07.20.2020
自ら努力する選手を育てる3つのアプローチ方法/夏季五輪メダル獲得最多国が実施するクオリティコーチング
どのようなアプローチで選手の成長を導いていくのか?これはすべてのコーチにとって、永遠のテーマと言えるだろう。
『サッカー指導者のためのオンラインセミナー「COACH UNITED ACADEMY」』では、アメリカの大学院でスポーツ心理学を学んだ、メンタルトレーナーの伴元裕氏による「アメリカに学ぶ 選手を夢中にさせる"クオリティコーチング"」の理論と実践を紹介中。夏季オリンピックのメダル獲得数最多のアメリカが実践する理論をベースとした、伴氏の考え方を紹介したい。(文・鈴木智之)
クオリティコーチングを実践するための「7つの基本原則」
動画前編では、アメリカのオリンピック委員会が提唱する「クオリティコーチング」の理論をお伝えした。まずはクオリティコーチングを実践するための、7つの基本原則をおさらいしておこう。
●7つの基本原則
・成長レベルに合った目標を共に設定する
・選手に主体性を与え、提案を促す
・指導における決断の理由を説明する
・選手の目標への進捗具合や成長に気づく
・ポジティブで協力的なフィードバックを送る
・選手一人ひとりのニーズに耳を方向け、満たす努力をする
・選手の日常生活における悩みを気にかけ、解決の支援をする
伴氏は「この7つの基本原則を実行に移すための、3つの具体的なアプローチを紹介します」と述べ、次の3つの『クオリティアクション』を挙げる。
1:WATERサイクル(成長を促す、水やりプロセス)
2:COMPASSION(思いやりは叱責を凌駕する)
3:評価基準LEAP(プロセス評価が飛躍を促す)
今回は3つのアクションの中で、ベースとなる「WATERサイクル」にフォーカスして話を進めたい。
選手に練習後の理想の姿をイメージさせてから練習を始める
伴氏は「子どもは、指導者が情報や方法を詰め込む容器ではなく、自ら育っていく木ととらえることで、成長をうながします。情報を詰め込むのではなく、木が伸びていくために水をやるイメージです」と前置きし、「WATERサイクルを回すことで、意欲、集中力、自信を身につけた状態で練習に臨むことができます」と語る。
WATERとは、次の単語の頭文字をとったものだ。
Wish=どうなれたら最高?
Action plan=そのために、どんな行動がとれそう?
Take action=実際に行動してみよう
Encourage=ほめる、励ますことで応援する
Reflec=振り返り
「まず、練習前に『今日の練習はどうなったら最高?』『練習後、どうなっていたらいい?』と問いかけ、子どもたちがイメージするように働きます。指導者が『今日の練習はこれをやるぞ』『これを目指せ』と押しつけ、与え続けると、子どもたちの想像力が発達していきません。目的意識を定め、意欲、モチベーションを高めるためにも、Wishから始めることが大切なのです」
Wishでどうなりたいかをイメージさせたところで、次に「そのために、どんなアクションができるか?」を考える。それがAction planだ。
「子どもたちに『自分が思い描く姿になるためには、どんなアクションができそうかな?』と会話をしてあげてください。そうすると、『こんなことをやってみようかな』と子どもの方から意見やアイデアが出ます。もし出ない場合は『これをやってみたらどう?』と提案してあげてください。そうすることで、練習中に『何に集中すればいいのか』がわかるようになります」
なにをすべきかが理解できたところで、アクションを起こす(Take action)。その際、選手に自信を持たせ、プレーの後押しをすることは、指導者の重要な役割のひとつだ。
「選手を励まし、ほめることで自信が芽生えます。意欲や集中力をサポートするために、指導者が励ましの言葉をかけることが、Encourageです」
WATERサイクルを回すことでプロセス思考になる選手を育てられる
最後に、やりっ放しではなく、しっかりと振り返り、成果や反省を次につなげる。それがReflectである。
「やったことをそのままにして終わりではなく、学びの収穫をしましょう。『今日はどうだった?』『どれぐらいできた?』『なぜそれができたんだろう?』『(できなかったときに)次回はどんなことをしてみる?』と問いかけることで、それまでとは違うアプローチ、オプションを考えるようになります。起こした行動から学びを得て、次への活用に結びつけられたのならば、それは成長と言えるのです」
伴氏は「WATERサイクルを回すことで、自分はこうなりたい、そうなるためにはこういうことをするんだという思考が出来上がっていきます。そうなると、コーチが介入する必要がなくなります。『今日も頑張っているね』と言ってあげるだけでいい」と笑顔を見せます。
「最初はサイクルのスピードは遅いかもしれませんが、選手たちは次第に情熱が生まれ、プロセス思考になり、勤勉さ、チームワーク、スポーツマンシップを学んで、レベルアップしていくので、ぜひやってみてください」
動画では、プロ選手に対するWATERサイクルの実例を紹介。ほかにも、3つのサイクルの残り2つ『COMPASSION(思いやりは叱責を凌駕する)』『評価基準LEAP(プロセス評価が飛躍を促す)』についても詳しく説明しているので、興味のある方はぜひ動画をご覧いただきたい。
最後に、伴氏がCOACH UNITED ACADEMY会員に、メッセージをくれた。
「今回、お伝えした内容を指導時に意識してもらえたら、選手たちが自ら努力して、伸びていく現象が現れます。コーチは選手に対して、情報を詰め込むのではなく、木を伸ばすための、ポジティブな関わり方をしてあげてほしいと思います」
【講師】伴元裕/
7年間の商社勤務後、アメリカが取り組む心理面での育成方法を学ぶため米国デンバー大学大学院にてスポーツ心理学を修了。在学中、メジャーリーグサッカーコロラドラピッズのユース向けメンタルトレーニングに従事した。現在は、中央大学客員研究員としてスポーツ指導に関する研究を行いながら、アスリートへのメンタルトレーニングやこどもたちを対象にしたスポーツを通したライフスキル教育を行っている。NPO法人Compassion代表理事。
取材・文 鈴木智之