわからない子どもが増えてきていると言われている。そういう意味では日本の子どもたちはコーディネーショントレーニングなどが不足しているという見方も強いが、エンゲルス氏は、日本にはまだまだ良い文化が残っていると捉えていた。
ゴールを意識させるトレーニングを増やすべき
「日本の育成年代の1番の問題点は、練習の内容や根本的なアイデアの部分だと思います。基本的な技術や動きを徹底的に学ぶ機会が多いと思うのですが、ヨーロッパの子どもたちは最初からゲームに近い練習もしくはゲームからスタートしています。それでうまくいかなかった基礎技術に関しては、補足的に練習します。私が代表監督として訪れたモザンビークなどアフリカの子どもたちは今でも14歳くらいまでクラブの下部組織等には入らず、外でストリートサッカーのみでプレーしている場合がほとんどです」
「ただ彼らはストリートサッカーから、サッカーは『ゴールとゴールの間』でプレーするものだと無意識的に学びます。結果ゴールを意識してプレーすることができています。今では日本にも様々な情報が入っているとは思いますが、それでもまだゲーム性のトレーニングが足りないと感じています」
とゲーム性のトレーニングのウェイトを増やすべきと繰り返し語った。
小学生年代の育成における「ゲーム」の重要性とは?
「具体的には、コーチ研修の講師をさせていただく際などにも言っていますが、『複雑な練習を考えるよりも4vs4でやらせた方が良い』と考えています。基本的なことですがゲームでは常にプレッシャーがかかった状態でプレーが行われるので、パスミスやトラップミスなど自分の苦手なプレーが明確になります。その部分をゲーム形式の練習の後で重点的に練習していけばいいですし、ゲームの中ではパスやドリブルなどプレーの選択を意識させることができるというメリットがあります。何より試合の目標は最終的に点を取ることですから、ゴールに向かう意識を高める上でもゲーム形式の練習は効果的ですね」
とゲーム中心にトレーニングを組み立てるメリットを改めて語った。
「先程ストリートサッカーで自分の実力を伸ばす南米やアフリカの選手の話をしましたが、対照的にドイツでは若い頃から育成を受けてメキメキと頭角を現した選手もいます。ですが、そういった選手の話を掘り下げて聞いていくと、やはり小さい頃にゲーム形式に近い形で遊んでサッカーを覚えた選手が多い印象です。ゲーム形式の練習を取り入れることで選手の意識と実践力を高めることができます」
もちろん100%ゲーム形式にする必要はないが、まだまだ日本の子供たちには試合が足りていないのかもしれない。この後エンゲルス氏は、子どもの武器の見つけ方や体の使い方を覚える方法などについて語っている。日本の良さを殺さずに武器を育てるには、どのようなアプローチが必要か、動画視聴を通じて学べるはずだ。
【講師】ゲルト・エンゲルス/
1990年にアセノ・スポーツクラブ(水戸ホーリーホックの前身)の選手およびコーチとしてドイツより来日。滝川第二高校のコーチを務めた後、横浜フリューゲルス、ジェフユナイテッド千葉、京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C)、浦和レッズでコーチや監督を歴任し、天皇杯、Jリーグ、AFCアジアチャンピオンズリーグを制した実績を持つ。その後は日本を離れてモザンビーク代表監督に就任したが、昨年2018年にヴィッセル神戸のヘッドコーチを務めるために再び来日。2019年からは京都サンガF.C.のトップチームコーチに就任している。
取材・文 内藤秀明