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欧州における「サッカーのゲーム分析」と、テクノロジーばかりに注目が集まる日本との違い【連載】The Soccer Analytics:第4回

「いろいろなデータが採れるようになったのは素晴らしいこと。でも、データの量がサッカーのパフォーマンスに影響を与えることは多分ないでしょう」

ミサイル追尾技術を使ったトラッキングシステムやGPSによるマッピング、体中にセンサーをつけて行う動作解析など、欧州サッカーシーンには最先端技術が投入され続けている。「日本はずいぶん遅れている」という印象を持つ人も多いのではないか。

「でも、もし日本に遅れているとか、十分ではない部分があるとしたら、そこじゃないと思うんですよね」

"サッカーデータ革命"が着々と進行中の欧州に身を置く白井裕之さんは、「できることはたしかに増えた」と、テクノロジーの恩恵は認めつつ、「最先端技術がクローズアップされることで見過ごされていることがある」と言う。(取材・文/大塚一樹)

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分析の最前線、欧州で本当に大切にされていること

「欧州のトップクラブで使われているデータ収集プログラムはとても有用です。では、それがなぜ有用なのかということですよね」

白井さんは、日本ではどちらかと言えば確率や統計などの数学的なアプローチで語られることの多いサッカーの分析について、こんな話をしてくれた。

「テクノロジーが先にあるわけじゃないんです。高価な分析ソフトを導入したら明日からチームパフォーマンスが上がるわけでもありません。正しい理解に基づいた分析がなければ何もはじまりません」

スポーツ界でも有数のビッグビジネスとなった欧州サッカーには大量の資本が投入される。世界的にも注目を集める欧州のクラブシーンに最新、最先端の技術が集まってくるのはある意味で当たり前。人工知能やプレー予測など、圧倒的な未来感を持つこうした技術はメディアにも取り上げられやすい。

「結果を出しているクラブは、分析の重要性をちゃんとわかっていますよね。洪水のように溢れるデータの波に翻弄されるのではなく、テクノロジーとサッカーの分析をきちんとつなげて有効活用しています」

特に日本では、「最新テクノロジー=欧州サッカーの最先端」という図式で語られ、"サッカーとは別の何か"と思われがちな分析だが、ここには大きな誤解がある。

ゲーム分析、ビデオ分析、データ分析をリンクさせて正しく使う

まず、整理しなければいけないのは、サッカーの分析には、ゲーム分析とビデオ分析、データ分析があるということだ。

「5年前に私がアヤックスで最初に就いた仕事は、ビデオ分析の担当。当時はビデオ分析導入当初で、ゲーム分析とビデオ分析を体系化して使える状況ではありませんでした」

サッカーのゲーム分析自体はオランダでも古くから行われていた。技術の進歩により、ビデオが多用されるようになり、ビデオ映像を使ったビデオ分析という概念が生まれた。さらに時代が進んで、データの数値化、可視化ができるようになりデータ分析が生まれた。

「整理するためには別のものであることを認識して欲しいのですが、私がいま取り組んでいるのは、ゲーム分析、ビデオ分析、データ分析をリンクさせて、サッカーに有益なものに変換する分析手法です」

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白井さんがビデオ分析を受け持った当初、クラブ内ではこんなことが頻発していた。

「ビデオ映像でプレーを確認していると、指導スタッフがひとつのプレーのディテールについて検討を始めてしまうんです。彼らのほとんどは国内リーグや欧州リーグで結果を残した元プロ選手。その彼らが経験と知識をもとにプレーのディテールについて解説を始める。プロ選手の経験がない自分にとっては、とても勉強になりましたが、これをゲーム分析に当てはめて、選手に落とし込むのはほぼ不可能でした」

元一流選手が自身の経験や知識を元に映像で流れるひとつのプレーについて言及したとして、選手たちに有益な情報になるのか?

「選手にとっては、正解例のひとつを聞かされている感覚でしょう。コーチにとっての正解はこのプレーなんだなぁくらいの影響力しかなかったと思います」

合理的なゲーム分析が定着しているオランダの、しかもアヤックスでさえも5年前には、こんなことが日常だった。

「オランダにもビデオ分析だけを行うアナリストや、データ分析のプロフェッショナルとしてクラブに帯同する"IT系アナリスト"もいます。専門家の手を借りてということですが、彼らは"サッカーの言葉"が理解できません。欧州のトップレベルでは、サッカーのためのデータ、サッカーのための分析が求められています」

アヤックスでアナリストとして働き始めた白井さんは、ゲームを客観的に分析するゲーム分析と、映像を使って分析するビデオ分析をリンクさせるための研究を独自に始めた。

「スタッフから要求される分析内容を、攻撃、守備、攻守の切り替えといったチームファンクションごとにメモ用紙に書いて大きな戦術ボードに貼っていき、具体的にフィールドのどこで、何を要求されているのかを整理する作業を始めました」

この研究の成果は、白井さんのゲーム分析手法、とりわけ、フィールドエリアを分割して分析をする手法に色濃く反映されている。この試行錯誤が、ゲーム分析とビデオ分析を結びつけ、選手に伝わる"サッカーの分析"を作り上げることにつながった。

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「欧州の育成大国に学ぶ「勝つため」のゲーム分析メソッド」より

「欧州サッカーの最前線で行われているゲーム分析というと、近未来的な施設やシステムを思い浮かべる人も多いでと思いますが、レベルが上がれば上がるほど、サッカーの目的や原則に立ち返った指針、物差しが重要視されます」

サッカーコーチとしてオランダで学ぶなかでパフォーマンスコーチ、アナリストという現在の役割を得た白井さんの話を聞いていると、欧州サッカーの最前線では、目新しいものに飛びつくタームは終わりつつあると実感させられる。彼らは正しいサッカーの分析を核とする、中身の部分、「優れたテクノロジーや、得られたデータをどう使うか」の方に目を向けているのだ。
 
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白井裕之(しらい・ひろゆき)
1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。

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