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いま日本サッカーに必要なのは「ポジション別の個人戦術」と「戦う選手の育成」/スペイン人コーチが10年で感じた日本の育成課題

2011年に発売され、のべ1万人以上が学んだ「知のサッカー」。DVDを監修したエコノメソッド(サッカーサービス)が日本サッカーに関わり、2021年で10年になる。この10年間で日本のサッカー、とくに育成現場はどのように変わったのだろうか? パリ・サンジェルマンFC分析部門ディレクターなどを歴任し、JFAアカデミーでの指導経験も持つ、エコノメソッドのフランコーチに話を聞いた。(取材・文:鈴木智之)

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この10年で世界の育成はどう変わったか?

――エコノメソッドが日本で活動を始めて10年になります。現在はどのような活動をしているのでしょうか?

拠点はスペインのバルセロナで、ラ・リーガを始めとするクラブや選手のコンサルティングを行っています。スペイン国外では日本での活動がもっとも大きく、アルビレックス新潟、奈良クラブ、山梨のアメージングアカデミーで指導をし、ジュニア向けのスクールを全国各地で展開しています。それ以外ではタイサッカー協会、スウェーデンのヨテボリ、フィンランドのハイパフォーマンスセンターなどで仕事をしています。

――この10年でヨーロッパと日本の育成は、どのように変わっていったと感じていますか?

まずヨーロッパの話で言うと、2011年頃は『アナリティックトレーニング※1』が主流でした。我々はサッカーというゲームの理解に重点を置く『グローバルトレーニング※2』を提唱しているので、サッカーインテリジェンスをトレーニングで向上させることを理解してもらう必要がありました。マーケットとしてもアナリティックトレーニングの情報ばかりでしたので、グローバルトレーニングの考え方を知ってもらうのに、最初の頃は時間がかかりました。

(※1・パスやドリブルなど、試合で必要なアクションを切り取り、繰り返し行うトレーニングのこと)
(※2・試合とほぼ同じ状況を再現することにより、認知・判断・技術・戦術・フィジカル・メンタル等を同時にトレーニングする方法)

ゲームを理解してプレーする選手が、試合の中で違いを生み出す

――10年前は、ヨーロッパでもアナリティックトレーニングが主流だったとは意外です。

いまは「ゲームを理解する」ためのトレーニングが浸透してきて、ヨーロッパに限らず多くの国でゲーム理解に基づいたトレーニングが常識化してきていますが、当時はアナリティックトレーニングをしている指導者、チームが多かったと思います。

――なぜアナリティックからグローバルに変わっていったのでしょうか?

多くの指導者が「ゲームを理解してプレーする選手が、試合の中で違いを生み出している」ことに気づき始めたからだと思います。現代サッカーはスピードが重視されていますが、ゲームを理解し、インテリジェンスを持ってプレーすることで、プレー自体のスピードも上がります。技術やフィジカルに関しても同様に、ゲームを理解することで、その選手が持つ特徴を効果的に発揮することができるのです。

――日本の育成年代の印象は、この10年でどう変わりましたか?

育成年代のトップレベルはかなり変わったと感じています。特にサッカーを戦術的に理解した若いコーチが増えた印象です。その中から若いタレントも多く生まれています。その理由のひとつは、サッカーについて学ぶ指導者が増えてきたこと。学びを得た指導者が教えることによって、良い選手が出てくる確率が上がっているのではないでしょうか。そして良い選手同士がプレーすることによって、相乗効果でレベルが上がっている。それが日本の育成に対する印象です。

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日本にはセンターラインを務められる選手が足りない

――日本代表チームについては?

南野、久保、遠藤、冨安のような良い選手が多く出てきていますが、センターフォワード、ボランチ、センターバックという、チームのセンターラインを務める選手が、ヨーロッパのトップレベルのクラブでプレーするようになると、もうワンランク上に行けるのではないでしょうか。

――それは、10年前にも指摘されましたね。そのためには、どうするべきでしょうか?

日本代表を見ると、センターバックやセンターフォワードなど、それぞれのポジションに特化したトレーニングを受けてきた選手の必要性を感じます。日本の場合、14歳以降にポジションごとに必要なトレーニングを受けてきた選手はあまりいないのではないでしょうか。日本では味方同士が連携して、短いパスで相手の最終ラインを突破するプレーがよく行われています。だから、それができる選手はたくさん出てきます。見方を変えると、それ以外のポジションの選手は出てきにくい面もあると感じています。

ポジションに特化した「個人戦術」の指導が必要

――日本の育成環境も踏まえて、ポジションに特化したトレーニングも必要だと。

ポジションごとのトレーニングで身につけるべきは、「そのポジションでのプレーに必要な個人戦術」です。14、15歳ごろから、その選手に適した1つか2つのポジションに特化してトレーニングすることで、将来、たどり着くことのできるレベルの最大値が高くなります。14歳以降、多くのコーチがチーム単位での集団戦術を教えますが、それよりも個人戦術の方が重要で、指導するべきなのです。

――日本の場合、15歳以降は高校サッカーというカテゴリーに入っていくので、チームとして勝つための集団戦術に重きを置きがちです。

スペインも同様に、自分のチームをプロモーションするために、チームとして試合に勝つことを重視する指導者はいます。でも、それをしてしまうと、イニエスタのような選手は出てこないのです。コーチの言うとおりにプレーして、自分で判断する能力を備えていない、ロボットのような選手ばかりになってしまいます。育成年代ではミスを許容し、ミスから学ぶこと。サッカーに対する理解力を高める指導をしないと、たとえプロになれたとしても、上のレベルで長く活躍できる選手になるのは難しいでしょう。

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サッカーは「賢さ」だけでなく「戦う」部分も重要

――ほかに、日本サッカーを見てきて、改善の余地があると感じる部分はどこでしょう?

一番はコンペティティブ(戦い、競争)の部分です。そこは選手だけでなく、指導者や審判など、多くの人の意識を変えることが必要です。サッカーは格闘技と言われるスポーツです。賢さだけでなく、戦う部分も重要です。デュエル(ボール奪取時の争い)、体を使って相手をブロックすること、空中戦の競り合いなどは、意識を持って取り組むことで向上できると思います。

――前日本代表監督のハリルホジッチもそう言っていました。ヨーロッパのトップレベルを知っている人が日本サッカー見ると、感じるところは同じですね。

難しいけど、変えることはできると思います。たとえば、ウルグアイという国があります。日本とウルグアイを「サッカーに対する学び」という視点で比較すると、日本のほうが上でしょう。でも実際に試合をすると、ウルグアイの方が勝つ可能性が高いと思います。彼らは「ゴールを守る」「ゴールを奪う」という部分、デュエルの強さなど、戦いの部分に強さを発揮します。そこは、試合の勝ち負けに直結する部分です。

――フランコーチは日本のJFAアカデミーなどで指導していましたが、コンペティティブに関して、どのような指導をしていたのでしょうか?

たとえば、ピッチサイズやノルマ、ルールによって、デュエルがたくさん起こるような設定にするのも、ひとつの方法です。そして多少のファウルで笛は吹かない。ボールがタッチラインを割ったら、先にボールを取って始めた方からスタートするなど、ルールを工夫することで、競争心にアプローチすることはできます。

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日本の育成はグラスルーツ指導者の底上げがカギ

――先ほど、日本にサッカーを学んだ指導者が増えてきたと言っていましたが、具体的にどこが変わってきたと感じますか?

ゲームを理解することを学ぼうとする指導者が増えたと思います。日本には「先輩・後輩文化」があるので、若いコーチが自分のスタイルを表現するのは簡単なことではありませんが、時間の経過とともに、サッカーを学んだコーチの数は増えていくと思います。トップレベルのチームを指導しているコーチだけでなく、グラスルーツの子どもたちを指導するコーチまで、すべてのカテゴリーの指導者が学ぶことで指導のレベルが上がり、育成年代からトップレベルまで、ベースが強固なものになっていきます。そうすることで、もっと良い選手が出てくると思います。

――エコノメソッドに影響を受けた指導者はたくさんいます。彼らに伝えたいことはありますか?

我々指導者の役目は、教えている選手のレベル、カテゴリーなどは関係なく、責任を持って選手たちを助け、指導し、成長に導くことです。目の前にいる選手を良くすることに対して責任を持つと同時に、日本サッカーを良くしようという想いを持って、グラウンドに立ってほしいと思います。そして、良いコーチになりたいのであれば、積極的に学ぶことが必要です。自分自身の向上にお金や時間を投資して、学びを続けること。それが、良い指導者になるために大切な考え方だと思います。

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