08.19.2016
脳を刺激し上手くする。イニエスタの動きから開発したサッカーの技術トレーニングとは?/興國高校 内野監督(1)
高い個人技と個人戦術、チーム戦術を融合させた攻撃的なスタイルで「関西のバルサ」と呼ばれている興國高校(大阪府)。
全国大会に出場経験のない学校でありながら、毎年のようにプロ選手を輩出し、年代別日本代表にも選手を送り込んでいます。
興國高校はどのような哲学、トレーニング・メソッドのもと、選手たちを育成しているのでしょうか。サッカー部監督・内野智章監督に話を聞きました。
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■スペインの強豪相手にも手応えを感じたボールコントロール
――興國高校が掲げるサッカースタイルはどのようなものでしょうか?
内野 一言で言うと、ポゼッションスタイルです。
そのなかで『ジャパンズウェイ』と言いますか、日本人ならではのポゼッションスタイルを確立したいと思っています。
というのも、昨年12月にスペインに行き、ビジャレアルやレバンテなどのクラブと試合をしたんですね。ビジャレアルのU-19はUEFAのU-19チャンピオンズリーグに出るレベルのチームで、年代別のスペイン代表、韓国代表選手もいました。
結果的に試合は1対1の引き分けだったのですが、興國高校がビジャレアルに対して上回っていた部分もあり、手応えを感じました。
この方向で進んでいけば、世界を相手に勝つことができるのではないかと。
――具体的に、どの部分が相手より優っていると感じましたか?
内野 狭い局面でのテクニックと運動量です。
日本人は技術的な繊細さを持ちながらハードワークができますし、我々は「ボールコーディネーション」という独自のトレーニングを1年生から取り入れているので、ボールコントロールに関しては自信を持っています。
バルセロナを見てもそうですが、高いテクニックを持った選手たちが連動して相手を崩すので、なかなか止められないですよね。選手が連動してパスを回すスタイルは、日本に合っていると思います。
ただ、インテリジェンスというか、戦術面での理解はまだまだだなと感じました。
たとえば「いつ・どこへ走るか」という認知の部分。敵の立ち位置、味方の立ち位置、プレーエリア、すべてをしっかり認知することで、質の高い動きを繰り返すことができるようになると思っています。
■動きとボールコントロールを"リズム"で繋ぐための独自トレーニング
――興國独自のトレーニング、ボールコーディネーションとは、どのようなものでしょうか?
内野 ボールコーディネーションとは、ドリブルやリフティング、パスなどボールコントロールの練習をリズムでつなぎ、前後左右の動きをつけたトレーニングです。わかりやすくいうと、コーディネーションの要素を含んだ技術練習です。
ジダンもイニエスタもそうですが、どんなボールが来ても、スムーズに意図したところにボールを置くことができますよね。それは『トラップがうまい』というだけでなく、動作やステップワークに優れているからだと思うんです。彼らのプレーを見ているとわかるとおり、動きに無駄がなく、流れるようにプレーしていますよね。
ボールを止めて、コントロールして、蹴るというように、一つひとつがバラバラではなく、プレーに切れ目がない。その動きを研究して作り上げたのが、ボールコーディネーショントレーニングです。
スラロームのトレーニングを行う選手たち(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
――近年、サッカー界でも身体動作の重要性に言及する人が多く、個人的にもこの部分が日本サッカーをレベルアップさせるための、ひとつのポイントになると思います。
内野 僕らがボールコーディネーションを始めたのは、8年ほど前です。そもそもの出発点は「試合中、スピードダウンせずにトラップからパスまでできるようにしたい」という発想から始まりました。
たとえば、バルサの選手を見ていると、パスを出す動きと走りの動作がつながっていますよね。パスを出した一歩目が、走りの一歩目になり、そのままサポートに行く。単なるボール扱いだけでなく、次のプレーに移る動作も一緒になっているんです。
ただステップを踏んでコーディネーションのトレーニングをしても、ボールが来た途端、油が切れたロボットのようになってしまっては意味がありません。
あくまでも、動きとボールコントロールの技術が一緒になっていないといけない。
――興國の選手たちは、どの時期からボールコーディネーションの練習を始めるのですか?
内野 1年生は毎朝やっています。2、3年生になると、水曜日と金曜日に1回30分ほど、ウォーミングアップとしてボールコーディネーションを入れています。
日本人のストロングポイントは、地味な練習を反復できることだと思うんです。
イニエスタのようなプレーは、誰にでもできることではありませんが、日本人は努力と反復練習で、近づくことはできると思っています。
■大きさや重さの違うボールを使って脳を刺激し、技術の習得を早める
――ボールコーディネーションの練習では、5号球の重さがある3号球を使ったり、リフティング用のゴムボールを使っているそうですが、どのような意図があるのでしょうか?
内野 もともとはブラジルのストリートサッカーの映像を見て、ヒントを得ました。彼らは明らかに小さいボールを使ってサッカーをしていたんですね。
大学の時に学んだ脳科学によると、ボールの大きさ、固さ、重さなどを頻繁に変えることによって、脳に違った刺激が行くそうです。ボールが軽くても重くても、大きくても、小さくても、中心を捉える技術は必要ですよね。
そこで毎回、見た目とは違う重さや、大きさが異なるボールを使うことで、同じボールを使い続けるのとは違う刺激が皮膚や筋肉を伝わり、脳に到達します。
その結果、脳が活性化され、技術の習得を早めるというのを大学の教授に教えてもらったんです。
さまざまな大きさのボールでトレーニングを行う(DVD「興國式サッカーテクニカルメソッド」より)
――ジュニアユース年代でドリブルやボールコントロールに特化した練習をしているクラブがありますが、彼らは興國に来てボールコーディネーションの練習をすると、うまくできるのですか?
内野 それが、中には苦労する選手もいます。中学時代にやっていた動きの延長線にあるものであれば、何万回と動きを繰り返しているのでできるのですが、違う動きになると途端にできなくなるんです。
ボールコーディネーションは、ある動作に対して、脳がオートマチック化しているところに刺激を入れていきます。
そして、重さや固さの違うボールを使って動作とボールコントロールを同時にトレーニングすることで、スムーズな動作と技術の習得をめざすものなんです。
最近の卒業生も、小学校、中学校時代にドリブルの練習ばかりしていた選手がいたのですが、下がりながらのドリブルとか、ジャンプしながらリフティングとか、それまでやったことのない動きができるようになるまで、時間がかかっていました。ようやく3年生の夏頃にすべてができるようになって、そこからはかなりレベルの高い選手に成長しました。
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取材・文 鈴木智之