TOP > コラム > 欧州サッカーの常識。育成年代でも相手に応じた戦術変更は当たり前/勝つための結論を導くTSA式スカウティング講座

欧州サッカーの常識。育成年代でも相手に応じた戦術変更は当たり前/勝つための結論を導くTSA式スカウティング講座

「スカウティングとは何ですか?」という質問に戸惑う人は多いかもしれないが、「何のためにスカウティングをしますか?」という問いに対する答えは最終的には一つに集約されるのではないだろうか?

サッカーというゲームには、チームが求めるのは「勝利」という前提がある。『The Soccer Analytics』式チームスカウティングが、「勝つためのスカウティング」だと聞けば、あなたのスカウティングへの見方も変わるかもしれない。

COACH UNITEDの人気連載、『The Soccer Analytics』でお馴染みの白井裕之氏が構築した"スカウティング"理論を紹介する連載の後編は、現在公開中のCOACH UNITED ACADEMYの内容に合わせて、「勝つための結論を導く方法」にフォーカスしてお届けする。(取材・文 大塚一樹)

この記事の動画はオンラインセミナーで配信中!詳しくはこちら>>

<< 前回の記事を読む 

001.jpg

相手チームに「勝つための結論」をどう導き出すか?

The Soccer Analytics』のスカウティングには「対戦相手を丸裸にし、勝つための結論を導く方法」と副題がついている。前編では、主に対戦相手を丸裸にするための基本概念とその手順について触れた。簡単におさらいすると、対象となる相手チームの各ファンクション、フィールドごとの「狙い」を予測し、どんな「原則」を持ってプレーしているのか明らかにすることが大きなポイントになる。「狙い」と「原則」を見分けることが、相手チームの全体像である「戦略」をつかむことにつながる。

「このあとが、指導者、コーチとしての醍醐味、一番面白いところですよね」

白井氏は、スカウティングによって導き出された結論、つまり相手チームの優先するプレーからつかんだ全体像を材料に、レベルや噛み合わせを見ながら自チームの戦術をアジャストし、勝つためのチャンスを見出してくことこそ、サッカーの醍醐味だという。

スカウティングセミナー(CUA版)_ページ_21edit.jpg

日本では、あらかじめ設定した「自分たちのサッカー」をやり遂げることに重点が置かれる傾向が強く、相手に合わせることや、戦術変更を「余儀なくされる」ことがネガティブにとらえられがちだが、ヨーロッパでは育成年代でも年齢に応じた勝つための戦術変更、アジャストは当たり前に行われている。こうした中で、あえて日本的な言葉を使わせてもらうが、「個人の戦術眼」が養われているのは想像に難しくない。

相手の研究がどれだけうまくいっても、各チームファンクション、フィールドごとの相手チームの狙いや原則に、自チームが対応できなければ意味がない。

「スカウティングどおり強かった」「事前研究したとおり噛み合わせが悪かった」では、分析したスカウティング担当者の自己満足、机上の空論になってしまう。『The Soccer Analytics』式のスカウティングでは、自ら分析から現場の指導までをこなす白井氏がメソッドを構築、「勝利」に集約される方法論を紹介している。

相手チームの情報を自チームと「噛み合わせる」

話を進めるに当たって、相手チームによって戦い方を変えるのは育成年代においても必要か重要であるということを共通理解としたい。スカウティングを活かすというタームに移行するに当たってのキーワードは「噛み合わせ」になる。

スカウティングに基づき、自チームとの噛み合わせを見るための手順をざっと紹介しよう。

相手チームのスカウティングは、もちろん自チーム以外のチームとの試合を想定しているので、試合が終わったあとにノートや戦術ボード、パソコン上で自チームとの比較検討を行うことになる。

スカウティングセミナー(CUA版)_ページ_22.jpg

①は、スカウティングで得られた相手チームのチームオーガニゼーション(システム)と、自チームのチームオーガニゼーションを対峙させることから始まる。自チームのチームオーガニゼーションを極端に大切にしていたり、逆に「単なる数字合わせ」と軽視していたりするチームもあるが、チームオーガニゼーションは、チームファンクションやフィールドの場所によって「起こりやすいこと」を予想する上で大きな手がかりとなる。

②では、『攻撃』『攻守の切り替え 攻撃→守備』『守備』『攻守の切り替え 守備→攻撃』の4つのチームファンクションでのお互いの噛み合わせを比較して、想定されることを明らかにしていく。

「たとえば、自チームの『攻撃』を見る場合は、相手チームがそのとき行っているチームファンクションである『守備』を噛み合わせていきます。両チームのチームオーガニゼーションをノートの左右に書いて、比べるとわかりやすいですよね。自チームの攻撃の「目的」と、相手チームの守備の「狙い」を把握した上で、頭の中、紙の上でシミュレーションしてみます」

③は、自チームと相手チームが戦った場合のシミュレーション精度を上げる作業とも言える。

「サッカーには対戦相手がいます。どこまで行っても相対的なスポーツだということが言えます。対戦相手が自分たちと同じくらい、強い、弱い場合、それぞれ『できること』が変わってきますよね。それを情報として加えた上で、最終的なシミュレーションをしていきます」

相手チームのレベル感、自チームとの相対的な実力差を考慮することで、自チームが設定する「目的」が実行可能なのか? どの程度達成できそうかを推測することができる。この情報を加えることで、予想、想定の範囲だったスカウティングを、そのチームと戦ったときの具体的な戦い方のヒントとなる材料に変換できる。

スカウティングセミナー(CUA版)_ページ_23.jpg

ストロングポイントとウイークポイントを見分け、自チームの可能性を最大化する

こうして揃えた材料をもとに、次はいよいよ自チームの勝機、可能性を探っていくことになる。「スカウティング」というと、分析や研究で終わりというイメージを持つ指導者も多いかもしれないが、「現場ですぐに使えてすぐに役立つ、結果が出る分析論」を標榜する『The Soccer Analytics』では、勝つための方法論に落とし込むまでをスカウティングとしている。

自チームのチャンスを最大化するためには、「相手チームのストロングポイントを無効化」し、「相手チームのウイークポイントを利用する」ことが求められる。COACH UNITED ACADEMY本編では詳しく述べられているが、お馴染みの『5W診断』を用いて「ストロングポイントの発動条件」と「ウイークポイントの発生条件」をそれぞれ把握し、どうすれば自チームのチャンスを多く作り出せるか?に落とし込む。

ストロングポイントが「発動」するもので、ウイークポイントは「発生」するものだという白井氏のこだわりも面白い。

「相手チームのストロングポイントがフィールド上で起きているときは、「狙い」がうまくいったときですよね。彼ら自らその状況を「発動」させているわけです。ゲームの必殺技のようですが、まさにそんな感じで、いくつかの発動条件が揃ったときにストロングポイントが発動します。一方でウイークポイントはミスや予期しないプレーによって「発生」するものです」

The Soccer Analytics』ではコミュニケーションの前提となる言葉の定義、用語の統一の大切さについて繰り返しお伝えしているが、こうした言葉が共有できていれば、スカウティングをコーチ、スタッフ間で共通認識にし、トレーニングに活かしながら選手に浸透させていくことも容易になる。

スカウティングセミナー(CUA版)_ページ_29.jpg

駆け足で紹介したが、具体的な方法論についてはぜひCOACH UNITED ACADEMYで学んで欲しい。『The Soccer Analytics』式チームスカウティングは、チームの勝利はもちろん、プレーモデルの発展、選手個々の成長にも大きく貢献するメソッドなので、日々の指導と結果の両立に頭を悩ませる指導者にとって得るものも多いはずだ。

相手チームの研究や、相手選手の分析だけでは片手落ち。手順に沿って自チ-ムとの噛み合わせを深く見ていくことで、シミュレーションの再現性が上がり、"勝ちの芽"をより多く作れるようになる。相手チームの全体像を把握することで彼我の差を正しく測り、自チームのチャンスと可能性が最大に活かせるような準備=トレーニングを行うことこそが、スカウティングによって勝つための結論を導く方法だ。

<< 前回の記事を読む 

この記事の動画はオンラインセミナーで配信中!詳しくはこちら>>

オランダサッカー協会も高く評価した白井氏のゲーム分析メソッドはこちら>>

tsa.PNG
tsa2.PNG

【講師】白井 裕之/
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はワールドコーチングスタッフとして海外選手のスカウティングを担当。また、昨年9月からは、ナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。