TOP > コラム > サッカー指導の新潮流!「エコロジカル・アプローチ」をチームで実践。理論の基礎と5つの原則を解説

サッカー指導の新潮流!「エコロジカル・アプローチ」をチームで実践。理論の基礎と5つの原則を解説

サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。

今回のテーマは「エコロジカル・アプローチのチーム導入とトレーニング解説」。講師はFCガレオ玉島U-15で指導する古賀康彦監督だ。自身の障害の経験から、制約の中で生まれる創造性に着目し、エコロジカル・アプローチという運動学習理論を軸に中学生を指導する古賀監督は、従来の指導法とは異なるアプローチで選手の個性を最大限に引き出している。

エコロジカル・アプローチとは何か。そして、それが選手の成長にどのような影響を与えるのか。前編では理論の基礎から5つの原則まで、詳しく紹介してもらった。(文・鈴木智之)

この記事の動画が「無料」で見れる!
COACH UNITED ACADEMYはこちら>>

koga0011.jpg

エコロジカル・アプローチとの出会い

前編のテーマは「エコロジカル・アプローチの概要と特徴」。古賀監督は岡山県倉敷市で活動するFCガレオ玉島で、エコロジカル・アプローチを主軸に指導を行っている。

その原点には、自身の障害の経験があったという。

koga0012.jpg

「完全大血管転位症、C型肝炎、虫垂炎、房室ブロックなど、様々な制約がある中で生活してきました。現在もペースメーカーを入れながら指導をしています。こうした制限の中で何かを考えなければならない状況が、エコロジカル・アプローチとの親和性につながったのだと感じています」

16歳から指導者としてサッカー人生をスタートさせた古賀監督。当初は技術反復系の練習や、自分が受けてきた指導を繰り返していたが、なかなか結果につながらなかった。

「これは一度しっかりと勉強しなければと思い、スペインに渡りました。帰国後、大学院で学び、Jクラブでも指導の機会をいただきました」

スペインや大学院では、認知・判断・実行のサイクルを重視し、プレーモデルを基にした指導を実践。しかし、ある疑問が湧いてきたという。

koga0013.jpg

「論理的、規定的にコーチングすると成果は出ます。勝負にも勝てるようになる。しかし、特定のプレーモデルに順応する選手が多く現れ、選手が似てくる可能性があるのではないか。もしかしたら、システムが選手を上手くしていて、自分自身の貢献価値があまり大きくないのではないかと感じたんです」

選手をうまくするには?という疑問が、エコロジカル・アプローチへと繋がる道となった。エコロジカル・アプローチを日本に紹介した植田文也氏とは、大学院時代の同級生。話を聞く中で「この理論こそ、本当の意味で選手をうまくする理論だと衝撃を受けました」と振り返る。

620_300.png

エコロジカル・アプローチの基礎理論

古賀監督は「エコロジカル・アプローチは運動学習理論であり、メソッドではありません」と説明する。メソッドとしては「制約主導アプローチ」があり、これは制約を設計することで選手のプレーを引き出していくものだという。

従来の指導法との違いについて、古賀監督はこう語る。

koga0014.jpg

「伝統的(これまでの)アプローチでは、脳のプロセスを認知・判断・指令・実行と捉え、人そのものを分析対象にします。それぞれの要素を分けて考える傾向が強いです。一方、エコロジカル・アプローチは、人と環境の相互作用の中にスキルが存在すると考えます。環境と人との相互作用に着目しながらスキルを捉えるんです」

ボルダリングを例に挙げ、「ホールド(突起物)があるから人は登ります。選手一人ひとりの手足の長さや筋力、柔軟性が違うので、どのようにホールドを選び、どう登るかは千差万別です。環境と人の掛け算で分析していくのがエコロジカル・アプローチです」と解説する。

非線形的な学習プロセス

もう一つの重要な概念が「非線形的なプロセス」だ。

koga0015.jpg

「従来は、基礎を積み上げたら次のステップ、さらに積み上げたらその次のステップと、線形的なプロセスで考えられていました。しかし、学習は急に進むときもあれば停滞するときもある。急に落ち込むこともあれば、また伸びることもある。学習は非線形的なプロセスなんです」

この理論の背景には、生態心理学と動的システム理論がある。特に重要なのが「相転移現象」という概念だ。

「水が水蒸気に変わる、水蒸気が氷に変わる。分子構造が変化するときは、段階的に変わるのではなく一気に変化します。スキップができない子に、テンポを速くする、遅くするを繰り返すと、突如としてできるようになる。重要なパラメータを操作すると、急にできるようになる。だからこそ、様々な経験をさせることが大事なんです」

3つの制約と5つの原則

COACH UNITED ACADEMY動画では、ここから核心に迫っていく。エコロジカル・アプローチでは「制約」という考え方が非常に重要で、制約には3つある。それが「個人」「タスク」「環境」だ。

koga0016.jpg

さらに古賀監督はエコロジカル・アプローチの5つの原則を紹介。「代表性」「タスク単純化」「機能的バリアビリティ」「制約操作」「注意のフォーカス」となる。

3つの制約、5つの原則の詳細を知りたい人は、ぜひ「COACH UNITED ACADEMY」の動画で全容を確認してほしい。きっとトレーニングに新たな視点が加わるはずだ。

次回の後編では、実際にどのようにトレーニングしているのか、それによってどのような効果が起こっているのかに迫っていく。

この記事の動画が「無料」で見れる!
COACH UNITED ACADEMYはこちら>>

COACH UNITED ACADEMYのログインはこちら

【講師】古賀康彦/
兵庫県出身。先天性心疾患のためプレイヤー経験はなく、16歳で指導者の道へ。高校年代のコーチや監督を務めた後、スペイン・バルセロナで指導の研鑽を積む。帰国後は早稲田大学大学院に進学し、卒業後はオーストラリアに渡りジュニアチームを指導する。15年からFC今治に入団し、アカデミーのコーチやトップチーム分析などの任にあたる。18年から19年まで東京ヴェルディ、19年から22年までヴィッセル神戸、22年から23年まで鹿児島ユナイテッドFCの各アカデミーで指導した。指導歴は23年。現在はFCガレオ玉島U-15の監督を務めている。JFA公認A級ライセンス取得見込み。