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成長が遅い選手もフィロソフィの中で評価する/日本サッカーを「日本化」していくために必要なこと

3月上旬、大阪府高槻市で行われた「フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI~世界トップの育成コーチングに迫る」(主催:園田学園女子大学短期大学部)をレポートする。(取材・文:貞永晃二)

2日目のフォーラムでは「日本サッカーの育成の方向性について」と題し、濱吉正則氏(元SV Horn監督・九州産業大学監督)、遠藤雅大氏(元日本代表・サッカー解説者・ESA代表)、鴨川幸司氏(ガンバ大阪アカデミーサブダイレクター)、永野悦次郎氏(大阪桐蔭高等学校サッカー部監督)に加え、コーディネーターに河端隆志氏(関西大学 人間健康学部 教授)、コメンテーターにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクター、ジャンクロード・ラファルグ氏というメンバーで行われた。※以下敬称略

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どの国でもフィロソフィやプレーモデルが浸透している

濱吉正則(テーマ「ヨーロッパでの監督経験を通しての育成について」):

1月までSVホルンに所属して3部と2部で監督をさせていただき、その後ホルンの育成センターでアドバイザーを務め、約2年オーストリアで、それ以前もスロベニアで4年間留学と指導し約6年間ヨーロッパで経験してきました。Jリーグでもいくつかのクラブで育成やトップのコーチをしました。

たぶん、日本人はヨーロッパの情報を良く知っている国の一つではないかと思います。ただ、オーストリアでの2年間で自分自身が感じたヨーロッパサッカーの進化スピードは早くなっていると感じました。テレビをつければブンデスリーガも各国リーグも見られる。毎週サッカーがアップデートしていくような、そういう状況で、もちろん私がいたオーストリアのリーグでも毎週、監督たちや戦い方が進化していく。そういう状況を目の当たりにすると、刺激を受けたし、監督たちがお互い競争する中で、常に学んでいかなければヨーロッパの競争に残っていけないと感じました。

競争に勝っていくには、例えば隣のチームの監督を少しでも上回ることが大事だっていうことをみんな常々言っている中で、それが基本的に育成年代にもつながっているんだと感じました。育成年代についてオーストリアはご存知かどうか、アカデミーのところを約10年間で整備した結果、バイエルンのアラバとか、プレミアにいるアルナウトヴィッチ(レスター)とか数多くの選手が国外に出て活躍しています。

私はアドバイザーと言う立場だけでなくて、アカデミーが整備されている中で、トップリーグを見ながら、育成のグラスルーツというか、下の方も見ながら感じたのは、ジャンクロードさん同様に、やはりフィロソフィが出発点であることは、たぶんどの国も変わらないということ。

例えば、オーストリアにはレッドブル・ザルツブルク、ラピッド・ウィーン、オーストリア・ウィーンといったクラブがあります。レッドブルだけはライプツィヒのコンセプトでスタイルは少し違いますが、オーストリアのスタイルはそれほどどこへ行っても変わらない中で、例えば、SVホルンの育成センターがいたトップリーグの下のリーグ戦を見ていても、もちろんチームによって少しスタイルが違ったり、少し指導者の色が出たりあるんですが、基本的にはオーストリアのスタイル、そのフィロソフィやプレーモデルが浸透していると感じました。

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「日本化」していくことが課題

日本にはたくさんの情報が入ってきて、皆さんの練習にもたぶん斬新なものはあると思いますが、ただそれをどうつないでいくかに少し課題があるんじゃないかと思っています。例えば、日本人の指導者は言葉とライセンスさえクリアできれば、ヨーロッパで十分に監督をやれると思いますが、どうやって育成年代にフィロソフィを確立していくのか、それはその国の文化を知ることだとすごく感じました。

自分自身がトップチームの監督をして、最初は選手たちがどういうふうに育ってきたのかが分からず、いろいろ勉強して、育成センターに行ってみて、ああこういう育ち方をして、こういうトレーニングを経験して、ああなったんだなと分かってくると、自分自身の指導もクリアになっていって、選手にもより分かりやすい言葉や、トレーニングに変化していきました。ただ練習メニューをやらせるだけでなく、フィロソフィに従った部分が重要だったんです。

フィロソフィもフランスにはフランスの、日本には日本のものがある。例えばドイツは、この10年の改革がいろいろと取り上げられていますが、ドイツはフランス、オランダ、スペインのいいところを取り入れながら「ドイツ化」したし、スペインもオランダ、フランスのいいところを取り入れて「スペイン化」している。

オーストリアもドイツ、スペイン、フランスのいいところを取り入れながら、「オーストリア化」しています。いろいろな情報のある中で日本も「日本化」していくことが課題かなと思っています。

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全てのプレー、トレーニングをフィロソフィにつなげる

それでは、日本は遅れているんですか?と聞かれたら、全くそれはないと言います。実際、代表選手も、代表に入っていない選手もヨーロッパでたくさん活躍していますし、ポテンシャルは高く、ホルンにも日本人選手が何人かいます。対戦相手にも南野選手、奥川選手がいます。

彼らを見ていても日本人はできるなという印象はありますが、ただそこにどうやって到達していくかで、例えばトレーニングへのアプローチに少し違いがあるのではないかと考えます。ジャンクロードさんの話にもあった、「複合的にアプローチしていく」というところが、少し日本のトレーニングの考え方に欠けている部分だと思います。

今まではフィジカル、戦術、技術、メンタルを個別にアプローチして高めていくという形でしたが、最近の「戦術的ピリオダイゼーション」というモウリーニョらがやった手法。それは何かというと、プレーモデルに従ったトレーニングをする。すべてのトレーニングをつなげていく。それで全体を複合的にアプローチしながら、ゲームインテリジェンスを鍛えていき、それからそれぞれが試合で相互に作用し、効果的にゲームで発揮できるようになるということです。

いろいろなチームの監督と話をして、去年の夏にはホッフェンハイムのキャンプを見に行きました。ブンデスリーガで最年少のナーゲルスマン監督は、SAPのテクノロジーがクローズアップされがちですが、実際1週間見て、その部分はまったくなかったんです。

彼のアプローチの仕方は単純なフィジカルの練習というのは、練習前の補強やストレッチ、スピードというところだけで、他はすべてボールを使った、パス、コントロール、ポゼッション、シュートなどでした。そして、攻守が常に一体化したトレーニングで、全てのプレーがフィロソフィにつながっていました。

例えば、パス・コントロール、ウォーミングアップなどすべてがつながっています。それは、トップだけでなく、育成年代についても一緒だと思います。複合的にアプローチしていくということで、フィロソフィを高め、プレーモデルを構築していくということです。これから日本サッカーがもっと良くなっていくためにさらに必要なことだと思います。(※ホッフェンハイムのトレーニングについてはCOACH UNITED ACADEMYの講義でも解説)

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成長が遅い選手もフィロソフィの中で評価する

オーストリアの育成で4部、5部という下の方でもみんな同じようなサッカーをします。何が違うかと言うとタレントの有無が違うだけで、大きな枠でいうと同じスタイルでやっています。その中で早く成長する選手、遅い選手というところで、成長が遅い選手もそのフィロソフィの中で、自分の成長に合わせていくことが一つ大事なポイントかなと思います。

ホルンの育成センターでもフィジカルの差を重視するのでなく、何年何月生まれだとか、15歳でも生理学的には13歳だとかいう違いのところをよく見ていきながら、根本的な長所、生まれ持ったスピード、インテリジェンスもしっかり見るようにして、基準、スタンダードというところはすごく大事にします。

育成サイドのモデルになる選手はどういった基準の選手が必要か、どういったフィロソフィやプレーモデルに対して育成していくかということ。それに対する評価は、見た目で評価したり、スピード、ジャンプのテストをしたり、サッカーに仕向けて行く、そのサイクルがしっかり回ることが大事だなと思います。

どういうプレーモデルかというところは、もちろんチームによっても国によっても違いますが、トレンドが変わっても、どこの国であっても、大枠ではどういう共通理解でやるのか、コミュニケーションをとっているか、プレー原則、大きな基準があるのか、ポゼッションや、ゲーゲンプレッシング、プレーのスピードというところでどういう特徴があるのかは、どういうスタイルのサッカーになっても変わらないところだと思います。

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【フットボールフォーラム2018in TAKATSUKI】
2018年3月1日から2日間、大阪府高槻市で開催された指導者向けイベント。「世界トップの育成コーチングに迫る」をテーマにフランスナショナルサッカー学院(INF:通称クレールフォンテーヌ)のディレクターを務めるジャンクロード・ラファルグ氏を招き、指導者講習会や日本国内から有識者を招いた育成フォーラムが開催された。

・主催:園田学園女子大学短期大学部
・後援:高槻市教育委員会、文部科学省科学研究費助成事業「スポーツ指導(コーチング)における「クロス・カルチャー」研究の検討」(若手研究B 代表:中村泰介)
・通訳:松原英輝氏(元横浜F・マリノス トップチームコーチ兼通訳、現JFAアカデミー福島所属)