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指導案に役立つサッカーのビルドアップ練習メニューを紹介!メニューのアレンジ方法も解説

「サッカー指導者のためのオンラインセミナー『COACH UNITED ACADEMY』」では、Jクラブや街クラブの指導者が実演する、トレーニング動画を配信中だ。

動画の視聴者や読者から「トレーニングの内容が、自分のチームには難しい」「動画に出ている選手のレベルが高く、自分のチームのレベルに合わない」など、「どうやって、自分のチームに取り入れればいいの?」という悩みをいただいた。

そこで今回は、筑波大学大学院サッカーコーチング論研究室で研究活動をする傍ら、選手育成や普及活動を行う内藤清志氏に、COACH UNITED ACADEMYで配信している動画を、「どのようにアレンジすれば、自分が指導している年代やレベルのチームでも実施できるのか」をテーマに解説してもらった。

今回の対象となる動画は、大宮アルディージャU12が実践する「ビルドアップトレーニング」。ボールポゼッションを主体したトレーニングを、どのように調整するのだろうか? アイデアをお届けしたい。(文・鈴木智之)

大宮アルディージャU12の
トレーニングの詳細はこちら

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パスが繋がらないときは何のスキルが足りていないのかを見極める

まずは、ビルドアップの練習につなげるための「4対1ポゼッション」を紹介する。サッカーの練習メニューとしてはおなじみのもので、いわゆるロンドや鳥かごと呼ばれるメニューだ。練習では、攻撃側がひし形の位置に立ち、中央に守備役が1人入る。

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攻撃側はパスを8本通すか、守備役の選手がボール奪取後、5本パスが通ると、外でスタンバイしている選手と交代となる。練習の途中から、対面の選手にパスが2本通っても、守備役は外の選手と交代するというルールに変更する。

しかし、このトレーニングについて、視聴者から「パスが8本も回らない」などの声が寄せられた。

【内藤さんの提案する指導案】
パスがつながらない要因は、次の2つが考えられます。

①ボールを止めて蹴るといった技能(技術力)にミスが出て、相手に取られてしまう

②ボールを持っていない選手の立ち位置が悪く、パスコースを作ることができておらず、パスの出しどころがなくて奪われてしまう

②であれば、例えばボールを受ける選手に対して「必ず、ボールと自分との間に線を引ける場所に顔を出そう」と声をかけることで、改善へつなげることができます。

それ以前に、①のように狙ったところにボールを蹴ることができないといった技術的な問題があるのであれば、動きのある人ではなく、コーンを相手に練習をするのがいいと思います。

たとえば2人が向かい合って並び、コーンに当てるという設定の練習です。90度の位置に赤と青のコーンを置いて、相手がこちらに向かって蹴ったボールに対して、止めて、蹴るを2タッチ、トントンのリズムで行います。

発展としては、選手と正対する位置にコーチがいて、赤と青のマーカーを手に持ち、赤のマーカーを上げたら、選手はそれを見て、赤いコーンの方向へボールをコントロールして蹴ります。

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そうすることで選手は、コーチが赤と青、どちらのマーカーを上げてもいいように、ボールを置く位置、コントロールする方向に意識を向けるように工夫すると思います。

この設定でも難しければ、正対したところから向かって来るボールを止めて、正対する方向に蹴るというシンプルな練習から始めるといいでしょう。子どもたちのレベルに合わせて、練習の難易度を調節してみてください。

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うまくパスが回らない時はグリッドを広くする。ただ広すぎると練習の効果が薄れてしまう

続いては、「3対3+2フリーマン」のトレーニング。より実践的なビルドアップに近い形での練習となる。

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「正方形のグリッドの中に、攻撃側の選手をひし形+中央に1人配置。5対3の状況でボールポゼッションを行う。(中央と外側1人の計2人はフリーマン)。攻撃側は守備側にボールを奪われたら攻守交代。攻撃側のパスが8本通ったら、攻撃側か守備側のどちらかが、外でスタンバイしている3人と交代する。

【内藤さんの提案する指導案】
この練習の難易度を下げるとしたら、3対3+2で切り替え(トランジション)をするのではなく、5対3にして「守備側が3回ボールを奪うと攻守交代」といったルールにするのが良いと思います。

このトレーニングのポイントは、守備が3人いることです。守備が2人の場合は「2人の間を通すこと」に意識が向くこともあるかと思いますが、3人の場合、守備の選手は横一列には並ばず、選手間に奥行きが生まれます。

いわゆる「三角形を作る」とも表現できるように、立ち位置が立体的になります。そうなると、攻撃側は三角形の間にポジションをとることができます。

攻撃側の、ボールを持っていない選手は、ボール保持者に対して脇の位置(サイド)のサポートも重要になります。パスがつながらないようであれば、両脇の選手に「立ち位置はそこで良かった?」などの声をかけて、ポジショニングに意識を向けさせることが大切です。

それでもうまくいかなければ、グリッドのサイズを広げること。目安としては、小学6年生であれば18m四方。20mだと広すぎるかもしれません。

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ただしグリッドが広すぎると、ボールを止めて蹴る部分でうまくいかなくなる可能性があります。味方との距離が広くなると、ボールを蹴っても届かないケースが出てくるからです。ドリブルやボールキープを選択した結果、複数人で寄せられ、ボールを奪われる形になりがちです。

攻撃の練習でうまくいかないときに、グリッドを大きくするのもひとつの方法ではありますが、簡単にした結果、うまくいったとしても、トレーニング効果があまりないこともあるので、まずは指導者のコーチング(声かけ)で気づきを与えることを考えましょう。

グリッドを小さくしたとしても、実際の試合でピッチの広さが変わるわけではありません。そのため、「なぜこのグリッドサイズではうまくいかないのか」を考え、「ボールの受け手は準備していたか」「パスコースは適切にできていたか」「技術のミスはなかったか」「判断は適切だったか」などに思いを巡らせ、コーチングをすることも大切です。

その際のポイントとしては、いくつも気になる点があったとしても、子どもたちへのフォーカスポイントは1つ、多くても2つにしておくことです。

設定を変えることにより、トレーニング効果を得られることもありますが、そこだけにフォーカスするのではなく、指導者の声かけで選手に気づきを与え、プレーを改善させることにも目を向けると、より良いトレーニングになるのではないでしょうか。

練習メニューの難易度を調整しながら適切な声かけを

サッカーの練習メニューは、書籍やオンラインなどさまざまな媒体で知ることができる。実際にそこから指導案を作成している人も多いだろう。

一方で、紹介されている練習が必ずしも自チームでそのまま適用できるとは限らない。

年齢やサッカーの技術的なレベルによっては、難易度を調整する必要もあるだろう。また、内藤さんも言っているように、練習の設定の変更による難易度の調整だけでなく、コーチからの声かけで選手に気づきを与えることも大切だ。今回の内容をぜひ指導案作りにも生かしてみて欲しい。

大宮アルディージャU12のトレーニングは
COACH UNITED ACADEMYで配信中!

【講師】内藤清志/
筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、筑波大学蹴球部でヘッドコーチなどを長く歴任。谷口彰悟や車屋紳太郎など日本代表選手を指導。その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。