10.28.2014
AFC U-19選手権 総括 前編「求められる『真の』サイドバック」
U-19カテゴリーの日本代表は、AFC選手権において4大会連続で準々決勝敗退。またしてもU-20W杯の出場権を逃してしまった。この憂うべき事態を深く考慮し、今後の育成につなげていくために、ここでは大会での戦いぶりを分析し、敗因を挙げてみたい。(取材・文・写真/安藤隆人)
■ サイドバックの本職は"守備"
振り返ると、サイドバックの重要性を改めて考えさせられる大会となった。U-16カテゴリーの日本代表にも同じことが言えるが、どちらの年代でもこのポジションの出来が勝敗を左右したと言っても過言ではなかった。現代サッカーでは、サイドバックには守備力はもちろん攻撃力も求められている。これはもはや定説となりつつある。一昔前のように自陣に張り付き守備一辺倒になるのではなく、積極的な攻め上がりからクロスを上げて好機を演出したり、時には周囲との連係から中へと切れ込んでシュートなど、攻撃的な要素を持ち合わせなければ務まらないポジションとなっている。
サイドバックの攻撃参加は相手守備を崩すために必要なものであり、攻撃の選択肢を増やす上で不可欠なものだ。しかし、その攻撃力を重要視するあまり、本業の『守備』がおろそかになってしまっているのが現状だ。いくら攻撃性が求められていても、ポジションは『バック』。ディフェンスの選手であることに変わりはない。にもかかわらず、攻撃を重視するあまり守備を二の次にしてしまい、結果として相手サイドを崩す一方で、逆にサイドを崩されて失点することも多くある。サイドでイニシアチブを握られては、守備のできないバックではほとんど立ち行かなくなる。それが顕著に表れたのが、AFC U-16選手権の準々決勝韓国戦であり、今大会の初戦中国戦だった。
中国戦では右サイドバックに廣瀬陸斗を、左サイドバックに坂井大将を起用した。坂井は年齢も一世代下ということもあってか、中国選手と比べるとフィジカル面で完全に劣っていた。ロングボールを多用して前への圧力を高めてくる相手に対し、それをはね返す術を持っていなかった。サイドの守備が機能しないことで、中国に付け入る隙を与えてしまった。続く第2戦ベトナム戦では、再び坂井が左サイドバックで先発。廣瀬も右サイドでピッチに立ったが、56分に接触プレーで頭を強打し、石田崚真と交代を余儀なくされた。石田は坂井と同い年で、体格は160センチ台。ベトナム選手の多くが比較的小柄で当たり負けすることはなかったが、俊敏性があり、1対1のシーンで簡単にかわされてしまう場面が散見した。初戦中国戦、そしてこのベトナム戦と、守備力のあるサイドバックが必要だったことは明白だった。しかも、鈴木政一監督のサッカーではサイドバックに攻撃参加を要求することはあまりない。機を見てオーバーラップを促すことはあるが、最終ラインに位置を取らせることの方が多い。それにも関わらず、起用しているサイドバックは守備力よりも攻撃力を持ち味にしている選手。ここに大きな矛盾点があった。
ベトナム戦の劇的な勝利(3-1)により、首の皮一枚つながった状態で臨んだ韓国戦。これまでの2チームと比べると明らかに攻撃力もフィジカルもあるチームを相手に、誰をサイドで起用するかに注目が集まった。そのなかで鈴木監督がセレクトしたのは、宮原和也だった。左サイドバックに宮原を置き、右には石田を置いた。宮原は広島ユースやU-17日本代表で3バックのセンターやサイド、4バックのCB、さらにはボランチもこなす高い守備力が魅力の選手。同選手をサイドに置くことで、状況に応じて最終ラインを3バックにもできるメリットがあった。宮原が最終ラインをケアすることで、逆サイドの石田もその特徴を生かした果敢な攻撃参加が可能となり、同時にボランチやCBもリスクを恐れずにビルドアップができるようになる。彼の起用が大きなポイントとなるのは、容易に想像がついた。
予想どおり、宮原は守備に安定をもたらした。左CBの中谷進之介との相性も抜群で、二人のチャレンジ&カバー、ラインコントロールは韓国撃破の大きな要因となった。ただ、気になる点が一つあった。それは逆サイドの石田のオーバーラップの回数だ。この試合、右の石田からの仕掛けが極端に少なかった。右サイドハーフの関根貴大がボールを持っても、サポートがないことで孤立。突破を図ってもすぐに封じられ、バックパスするシーンが極めて目立った。逆に左サイドはハーフの金子翔太と宮原がうまく連動し、決勝点もここが起点となり生まれたものだった。難敵に勝利し、結果だけみれば良かった。ただ、相手が守備を固めてきた場合、はたしてそれを攻略できるだろうか。両サイドから揺さぶることができなければ、点を取るのは難しいと言えるだろう。
■ 求められる、「本当のサイドバック」育成
準々決勝北朝鮮戦では、韓国戦で感じた不安が的中した。日本は韓国戦と同じサイドバックで試合に臨んだものの、両サイドバックの攻撃参加がほとんどなく、サイドハーフが孤立する場面が散見。相手がゴール前を固めてきただけに、サイドから切り崩して打開を図りたかったところだが、それも行動には移せなかった。後半に入ってようやく宮原が「サイドバックの攻撃参加を増やさないと崩れないと思った」と金子を追い越す動きが増えたが、逆サイドの石田は前半28分にクロスを上げて以降は、攻め上がる姿はほとんど見られず。日本はボールを持ちながらも得点への糸口を見いだせないまま、1-1からのPK戦の末に惜敗した。決して坂井や石田が駄目だったというわけではない。ともに高い能力を備え、将来性もある。だが、起用法とポジションがミスマッチしてしまうとその才能も発揮できなくなる。彼らの起用法はその悪い例だったと言える。
サイドバックは攻撃力と守備力の両方を備えている必要がある。どちらかが足りないようでは戦術の中で生きることはない。求められるものが大きいだけに、そのような選手が不在の場合は両サイドのうちどちらか一方を守備的に、もう一方を攻撃的にしてバランスを取る必要がある。鈴木監督は宮原と石田を起用しながらその策を取らず、両選手に同じタスクを科してしまった。指揮を執る監督には、"本当のサイドバック"がいないのであれば、起用する選手の特性に合わせた戦術を採用するなど、柔軟性を求めたいところ。
U-16、U-19両カテゴリーで露呈したサイドバック問題。体格で劣っていても高い守備力で補い、攻撃でも力を発揮できる理想的なサイドバックの育成に力を入れなければ、いつまでたっても世界への扉は開けない。指導者、育成に携わるすべての者が、サイドバックの育成について考える必要があるだろう。
取材・文 安藤隆人 写真 安藤隆人