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対戦チームの分析で絶対に押さえておくべき2つのポイント/勝つための結論を導くTSA式スカウティング講座

対戦相手の分析や分析結果に基づいた対策は、「対戦相手が常にいる」サッカーのゲームにおいては重要な要素を占める。ゲーム分析メソッド『The Soccer Analytics』でお馴染みの白井裕之氏は、アヤックスなどオランダで学んだゲーム分析と、自身の経験を基にしたサッカーの"スカウティング"理論を構築している。

現在公開中のCOACH UNITED ACADEMYでは、分析のスペシャリストである白井氏がサッカーのスカウティングについて解説、「対戦相手を丸裸にし、勝つための結論を導く方法」を伝授している。(取材・文 大塚一樹)


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スカウティングとは何か? について再定義を行う

The Soccer Analytics』や白井氏のセミナー、著書に触れたことがある方ならよくご存知だと思うが、合理主義の国・オランダにそのルーツを持つ白井氏の理論では、物事や言葉の定義を明確にすることからすべてが始まる。サッカーにおいてはニュアンスやフィーリングを大切にすることも非常に大切な要素だが、分析や評価という観点で見れば、物事や言葉の定義を曖昧にしておくメリットは一つもない。

チームを指導しているコーチや監督にはおわかりいただけると思うが、分析や評価はチームで共有し、選手に正しく伝わって初めて意味を持つ。

「スカウティング」についても同じことが言える。白井氏は、大前提としてスカウティングとは何を指すのか? どのようなものなのかを定義するところから話を始める。

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「スカウティングってなんですかね? 選手を選ぶためのセレクションなのか、対戦相手を把握することなのか? それとも相手の特定の選手の把握なのか? みなさんの中でもいろいろな定義があると思いますが、『The Soccer Analytics』式のスカウティングでは、"対戦相手の把握"、それもまずはチーム全体の把握をすることを中心にしたいと思います」

スカウティングについて学びたいと思っている指導者は多いが、日本ではスカウティングという言葉は人によって解釈が違う。選手を自チームにスカウトするための活動もスカウティングだし、次に対戦するチームの研究という意味でコンセンサスがとれていても、見る人によって「相手チームの気になる選手、要注意人物」といった個人にフォーカスしていたり、相手のシステムやフォーメーション(この言葉も曖昧なためThe Soccer Analyticsではチームオーガニゼーションで統一)といったチーム全体の戦い方を気にする人もいる。

せっかく次の対戦相手の試合を観に行っても、「俺はこう感じた」「私はこう見た」の主観ばかりが交錯し、チーム全体としての分析、次のゲームへのアプローチにつながらない。

「目利き、試合がよく見えるからあのコーチに試合を観に行ってもらおう! じゃなくて、誰が見ても同じ方法でスカウティングできた方がいいですよね」

白井氏が念頭に置くのは、現場での効果、「勝つために」有効な手段としてのスカウティングだ。チームとしてスカウティングの意味、中身やその具体的な方法論を共有できていれば、効率がいいだけでなく、コーチ、スタッフ間、選手とも同じ情報をすばやく共有できる。

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あなたも誤解している? スカウティングで最も重要なこと

「スカウティング」の中身について、もう少し詳しく定義していこう。サッカーの局面は『攻撃』『攻守の切り替え 攻撃→守備』『守備』『攻守の切り替え 守備→攻撃』の4つの『チームファンクション』に分けられる。そしてもう一つ、『The Soccer Analytics』ではサッカーのフィールドを三つに区切って分析を行う。それぞれについては、連載などでご確認いただきたいが、スカウティング対象チームが4つのチームファンクション、3つのフィールドでそれぞれどんな意図を持ってプレーしているかを見分けて、そのチームの全体像をつかむことが、スカウティングの第一段階だ。

第二段階では、把握した全体像と相手チームのレベルに応じて自チームの戦術を調整し、最後に自チームにとってのチャンスがどこにあるのか把握し、その準備を行う。

これまでも次に対戦する可能性のあるチームの"偵察"を行ったことがある指導者は多いと思うが、一番重要な第一段階「相手チームの全体像を把握する」でつまずいている人も多いのではないだろうか? 自チームの分析でも同じだが、何も準備しないで見るにはサッカーは複雑すぎる。

攻守がめまぐるしく入れ替わるゲームを何の基準もなく見つめていても、「あの選手は何か光るものを持っている」とか「あのサイドバックならうちは右サイドから攻められるな」とか、やけに大きすぎたり、逆にミクロの視点だったり、視点が定まらない。次の試合にチームの戦術として落とし込める"お土産"を持ち帰るのは難しい状態になってしまう。

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相手チームの全体像を把握するためには「狙い」と「原則」を見分ける

The Soccer Analytics』のゲーム分析では、主に自チームの分析について時間を割いている。チームに「目的」と「原則」を設定し、選手の実行度をみることで、うまく行かなかったことは「サッカーの問題」として把握でき、うまく行った点は「成長度」として客観的に分析ができる。

スカウティングとなると少し勝手が違ってくる。相手チームを分析するに当たっては、そのチームが何を「目的」にして、どんな「原則」を持ってプレーしているのかを完全に知ることはできない。

「予測になりますよね。『目的』や『原則』にどんなものが設定されているかを見分けることです」

全体像を見分けるためのプロセスはこうだ。まずチームオーガニゼーションを確認する。そして次に相手チームの「狙い」を見分ける。この「狙い」は自チームの「目的」に相当する。

「自チームの場合自分たちで設定するので明確な『目的』になりますが、相手チームの場合は、予測になってしまいます。100%ではないので、『狙い』としましょう」

白井氏が言うように、「相手の目的」というより「相手の狙い」を予測する方が、試合を見る上での心構えとしても、スタッフ間で共有する際にも通りがいい。「狙い」に応じたどんな「原則」を設定しているのか、これが見分けられれば、相手チームの全体像をつかむことができるようになる。

「狙い」とそれに基づいた「原則」は、選手が最優先に実行することだ。これは実際のフィールドでもプレーとして頻繁にあらわれ、試みられる。狙いと原則をチームファンクション、フィールドの場所と組み合わせて見れば、相手チームがどのチームファンクション、フィールドで、どんな狙いを持って、どんな原則を持ってプレーしているのかが見えてくる。これで、スカウティング対象チームのアウトラインをつかむことができる。

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それぞれを見分る方法、コツについては、COACH UNITED ACADEMYで詳しく語られているが、受講の際はスカウティングの定義、『The Soccer Analytics』の連載で基礎知識を予習しておくと理解が早いだろう。

次回はCOACH UNITED ACADEMYの後編テーマに合わせて、前編でつかんだ相手チームの全体像を自チームとの相対的比較対象として評価し、スカウティング結果を「勝つための方法」として活用するプロセスを紹介する。

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【講師】白井 裕之/
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はワールドコーチングスタッフとして海外選手のスカウティングを担当。また、昨年9月からは、ナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。