11.09.2020
「怒り」は絶対悪ではない?自身の感情と正しく向き合う方法/選手が伸び伸びとプレーできる環境作り
近年では「子供は褒めて育てるべき」という考え方が日本中に広く認知されて久しい。この考えは一面的には正しい。一方で子供との向き合い方はケースバイケースであり、必ずしも正解はない。だからこそ「怒る」ことが絶対悪であるかのように認識されると、それは過ちでもあるのだ。
実際には、時には子供に対して叱る必要はある。ただし難しいのが、サッカーの指導や子育ての現場には、思い通りにいかないことが本当に多い。そのため、本来は子供のため思っての対話が、自身の感情の爆発に繋がってしまうことも多々あるのが難しいところである。子供のためを思っても、無意識のうちに子供の『心理的な安全性』を脅かしてしまうと、意味がない。
「COACH UNITED ACADEMY」では、精神科医として病院に勤務する傍ら、健康スポーツ産業医としても活動し、パラリンピックサッカー日本代表、北海道コンサドーレ札幌のアカデミーなどのメンタルアドバイザーとして活動する木村好珠氏に子どもたちを怯えさせず、それでいて指導者側の考えを伝える方法論を解説してもらった。(文・内藤秀明)
前編の動画では、「怒り」とはどのような感情なのか。あるいはコントロールの難しいその感情にどのように向き合い、どのように子どもたちの成長を促すかの方法論である「アンガーマネジメント」についてを語っている。
怒りとは二次感情
まずはじめに木村氏は「怒り」という感情について以下のように語った。
「まず一般的には『怒ること自体をあまりよくないことだからもう怒ることをやめよう』というイメージの方が多いのですが、それは違います。『怒ること=悪いこと』ではありません」
「怒りはそもそも二次感情で、『不安』『寂しい』『辛い』というような負の感情が、怒りとして出ていきます。例えば小さい子供が、母親は見えなくなった時に「いやだ!」と怒りっぽく言うのは『不安』や『いて欲しい』という寂しい気持ちからです。これは子供でも大人でも同じことですよね。サッカーの現場でも、もし指導者が『なんでできないんだよ?』『あのプレーはなんだ!』と怒りながら言った場合、そこには『本当はもっとこの選手できるのに』とか『もっと上手い選手なのに』という気持ちが入っていますよね」
普段気にすることもなかった「怒りの性質」
まず怒りとは何なのか、また怒りにはどんなメッセージが隠されているのかを説明した後はその怒りの伝わり方について説明している。
「実は、怒りには性質があります。まず『上から下へ』に発生します。上と下って関係性をつけるのはあまりよくないかもしれないですが、お父さんお母さんと子どもがいたらどうしても年齢的にも、立場的にも、両親が上で子どもが下になる。サッカーチームでもコーチは基本的に教える側だからコーチが上で選手が下になるので、怒りは発生しやすいですよね」
「そして『他の感情よりも伝染しやすい』という側面もあります。この性質の起源は人間が狩猟民族だった時代に遡ると言われています。狩りをする時には、楽しい、嬉しいなどの感情より、怒り、悲しみ、苦しみなど負の感情を素早く伝える必要があります。結果、怒りなどの爆発的な感情は他の人に伝染しやすいようになっているそうです」
と解説。続けて3つ目、4つ目の性質について、
「また『身近な人になればなるほど、強くなる』『共有する時間が長いほど、強くなる』という性質もあります。これは今までの経験の中もあると思うんですが、他の人だったら怒らないはずなのに、例えば自分の親だったら『うるさい!』とかそういう風に言ってしまうことはあります。やっぱり近いからこそ言えるものがあるんですよね。
だからこそコーチだと、4月に子どもたちが新しく入ってきたばかりの時だとあんまり言えないのに、何年も一緒にいたら『何してんだよ!』とか簡単に言ってしまうようになる。それは関係性として色んなことを言えるっていう部分ではいいことでもあるのですが、やはり怒りが強くなりすぎると、気が付いたら選手を委縮させてしまう。あるいは、分かってくれると思って強く語った言葉が、子供にとっては怒りとして伝わってしまうこともあります」
と明かしている。
前編動画ではこの後も「悪い怒り方はどう悪影響が出るのか」「悪い怒り方の4条件」「いい怒り方はどのように選手に作用するのか」「パーソナルスペースから考える怒ってはいけない立ち位置」「コーチとして選ぶべき言葉の選択」などを語っている。サッカーの指導者としてだけでなく、一人の親としても学びが多い内容になっているので、ぜひ動画で全容を確認してほしい。
【講師】木村好珠/
東邦大学医学部卒。都内大学病院にて研修後、精神神経科に進む。現在は都内、静岡の精神科で勤務する傍ら、産業医、健康スポーツ医として活動。大人のスポーツメンタルと共に、育成年代のスポーツを通したメンタル教育の普及に積極的に取り組んでいる。 具体的には、 東京パラリンピックブラインドサッカー日本代表、北海道コンサドーレ札幌アカデミー、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミーなどでメンタルアドバイザーとして活動中。
取材・文 内藤秀明