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指導者が必ず守るべき「心理的安全性」とは?/選手が伸び伸びとプレーできる環境作り

サッカーの現場では良いチームを作るために日々、監督、コーチ、主将、そして選手らが試行錯誤している。ただ「良いチーム」あるいは「悪いチーム」とはどのような状態なのか、どのようにコミュニケーションをすればチームがより良い方向に向かっていくのか、わかっているようで具体的に方法論を説明できないことも多いのではないだろうか。

まだチームが勝っている時は良い。チーム内にはポジティブな空気が流れて、個々が成長し、さらに勝ち続けるなど、何もせずとも好循環が発生することもある。逆に難しいのはチームが負け始めた時だろうか。悪い空気が流れ、チーム内でネガティブな会話が頻発するようになり、最悪、選手が自信を失ってチームやサッカーを辞めるような事態にもなりかねない。

そこで今回は前編に引き続き、どのような状況であれ、選手が伸び伸びとポジティブにプレーできる環境を作るために、心理的安全性を確保するためのコミュニケーション方法について精神科医の木村好珠氏に解説してもらった。(文・内藤秀明)

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心理的安全性とは

早速、木村氏は、チームが成功する上で重要な5つのキーワードについて説明。

「より良いチームが完成するには、重要なキーワードがあります。その1つ目は『心理的安全性』です。これはアメリカの大手IT企業『Google』社が、チームビルディングをする上で重要視している考えです。成功するチームに必要な『心理的安全性』とは、チームのメンバーがそれぞれ不安を抱えることなく自由に発言したり、行動に移したりできる状態のことです。個人が誰に対しても意見を言える、あるいは自分の考えを行動に移した時に、チームがその行動や意見を認められる状態、対人関係のリスクを負うことに対して安全である状態とも言えます」

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その後も監督、コーチ、選手らが一体となって成功するためのキーワードを解説している。

チームが成功するために必要なキーワード

「そして二つ目は『信頼性』です。つまり互いに信頼して仕事を任せあえるかどうかです。これは非常に大事なポイントで、前編のアンガーマネジメントについての説明の中でも話しましたが、よくない怒り方をしてしまうとお互いに信頼は生まれません。怒られた人は怒った人に対してただ恐怖心を抱くだけです。

三つ目は『構造と明瞭さ』、チームの目標と役割分担、実行計画の明瞭さです。チームの目標は何なのか。例えばサッカーチームであれば個人の成長、チームの成長としての優勝などでしょうか。勝ちに行くという目標と、それを実現する上で個々の役割が何故あるのか理解できていることが重要です。もちろん指導者自身も、チームにおいてどういう役割を担っているかを理解することが重要です」

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「そして四つ目は『仕事の意味』です。与えられた仕事に対してコーチ、選手らが意味を見出せているかどうかは重要です。最後に五つ目は『仕事のインパクト』です。自分の仕事が社会や組織に対して影響を持っていると感じられるかです。選手でいうと、全員がプロになるわけではないので、サッカー面だけでなく、人間としての内面においても、成長を実感できるようにする必要があります」

心理的安全性が不足している場合のリスク

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ここまでチームビルディングに必要なキーワードを解説してきたが、特に「心理的安全性」が不足しているとどのようなリスクがあるのだろうか。

「例えばビジネスシーンなどでも、『こんなことも知らないのか!』と怒られたら、もう次は『知らないと』言えないですよね。『無知だと思われる不安』に襲われます。これは、実体験で言われたことがある方もいると思うのですが、口調が『こんなことも知らんのか!』と上からでなく、『こんなことも知らないの?』とさらっと言われた場合も、委縮してしまうことはよくあります。

どうしても『またこういう風に言われたらどうしよう』や『調べ物不足と思われるのではないか』と考えてしまうから聞けなくなってしまいます。また『無能だと思われる不安』も発生すると、できなかった事実を隠そうとするなど行動が悪化していき、結果に成長しなくなります。

具体的にサッカーでいうと、簡単なシュートを外してしまった時に、『こんなシュートもできないのか』と言われたら、次は決定機でもシュートではなくてパスをしようとしてしまう。自分で攻めようとしなくなるリスクがあります」

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「他にも『邪魔していると思われる不安』が発生するリスクがあります。例えば自分のプレーでチームが勝てないと思うと、自発的なプレーができず、遠慮がちになってしまいます。最後に『ネガティブだと思われているという不安』があります。『自分のプレーや発言でチームの雰囲気が悪くなったらどうしよう』と思うと、何も言えなくなります。なのでこの『無知、無能、邪魔、ネガティブと思われる不安』が発生しないように心がける必要があります。

後編動画ではこの後もこのような不安を発生させないためにも、どのようなコミュニケーションをするべきかを解説した他、「いいチームを作る方法」「いいリーダーの条件」などについての内容が盛り沢山になっている。是非、後編もご覧いただきたい。

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【講師】木村好珠/

東邦大学医学部卒。都内大学病院にて研修後、精神神経科に進む。現在は都内、静岡の精神科で勤務する傍ら、産業医、健康スポーツ医として活動。大人のスポーツメンタルと共に、育成年代のスポーツを通したメンタル教育の普及に積極的に取り組んでいる。 具体的には、 東京パラリンピックブラインドサッカー日本代表、北海道コンサドーレ札幌アカデミー、レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミーなどでメンタルアドバイザーとして活動中。