10.26.2020
GKに必要なコーチングやキャッチングの習得方法/U-9~10年代にGKの重要性や基本技術を教えるトレーニング
COACH UNITEDの系列サイト「サカイク」では、育成年代の選手向けにキャンプやクリニックを実施している。今回は、その中から多くの高い評価を得ている、昨年までサンフレッチェ広島のGKコーチを務めた澤村公康コーチによるGKクリニックの内容を紹介したい。
テーマは「U-9~U-10年代から身につけたいGKの声の出し方と基本技術」。日本代表選手からジュニアまで、すべての年代のGKの指導経験を持つ澤村コーチによる「GKプレーの本質」に迫りながらのトレーニングは必見だ。(文・鈴木智之)
フィールドプレーヤーの目線を持ってGKを体験してみることが大切
この日のクリニックの参加者は小学3、4年生。GK専門の子もいれば、フィールドプレーヤーと掛け持ちをしている子もいる。澤村コーチは集まった子どもたちを前に、次のように話を始めた。
「フィールドプレーヤーは、相手ゴール前でGKと勝負をします。今回、トレーニングをしてみて『GKからすると、こういうシュートは受けやすいんだ』『こういうシュートは受けにくいぞ』と、普段とは反対の立場も勉強してもらえたらと思います」
さらに、「DFをやっていて、GKがハイボールやスルーパスに出てきて対応してくれたら、すごく守りやすいよね。今回、GKのトレーニングをすることで、GKがどんな気持ちでプレーしているのか。DF目線で勉強してみてほしい」と話し、「GKは重要なポジション。いろんなコーチや仲間から、たくさんのことを学ぶことができるので、良い時間にしよう」とメッセージを送り、トレーニングがスタートした。
前編のテーマは「GKに必要なコミュニケーションと声、セービングの習得」。シュートを打たれたときの準備の仕方や開始姿勢を学び、セービングは正面付近に飛んできたボールに対するオーバーハンドキャッチ、アンダーハンドキャッチ、グラウンダーのキャッチに取り組んでいく。
最初はウォーミングアップから。澤村コーチが笛を吹き、その回数と同じ人数のグループを作っていく。「笛がピッピッピッと3回鳴ったら、3人組を作って座ろう」(澤村コーチ)
このルールは、耳で聞いて判断し、周囲にいる選手と声をかけあって、素早くグループを作るコミュニケーションが求められる。認知、判断、そしてコミュニケーションに働きかけるウォーミングアップだ。
さらには澤村コーチが1から4の数字を言い、その数字に合わせて、右手を地面につける、左手を地面につける、両手を地面につける、2人組でジャンプしてハイタッチをするというルールで実施。ほかにも、選手に番号を振り、番号順に相手を捕まえていく鬼ごっこを経て、心と体を温めていった。
シュートストップのポイントはポジショニングと手を構える位置
ここからは、ボールを使ったキャッチングのトレーニングに移っていく。まずは「ハンドパス(6人)ボール1つ」から。ルールとしては、グリッドの中で相手の名前を呼んでハンドパスを行う。
しばらく実施したところで、澤村コーチが全員を集めて、キャッチ時の手の使い方をレクチャーしていく。
「胸から上のボールは『オーバーハンドキャッチ』を使います。このときに、両手で三角形を作ってキャッチするやり方がありますが、そうすると脇とひじが開きます。試合中、相手とぶつかったときにファンブル(ボールをこぼす)する可能性があるので、指をWの形にした『ダブルフィンガーキャッチ』をするのも良いと思います」
澤村コーチは一通りの実演したところで、子どもたちに質問を投げかける。
「捕れたらいいなと思ってボールをキャッチするのと、絶対に捕るんだという気持ちでキャッチするのとどっちがいい? 強い気持ちで捕った方がいいよね。それを意識しながらやってみよう」
その後、グループごとにキャッチ時の手の使い方をあらためて学び、次はボール2個でキャッチトレーニングを実施していった。
続いては、お腹付近のボールやグラウンダーボールのキャッチとバリエーションが増えていく。
澤村コーチは「頭上、左右、グラウンダー、どこにボールが飛んできても反応できるような足幅を意識しよう。手はどこの位置で構える? ボールがどこに飛んできてもいいように、腰のあたりで構えよう」と実演を交えながら、簡潔に説明していく。
シュートストップのポジショニングでは、ゴールのどこにGKが立つと、キッカーは蹴りづらいかを説明。GKがゴールの中央で構えたときと、左右どちらかの偏った位置で構えたときの違いを実演するとともに、キッカーは「空いているコース」をどう認識するかをレクチャーしていく。
「GKがゴールの真ん中に立てば、キッカーは『どこを狙えばいいんだろう』と迷います。でも、GKがゴールの右か左に偏って立っていたら、空いている方を狙いやすくなるよ」
GKが味方に指示を出す方法は全部で3種類
基礎的なキャッチ、ゴールに立つ位置、開始姿勢をトレーニングしたところで、続いては「コーチングとコミュニケーション」に入っていく。
まずは澤村コーチとアシスタントコーチがゴール前の局面を実演。ここでは、キッカーに対して味方DFが寄せに行き、ボールを奪う、あるいはシュートを打たせないという状況でデモンストレーションを行った。
デモンストレーションではGKが味方DFに対して、「寄せろ!」とコーチングをすることで、キッカーのシュートを足に当ててブロックした。これもGKのファインプレーである。
「コーチングには3種類あります。それが、声、ボディランゲージ、アイコンタクトです。声を出すときは、味方に対して簡潔に、わかりやすく出そう。ボディランゲージでのコミュニケーションは、たとえば味方からバックパスをもらうときに、右側にほしいのか、左側にほしいのかを、手を使って指し示すこと。アイコンタクトは、味方へパスを出すときに目線で「出すぞ」と意思疎通をしてからパスを出すと、連携ミスを防ぐことができます。この3つのコーチングを意識して、実際にやってみよう」
澤村コーチとアシスタントコーチが作り出す、熱のこもった雰囲気に、子どもたちのプレーに積極性が増していく。そしてグラウンドには「ナイス!」「いいね!」という、コーチの声が響き渡った。
「普段、子どもたちは(自分のチームで)褒められることよりも、ミスを指摘されることの方が多いと思います。私のGKクリニックでは、GKの楽しさを知ってもらうためにも、良いプレーが出たら積極的に褒めることを心がけています」(澤村コーチ)
後編ではローリングダウン、シュートストップの様子を紹介したい。
【講師】澤村公康/
1971年、東京都大田区出身。三菱養和サッカークラブ、仙台大学を経て、指導の道に入る。熊本県立大津高校、浦和レッズアカデミー、JFAナショナルトレセンコーチ、川崎フロンターレアカデミー、浜松開誠館中学校・高等学校、ロアッソ熊本を経て、2019年シーズンはサンフレッチェ広島のGKコーチとして大迫敬介の才能を開花させた。2020年より拠点を東京に移し、GKスクールを立ち上げる他、大学チームの指導に当たっている。
取材・文 鈴木智之