04.20.2018
「90%が失敗に終わってしまうぞ」クロード・デュソーが日本の高校サッカー部に指摘した"8つの課題"
3月上旬、大阪府高槻市で行われた「フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI~世界トップの育成コーチングに迫る」(主催:園田学園女子大学短期大学部)をレポートする。(取材・文:貞永晃二)
2日目のフォーラムでは「日本サッカーの育成の方向性について」と題し、濱吉正則氏(元SV Horn監督・九州産業大学監督)、遠藤雅大氏(元日本代表・サッカー解説者・ESA代表)、鴨川幸司氏(ガンバ大阪アカデミーサブダイレクター)、永野悦次郎氏(大阪桐蔭高等学校サッカー部監督)に加え、コーディネーターに河端隆志氏(関西大学 人間健康学部 教授)、コメンテーターにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクター、ジャンクロード・ラファルグ氏というメンバーで行われた。※以下敬称略
日本に足りない「連続性」。長期一貫型の指導をどう考えるか?
河端隆志(関西大学 人間健康学部 教授):カール・ディームという人が、「スポーツは遊戯としての遊びで始まって、競技としての遊びで終わる」という言葉を残しています。日本の戦中・戦後の体育には自由と遊びがなくなっていたのは事実です。長期一貫型の指導について、小さい時からいろんなキャリアを積んでいければいいと、協会もそういうふうに考えていると思います。
そんな中で考えなければいけないのは、「連続性」だと思います。日本に一番欠けていることだと思います。最初は遊び、そこから10歳くらいになるとちょっとお兄ちゃんの責任というものが出てくると思います。そしていよいよ大人の入り口に入って、そこからキャリアを積んで、というような大きなスパン、つまり出口像をしっかり見据えた指導というのが重要だと思います。
各カテゴリーで何が必要なのか、現実ばかりを見るのではなく、将来を見据えた選択、そういったことは日本の各トレセンでもできていない県が多いでしょう。効果的なプレーとは何かを常に問うことが重要であり、学ぶ内容としてはサッカーだけではなくて、いろいろな身体活動の基本的なスキル、そこからゲームを学ばなければいけないと思います。
パネリストの方に育成という大きなテーマについて、どのカテゴリーまでに何を身に付けていかなければいけないのか?それがその後の選手育成につながっていくのではないか。そこのところを具体的に聞きたいと思います。
ビルバオの練習で見た「選手に考えさせる指導」
鴨川幸司(ガンバ大阪アカデミーサブダイレクター):
今の質問とは違うんですが、いろいろたくさんの情報があって、練習方法もいろいろあって、選手たちも技術的にも戦術的にも上手くなっていますが、置かれた状況が変わったときにも同じことをしてしまうんです。去年まで中学生を指導していましたが、ガンバにはセレクションで選ばれた日本の中ではある程度上の子が来ますので、トレーニングで教えたら上手くなりますが、自分で考えない子も多い。
例えば、相手が前からプレッシャーをかけてきて、裏が空いているのをずっとつないでいてボールを失ってしまう。ハーフタイムでラインが浅いから裏を狙ってみたら?と言うと、その通りやって試合には勝ちます。すると次の試合で相手が少し下がって守っていても前の試合と同じようにする。ハーフタイムでまた言われて直る。それはコーチに言われたことをやっているだけで、自分で解決しているのではない。そういう点が足りないなと思います。
先ほどの質問に戻りますと、小学生の頃から技術を単純に教えるのも大事ですけど、そういう自分で問題を発見し解決していくことがとても大事だと思います。昨年末にスペイン・バスク地方のクラブを回ってアカデミーダイレクターと話していい経験をさせてもらいました。
A・ビルバオの練習見学で、ロッカールームでのミーティングにも入れてもらえて、中1の選手らが練習前、ホワイトボードに当日の練習メニューを書いていると、やってきた選手たちがその練習に対して注意すべきことを話し合って書いていったんです。その完成したものを最後コーチと選手たちで確認して、今日はこういう取り組みをしようとなりました。ああ選手に考えさせているんだな、そういうのが日本ではなくなっているのかなというのを感じましたね。
クロード・デュソー氏の指摘「90%が失敗に終わってしまうぞ」
永野悦次郎(大阪桐蔭高等学校サッカー部監督):
ジャンクロードさんはINFに18年間おられるんですね。私は選手をヨーロッパに連れて行き始めて13年です。すべてINFへ行ったわけではないんですが、クロード・デュソーさんとアンドレ・メリルさんと一緒に携わってきましたが、「お前、毎回大阪桐蔭の選手を連れてきても、いつも同じ課題を持っているね」と言われてしまいます。1年生を連れて行くのですが、入学してきて1年ほど経ってフランスやヨーロッパに連れて行くとそう言われたわけです。
過去の選手というのは、フィジカルを優先しすぎ、ボールを持っていないときの無駄な動きが多すぎる、技術が雑、基本戦術が足りない(単純にポジショニングやかけひき、ワン・ツー・スリーなど)。
昨年スペインでジローナFCと対戦したときデュソーさんに「1回も1・2・3がなかったじゃないか」と言われました。
そして勝ちにこだわりすぎ、これはすごく感じます。さらに、攻撃の気持ちが足りない、ボールを回せば回しっぱなしみたいな感じ、選手一人ひとりが練習での修正が足りない、ロングボールが多い、これはいつも言われるんですが、90%が失敗に終わってしまうぞと。
<<クロード・デュソー氏の指摘>>
1.フィジカルを優先しすぎ
2.ボールを持っていないときの無駄な動きが多すぎる
3.技術が雑
4.基本戦術が足りない
5.勝ちにこだわりすぎ
6.攻撃の気持ちが足りない
7.選手一人ひとりが練習での修正が足りない
8.ロングボールが多い
では、ヨーロッパはどうか、世界はどうか?未来のサッカー選手とは? ぜひ日本の選手もそういう選手になってほしいと言われたのが、「素早い動作のできるテクニシャン」、「チームのために頭を使う戦術者」、「フルゲームを走れるマラソン選手」、「ボールを扱えるスプリンター」、「自分自身をコントロールできる大人な選手」です。
<<未来のサッカー選手>>
1.素早い動作のできるテクニシャン
2.チームのために頭を使う戦術者
3.フルゲームを走れるマラソン選手
4.ボールを扱えるスプリンター
5.自分自身をコントロールできる大人な選手
こういった選手が未来のサッカー選手で、これからはこういう選手を育てていかないといけないぞと言われて、我々もいろいろ指導法を考えながらやっています。
【フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI】
2018年3月1日から2日間、大阪府高槻市で開催された指導者向けイベント。「世界トップの育成コーチングに迫る」をテーマにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクターを務めるジャンクロード・ラファルグ氏を招き、指導者講習会や日本国内から有識者を招いた育成フォーラムが開催された。
・主催:園田学園女子大学短期大学部
・後援:高槻市教育委員会、文部科学省科学研究費助成事業「スポーツ指導(コーチング)における「クロス・カルチャー」研究の検討」(若手研究B 代表:中村泰介)
・通訳:松原英輝氏(元横浜F・マリノス トップチームコーチ兼通訳、現JFAアカデミー福島所属)
取材・文 貞永晃二