10.04.2021
限られた練習時間の中で選手を成長させる考え方/コロナ禍におけるサッカーコーチのあるべき姿
「サッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』」では「サッカーコーチ専門コーチ」の倉本和昌氏によるセミナーを公開中だ。「コロナ禍におけるサッカーコーチのあるべき姿」をテーマに、日本サッカーに欠けている「サッカーというスポーツに対する理解」「サッカーはチームスポーツである」という観点から、選手にどのような指導をすれば効果的なのかを知る上で、必見の内容になっている。(文・鈴木智之)
練習ではメニューよりもコーチングや選手への質問の内容が大切
昨今、指導現場で聞かれるようになった「認知・判断・実行」という言葉。倉本氏は認知ではなく「知覚」という言葉を用いているが、その観点で子どもたちのサッカーを見る中で、あることに気づいたという。
「試合中、コーチが『周りを見よう』と盛んに言っているのですが、その子自身、見える状態が整っていないことがありました。なぜかというと、相手と力の差があったり、相手のプレースピードが速すぎてパニックになり、処理できない状況になっていたからです」
この状況を倉本氏は車の運転に例える。普段、田舎道を時速30kmで走っている人が、首都高に乗って120kmを出さざるを得なくなったとしたら、パニックになるのは想像に難くない。これと似たような状況がサッカーで起きているのだ。
倉本氏は「子どもたちはプレーを選択する余裕がなく、ミスをしてコーチに怒られ、さらにパニックになるという悪循環に陥っていました」と振り返り、対策を提示する。
「子どもがそのような状況になっているときは、トレーニングを見直さなければいけません。車の例で言うと、道は複雑だけど、そこまでスピードは速くないところで運転に慣れさせ、徐々にスピードと複雑性を上げて、首都高の状況に近づけていくのです」
サッカーのトレーニングも同じで、ルールやグリッドサイズを調節することでスピードや強度にアプローチし、子どもたちのレベルに合った段階でトレーニングをさせ、慣れてきたら少しずつ上げていく。そのように段階を経て導いていくことで、子どもたちはより良い認知・判断のもと、適切なプレーができるようになっていく。
「自分たちのトレーニングの強度が低いまま、コーチが試合中『頑張れ!』と言っても、そこにある問題を解決することはできません。相手のスピードや強度に対抗するためには、普段のトレーニングを見直すしかないんです」
このとき、「選手を向上させるための、特別な練習メニューがあるのではないか」と考えがちだ。しかし倉本氏は「そんなものはないと思ってください」と断言する。
「みなさんが取り組んでいる普遍的な練習メニューの中で、どのような声掛けをすればいいのか。どのような質問をすれば、子どもたちのプレーがより良くなるかにフォーカスすることが重要です」
自分の指導風景を撮影し、効率よく指導するための改善点を導き出す
そこで倉本氏はひとつのアイデアを紹介する。それが「自分の指導風景を撮影(録音)すること」だ。
「僕自身もやっていますが、録音を聞き返すとショックを受けます。説明が長すぎる、何を言っているかわからないなど改善点があるので、そこに目を向けていくと、指導力がぐんぐん伸びていきます」
指導風景を撮影したものを見たところ、休憩時間が長かったり、長時間練習でトレーニング強度が低くなっていたりと、様々な発見があったという。
「長時間練習をするのであれば、休憩時間を短くして、90分の練習時間ですべてを出し切るようにしたほうが、試合で役に立ちます。練習の強度が、試合の強度になるわけですから。相手のスピードが速く、強度が高い中でプレーをするとパニックになるのは、練習の環境がそうなっていないからだというのが、撮影して見直すとよくわかります」
倉本氏は「練習の量ではなく質を追求し、戦術的なトレーニングの時間を増やしてほしい」とアドバイスを送る。
「もちろん年齢に応じて調整は必要ですが、小学5、6年生になると複数が関わる中で、個人が判断をくだす場面が頻繁に起きるようなトレーニングをした方がいいと思います」
それを踏まえた上で、「選手がミスをしたときに、『これを戦術的なミスとしてとらえた場合、どのようなミスになるのか?』という視点で考えることをおすすめします」と提案する。
「たとえばボールコントロールをミスした選手がいたとして、そのミスの原因になった頭の中はどうなっているのかを想像するのです。そこで技術のミスではなく、判断のミスだという視点を指導者が持たないと、『もっと技術練習をしなさい』となってしまい、ミスが減らなくなる可能性があります」
今回の記事ではポイントを絞ってお伝えしたが、40分の動画には様々なトピックが詰まっている。たとえばゲームモデルやクラブの哲学についての考え方。戦略と戦術、システムの関係性。サッカーは個人競技ではなく、チームスポーツであるということ。
オーガナイズのあるチームと、ないチームが試合をするとどうなるか。フットボーラー(ロナウジーニョ、ネイマール)とプレーヤー(ジダン、イニエスタ)の違い。ヨーロッパでプレーするために必要な「サッカーの躾(しつけ)」など、指導力の向上に有効な話題が収録されている。
ぜひ繰り返し動画を見て、興味のあるトピックに考えを巡らせてほしい。きっと、新たな視点で選手やトレーニング、そして指導をとらえることができるようになるはずだ。
【講師】倉本和昌/
サッカーコーチ専門コーチ。高校卒業後、スペインのバルセロナに留学。アスレチック・ビルバオにて育成の仕組みについて学び、スペイン公認上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後は湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、2018年よりサッカー専門コーチとして独立。Jクラブ、大学、高校、町クラブ、幼児など様々なカテゴリーのコーチをサポートしている。2021年にオランダ移住計画を計画中。
取材・文 鈴木智之