04.25.2018
「こう動きなさい」ではなく「見てごらん」と気づかせる/対応力に優れた"世界基準"の選手を育てる方法
3月上旬、大阪府高槻市で行われた「フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI~世界トップの育成コーチングに迫る」(主催:園田学園女子大学短期大学部)をレポートする。(取材・文:貞永晃二)
2日目のフォーラムでは「日本サッカーの育成の方向性について」と題し、濱吉正則氏(元SV Horn監督・九州産業大学監督)、遠藤雅大氏(元日本代表・サッカー解説者・ESA代表)、鴨川幸司氏(ガンバ大阪アカデミーサブダイレクター)、永野悦次郎氏(大阪桐蔭高等学校サッカー部監督)に加え、コーディネーターに河端隆志氏(関西大学 人間健康学部 教授)、コメンテーターにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクター、ジャンクロード・ラファルグ氏というメンバーで行われた。※以下敬称略
トレーニングで何を感じさせるかが大事
河端隆志(関西大学 人間健康学部 教授):
フットボールとは相手があって味方がいて、プレーの原則がある。その中で、攻撃と守備の数的不利をいかに数的同数、または優位にもっていくかなど、そういった「対応力」は小さい時から身につけていく必要があるんじゃないかと思います。そのあたりはいかがでしょう?
遠藤雅大(元日本代表・サッカー解説者・ESA代表):
そう思います。小5、6くらいから中3くらい、それくらいまでですね。時間をテーマにしたとき、日本サッカーでは時間を作るということは、下がる(後退する)ということになってしまうんですね。
時間を作るというのがどういうことかを理解できている少年が少ないと思います。もちろん考えさせるには、どういう材料を与えてあげられるかがすごく大事で、先ほどからトレーニング方法の話が出ていますが、私は、トレーニング方法はどうでもいいと言うんです。
何をトレーニングで思慮できるかということが大事で、何を感じさせるかが大事なんです。
その中で相手チームはこういう狙いなんだと、あの藤井六段が相手の先の指し手を読むのと同じようにサッカーでもそうした力を身につけておくことが大事だと思います。
今の日本サッカーというのは、みんな平均点の選手のように思えるんです。そうじゃなくて、他のことは平均点でも、これは得意だというものを持っているというのが大事になってくると感じています。
ヨーロッパと日本で異なる間違いや失敗への感覚
濱吉正則(元SV Horn監督・九州産業大学監督):
旧ユーゴスラビアとオーストリアの年齢別トレーニングですが、どこの国でもだいたい同じようなもので、日本協会でやっていることと変わりませんが、いろいろ指導して日本人と比べてとても面白かったのは、オーストリア人だけでなく、旧ユーゴやオランダ人もいましたが、彼らは間違うことをそんなに怖がらない。
例えば、練習をしていてルールが違うよとなって、ああそうかと言って自分の理解でやっていく。彼らは理解したとおり自分の考えでやっていく。自分自身で考えて理解して、間違ったら間違ったで、ああそうなのかと。日本人選手は間違うことをすごく怖がります。
だから正直、成長の度合いが遅かった。ただ、日本人にはヨーロッパにない感性がありますが、ヨーロッパでは言葉にしないと分からない。例えば、「察しろ」「空気を読め」なんて基本的にありません。監督をやっていて、言葉の使い方とか、エモーションの使い方がすごく難しくて、それをしっかり伝えられないと、監督はやれない。
日本人は小さい頃からそういう中で育ってきていますからね。ただ、ことサッカーの部分で言うと、やはり先ほどの話で原理原則という年齢別に何を身に付けるかで言うと、日本では「自分たちのサッカー」とよく言いますけど、そこに論理的なものがあるのかというと、少し欠けている気がします。
ヨーロッパの選手の「対応力」は、2部、3部でも高い
自分がいたチームでも、2対1になって、味方を使えばゴールできるのに、パスをせずドリブルしたという単純なシチュエーションでも、彼らはゴールから逆算していろいろなプレーをするんです。例えば、ゴールさせない、あるいはゴールすると言うところから考えるんです。日本でよく「個の育成」と言いますが、それがプレーにつながっていないのは、少し気になります。「個」というと、単純にドリブル、1対1、ボールを奪うということで止まって、そのプレーの共通理解につながっていないんじゃないかと思います。オランダ・アヤックスの白井裕之さんと話したときも、オランダに来る日本人のチームを見ると、「自分たちのサッカー」をしているときは強いが、ハーフタイムに相手が修正してきたら何もできなくなると言われました。
ヨーロッパの選手の対応力というのは、2部、3部でも高い。相手の状況を見ながらプレーする。それは原理原則から導き出した論理的なサッカーを見て、ではどうやってゴールするのか。時には監督のいうことを無視して、思い切ってリスクを負ってやる。
プレミアリーグを見ていても、どうしてそこへ行くの?ということがある。彼らは決断するんですね。生活の部分から導き出されたことだったり、文化からだったりするので、日本人選手に対してヨーロッパではこうなんだよと言っても無理かなと思います。
日本化していく、日本人に合わせた形で、トレーニングでメンタルも決断力もすべてを複合的に鍛えていく方法を、自分たちで作っていかないといけないと感じます。そこが指導の面白さでもあると思いますね。
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「こう動きなさい」と言うのではなく「見てごらん」と気づかせる
河端隆志:
フランスでは13歳から前の年代にはどのように取り組んでいるのでしょうか?
ジャンクロード・ラファルグ(INFディレクター):
子どもたちを指導する上で彼らの成長段階、つまり脳や身体の成長段階を考慮してトレーニングしていくことが重要で、12歳までは認識力などはまだ十分発達していないので、まず指導者がデモンストレーションして、真似して身に付けていくということが、必要だと思います。
まだこの年代は教育的に指導していく年代なので、たくさんのゲーム形式の練習をします。そして、5、6歳と11、12歳とでは全く違うのです。5・6歳の子はエネルギーを発散したい、サッカーを楽しみに来ているので、ゲームをたくさんします。練習も退屈しないように待ち時間を短くします。
10、11歳になると少しずつ少ない人数での状況のトレーニングをやっていきます。そして数的同数や、数的不利な状況でも練習しますが、それを試合で必ず彼ら自身が作り出せるかと言うと、そういうことではありません。
ただボールにすごく集中する年代なので、ボール以外のことにもっと注意を向けさせる。そのためにそういう状況のトレーニングをします。まず小さい年代は5人制、次に7人制、9人制と発展させます。ゲームの中でポジションは固定せず、DFでも攻撃参加していい、自由に動いていいのです。
10、11歳からは味方やスペースというものへの認識を養っていけると思います。3対2や2対1、そしてそのシチュエーションのトレーニングをして、ときどきプレーを止めて周りを見てごらんと言います。コーチがこういう時はこう動きなさい、と言うのではなく、見てごらんと言って選手に気づかせるのです。
そして、この年代の子どもたちはゲームを再開したら、また同じような問題が起こってきます。でも、(我慢して)答えを与えるのではなく、彼ら自身で気づけるようにやらせるのです。
【フランス・INFのトレーニングに関する記事】
・プロになった選手の80%が13歳で発育が遅れていた子供/フランスのINFが15歳までの育成にこだわる理由
・エムバペ、アンリらを育てたINFのトレーニングとは?/感情を揺さぶり、常に状況変化の中でプレーさせる
【フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI】
2018年3月1日から2日間、大阪府高槻市で開催された指導者向けイベント。「世界トップの育成コーチングに迫る」をテーマにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクターを務めるジャンクロード・ラファルグ氏を招き、指導者講習会や日本国内から有識者を招いた育成フォーラムが開催された。
・主催:園田学園女子大学短期大学部
・後援:高槻市教育委員会、文部科学省科学研究費助成事業「スポーツ指導(コーチング)における「クロス・カルチャー」研究の検討」(若手研究B 代表:中村泰介)
・通訳:松原英輝氏(元横浜F・マリノス トップチームコーチ兼通訳、現JFAアカデミー福島所属)
取材・文 貞永晃二 写真 新井賢一(U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017より)