02.22.2021
成長痛は「休めば治る」わけではない。予防のポイントは「正しい起立姿勢」を理解すること
サッカーを楽しくプレーする上で欠かせない条件は何か? それは間違いなく、「ケガをしない」ことだ。しかし、日本ではジュニア期から成長痛を抱える選手が多く存在する。そもそも成長痛はケガだから、その状態で最大限の実力を発揮することも、100%集中した練習を行うこともできない。
「サッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』」では、「成長痛とパフォーマンスの関係」を人体構造から研究し、「アシトレ」という独自メソッドを構築してジュニアからプロまでの選手を数多くサポートしている治療家の染谷学氏にその内容を紹介してもらった。(文・木之下潤)
人体解剖学的な動作の原点は「起立姿勢」
まず、前編のテーマは「痛みと姿勢」について。成長痛の原因は何か、何を改善すれば成長痛を治すことができるのだろうか?
「成長痛はケガです。休むだけでは治らないし、根本の改善にはつながりません」
治療家の染谷学氏はそう語り、「最近は成長痛がケガという認識が薄まっています」と危機感を示す。ジュニアサッカーに限らず、他のスポーツでも成長痛という総称で広く認知されたがゆえに、コーチや保護者がケガにも関わらず、「休めば治る」と素人診断して悪化していくケースも増えているようだ。
そもそも成長痛とは何か?
・オスグッド病(膝痛)
・シーバー病(踵痛)...etc
痛む部位によって正式な病名があるのに成長痛と呼ばれると、単なる痛みなのでケガという認識が低くなる。しかし、痛みの原因となるものには、大きく5つの因子があるという。
1.成長期に起こる痛み
2.接触によるケガ
3.非接触によるケガ(何もないのに転ぶ、バランスを崩す...)
4.使用過多(オーバーユース)
5.不良姿勢など
何かしらの痛みがあって病院に行くと、医師はその原因を通常1~3で探り、スポーツ専門医でも4にとどまることが多いそうだ。ただ染谷氏は成長痛に起因する要素として、その多くのケースが「5.不良姿勢」だと挙げている
「人間の動きはすべて人体解剖学に基づいています。だから、ケガについてはどこに、どんな不具合を起こしているかが発見できないと、根本的な治療や改善を施すことはできません」
染谷氏いわく、人体解剖学的な視点で成長痛の原因を探すと不良姿勢、つまり「姿勢の不具合による歪んだ動きが無駄な使用過多をまねき、その多くを占めることになる」という。昨今は、例えば「シュート時の姿勢」「ステップ時の姿勢」など競技姿勢にばかりが取り上げられるが、「人間が二足歩行でバランスと取って生活している」点から起立姿勢に着目している人は少ない。
ここに歪みが生じていれば無駄な動作、無駄なストレスが加わり、当然ケガのリスクが高まる。だから、サッカー選手が何より最初に身につけるべきは「起立姿勢」。ここが二足歩行である人間の原点、すべてのアスリートが身体に問題を抱えたときに立ち返る場所になる。
正しい姿勢には足裏の接地面が9点必要!
正しい起立姿勢を知ると自分自身の姿勢が個性なのか、悪癖なのかが判断できる。それが理解できていれば、たとえ現状に歪みにあったとしても原点に立ち返り、自らで修正することができる。
では、正しい起立姿勢をどう見分けたらいいのか? 悪い姿勢をとっている場合、その特徴は足に表れるという。なぜなら二足歩行である人間が唯一「地面と接してバランスをとっている」場所が足だからだ。ちなみに染谷氏のメソッドはここから構成されたもので、全アスリートに対するサポートを「アシトレ」と命名し、長年提供し続けている。
正しい起立姿勢を見るポイントは3つ。
・膝(ひざ)
・脛(すね)
・人差し指
この3点が一直線上に並んでいることだそうだ。よく「中指」を真ん中だと捉えられているが、人体解剖学的な起立線は「人指し指」。人間は前に真っすぐ歩くから中指の先端がその方角を示す位置になければいけないと多くの人が思い込んでいるが、それは間違い。
正しくは「人差し指」だ。中指が中心線にあるとどんな状態なのか? 染谷氏は次のように説明した。
「中指が中心線上にあると、膝が内側にねじれ、ふくらはぎが外に張り出してお尻を後ろに突き出すようにバランスをとらなければいけなくなります。これがあらゆる部分に負担を起こし、ケガの原因につながります」
さらに、染谷氏は治療家として地面との接地面を担う「足裏」に着目し、正しい起立姿勢には「健康な足」が大事だと主張している。たとえば昨今、不健康な足趾(そくし)の代表例として偏平足(へんぺいそく)、浮き指、縮こまった指が指摘されているが、これらが姿勢を崩す原因になっていると分析している。
「足裏が安定しない状態で無理に踏ん張り続けたら、それを補うために違うところに力を入れ続けなければいけません。これは通常ではありえない体の使い方をしていて、安定感が悪いですよね? サッカーは動きながら行うスポーツ。しかも接触があります。姿勢が悪ければ、バランスが崩れるし、これによってケガのリスクは増える可能性が高いです」
続けて、具体的に地面との接地面が9点あることを教えてくれた。
・五本指
・母指球(親指のつけ根)
・小指球(小指のつけ根)
・踵(かかと)の内側
・踵(かかと)の外側
裏を返せば、この9点が設置していないと安定感を欠き、アンバランスな状態でプレーしなければならない。つまり、健康な足とは「足趾と足底がきちんと機能している」ことを指し、これらが正しい起立姿勢の土台を形成するのだ。
余談だが、正しい起立姿勢は視覚情報にも関わる。
姿勢が悪い人は視覚情報の入り方に問題を抱えることになるため、特に「認知→判断→実行」というプレーの質が選手の評価、勝負の行方を大きく左右するサッカーにおいてはその優位性も持てなくなることを意味する。
後編では「改善と予防」をテーマに、主題の「成長痛とパフォーマンスの関係」をさらに掘り下げていく。改善するためにはケガの見極め、対処の見極め、活動の見極めの3点が重要になり、ここから改善と予防への第一歩がスタートする。
【講師】染谷学/
鹿屋体育大学卒業/学生時代は柔道を専攻。 自身が多くのケガを経験し、サポートしてくれた柔道整復師に憧れ、「治療家」の道を進む。 柔道整復師として2019年11月末まで都内で整骨院を営む。アスリートサポートの増加に伴い、整骨院を閉院。「足底からこだわった全身改善」「人間の足底=土台づくり」をテーマに、現在は埼玉県に「アシカラ改善院(自費診療)」を構えて、一般の方からプロアスリートまで老若男女を問わず診ている。
【院の特徴】
①1分以内での超短時間施術
②人体構造上正確な起立と歩行指導
【主な活動】
▶ オルカ鴨川FCメディカルサポート(2019年)
▶ 都立高校サッカー部メディカルサポート(2017年~)
▶ アスリートサポート(パーソナル)
▶ チーム向けセミナー(インソール講習会、靴の選び方等)
取材・文 木之下潤