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トレーニングのオフは月曜ではなく火曜がベター。指導者は1週間をどうデザインすべきか?

今、欧州サッカーの最前線では、サッカーというゲームを理解し分析するための枠組みや概念、ピッチの上でチームを組織し動かすための論理やボキャブラリー、そしてトレーニングが、リアルタイムで大きくアップデートされている。

この記事では、「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー」の著者であるレナート・バルディと、同僚エミリオ・デ・レオを交えて欧州の最先端で実践されている統合型トレーニングとは何なのか?について、3回にわたり解説していく。

前回は、「戦術的インテンシティ」を高める統合型トレーニングの概要について述べた。今回は、具体的なトレーニングの実例も交えてさらに詳しく紹介する。(文:片野道郎)

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Photo: Michio Katano

生理学的に見ても火曜のオフがベター

デ・レオ――― 具体的な例を挙げて話しましょう。つい先日インテルと戦ったばかりなので、インテル戦に向けた1週間を取り上げましょうか。試合の翌日、月曜日は、前日の試合に出てプレーした選手は有酸素系の軽い回復メニューをこなすだけですが、試合に出なかった選手は試合と変わらないレベルの負荷でトレーニングします。狭いスペースでのインテンシティの高いミニゲーム、ビルドアップやプレッシングといったメニューですね。そして火曜日は完全オフの回復日です。

片野――――― 一般的には月曜をオフにして火曜日に再始動するチームが多いと思うのですが、月曜と火曜を入れ替えている理由は?

デ・レオ――― 試合翌日は、最大負荷でプレーしたストレスがまだ体に残っていてアドレナリンのレベルも高いけれど、軽い有酸素運動で心拍を上げてやることで体内に残った疲労物質の除去を促進することができます。試合で負った打撲や捻挫といった軽いトラブルをチェックしケアするというメディカル上の観点から見ても、月曜日にすぐ対応できるのは大きい。

生理学的に見ても、細胞の修復といった回復のプロセスは48時間かけて行われるので、月曜よりもむしろ火曜をオフにして回復を促進し、再始動した水曜日からある程度の負荷をかけてトレーニングする方がベターだと考えています。

バルディ――― それに月曜をオフにすると、試合に出なかった選手は軽いメニューしかしない土曜、ベンチから試合を見るだけの日曜に続いて、3日連続で負荷をほとんどかけないまま過ごすことになります。その一方で、火曜日は試合に出た選手がまだ十分に回復していないので、コンディションの落差が大きくなる。これはいい状況ではありません。

それよりも火曜をオフにした方が、チーム全体のコンディションがよりそろった状況で1週間を始め、ある程度インテンシティの高いメニューを組むことが可能になります。選手たちにとっても、月曜日は午前中だけで練習が終わるので、それから水曜まで実質的に丸2日近いオフが取れるというメリットがありますし。習慣の問題もあります。

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戦術的負荷は木曜日をピークに設定

デ・レオ――― 水曜日のトレーニングは、狭いスペースで時間が短いエクササイズが主体です。2分、3分、5分といった単位で、レストを頻繁に入れながら多くの異なるエクササイズを行う。最終ラインからのビルドアップという、我われのサッカーにおける最も基本的なプレー原則の1つに絞って、具体的に見てみることにしましょう。

これはあくまでも1つの例ですが、攻撃側は4人の最終ラインでアタッカーは2人、それに対して守備側は4人で対峙します。4人で横方向にパスを回す攻撃側が、守備側のプレッシャーをかわして、裏にいるアタッカーにパスを送り込む。これを1回1分30秒、異なる条件をつけて4回繰り返すのを1セットとして2セット行います。1回目は必ず2タッチで隣の味方にパスを送る。2回目は1タッチでパスしたり1人、2人飛ばしてパスを送るのも可。

これだけで、攻撃側も守備側も認知と判断の負荷は大きくなります。そのように条件を変えながら4回。しかし、スペースは狭い、時間は少ない、人数も少ない、そしてインプットする情報量もプレッシャーをかわしてアタッカーにボールを送り込むという一点だけなので、実際の試合と比べれば認知と判断に必要な変数は少なく、従って戦術的な負荷はそれほど高くありません。

水曜日は、こうしたタイプのエクササイズをいくつも行います。多くの場合その中に、前の試合で目についたミスや改善点にフォーカスしたエクササイズも組み込みます。

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片野――――― 次の木曜日は最も負荷が高くなる日ですね。

デ・レオ――― トータルの練習時間も、1つのメニューの時間も長く取ります。メンタル的にも集中力を長く持続し、疲労が蓄積した状況でも明晰さを失わず正しい判断やプレー選択をする能力を高めるという狙いです。

具体的には例えば90分の練習を、自陣からのビルドアップ、次の試合に向けた戦術テーマを設定したミニゲーム、制約のないミニゲームという3つのメニューで構成します。人数はすべて11対11です。

最初のユニットをGKからのビルドアップにあてるとしましょう。トリノのシステムは4 -3-3なので、GK、4バック、そして3人のMFが自陣に、3人のアタッカーが敵陣に位置するところからスタートします。次の対戦相手であるインテルのシステムは4-2-3-1で、ビルドアップに対してプレッシングする時には、4バックを残して6人が敵陣まで押し上げてきます。

セントラルMF2人、2列目3人、CF1人の6人です。そして、4バックのディフェンスに対しては、CB2人に対してCFのイカルディとトップ下のバネガがチャレンジ&カバーの関係を作ってプレスをかけてきます。

バルディ――― 我われは中央のゾーンにCB2人、そしてアンカー1人を配していますから3対2の関係ができるわけです。

メンタル的な負荷を段階的に上げる

デ・レオ――― ポイントは、メンタル的な負荷を段階的に上げていくことです。スタート時は守備側に対して「単に我われのGKと4バック、3MFの7人に対して6人でプレスをかけろ」とだけ指示します。このエクササイズのテーマは、4-3-3での後方からのビルドアップという、我われの最もベーシックなプレー原則の強化です。

次に、ある一定の時間が経ったところで、守備側に対して1トップ、2列目3人、セントラルMF2人という陣形からスタートするよう、そしてFWとトップ下はチャレンジ&カバーの関係を作ってプレスをするよう指示します。ここで、基本となるプレー原則にプラスして、次の試合に向けた具体的な戦略と戦術というファクターが入ってくるわけです。

ビルドアップの目的は「敵MF2人の背後でフリーでパスを受けること」。多くの場合受け手はインサイドMFになりますが、そうでなくとも構わない。サイドにボールを出した時には、相手はマークを受け渡してボールサイドの密度を高めてきますから、逆サイドのSBは必然的にフリーになる。そこにサイドチェンジを送るというのも1つの選択肢になります。

バルディ――― 認知と判断という観点から言えば、このエクササイズの狙いは、数的優位の状況を認知してそれを効果的に活用することにあります。敵は4人のアタッカーと2人のMFという6人でプレッシャーをかけてきている。それに対してこちらは4バックと3MFの7人なので1人多い。そこにGKを入れた8人によるビルドアップによって、その1人(とボール)をクリーンな形で6人による敵プレッシングの背後に送り込む。

もし敵が6対7の数的不利を解消するために最終ラインから1人を中盤に上げてきた場合には、その状況を素早く認識して、前線での3対3の数的均衡を積極的に生かすべくそこへダイレクトにボールを送り込むという選択肢が出てきます。リャイッチやイアゴ・ファルケのドリブル突破やコンビネーション、ベロッティのフィジカル能力を生かしてDFを抜き去れば、そこで決定機を作り出すことができますからね。

つまり、毎回異なるプレー展開の中で目の前の状況を読み取る「認知」と、その状況を的確なプレー選択によって生かす「判断」という2つのメンタル的能力のスピードと精度を高めるという側面も持っているわけです。

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デ・レオ――― これが第1のメニューだとすると、第2のメニューは例えばテーマを決めたミニゲームにします。インテルの中盤ラインを越えてその背後にボールを送り込んだ後、どのようにフィニッシュに持って行くかがテーマです。その際のプレー原則は、敵の2ライン間で最終ラインに対して数的優位を作る。3トップに加えてさらに2人が攻め上がり5対4の関係を作る。

その2人はインサイドMFとSBの場合もあれば、2人のインサイドMFの場合もあるでしょう。インテルは通常最終ラインを高く押し上げてプレーしますから、2ライン間にスペースがない場合にはその背後を突くのも有効です。これは攻撃に奥行きを作り出すというもう1つのプレー原則です。

さらに、インテルの両ウイングは自陣に戻らない、あるいは戻り遅れることがよくあるので、そこを突くためにはピッチの幅を使うという第3のプレー原則も生かしたい。そこでミニゲームにおいても、それぞれのプレー原則に対応した3つのテーマを設定します。

「2ライン間でフリーになったウイングあるいはインサイドMFにパスを通して仕掛けた時のみゴールが有効」、「ポストプレーからの落としを受けたスルーパスによってDFラインの裏を取った時のみゴールが有効」、「サイドで2対1の関係を作って崩した時のみゴールが有効」―。これらのテーマを10分ずつで切り替えながら、30分レストを入れずに11対11のミニゲームを4-3-3対4-2-3-1で行います。

そして最後のメニューとなる30分間は、制約なしのミニゲーム。直面している状況を正しく認識し、ベストの選択肢は何かを判断して実行するスピードと精度を高めるという意味でも、疲労が蓄積する中でも集中力を持続するという点でも、最もインテンシティが高くなるのがここです。

片野――――― ここから試合に向けて負荷が下がっていくわけですね。

デ・レオ――― 水曜、木曜の2日間で、ビデオとピッチ上の練習メニューを通じて次の試合に向けた戦術的な情報をインプットした後、金曜日、土曜日はインテンシティを落としつつ、それを復習しながら試合への準備を完成させるフェーズです。金曜日のエクササイズは相手の攻撃に対する守備が主なテーマ、土曜日はセットプレー、そして水曜から金曜までのインプットを最終確認する内容を、フィジカル的にも小さな負荷で20分ほど行います。単なる復習なので戦術的なインテンシティも高くありません。

トレーニングに関する情報は動画を使ってインプット

バルディ――― こうした認知と判断の精度とスピードを上げる上で、1つの鍵になるのが視覚的なインプットの活用です。我われは毎日練習前に短いビデオセッションを行っており、そこでその日に行うトレーニングに関する情報を動画を使って選手にインプットします。

水曜日は、前週末の試合の中からチェックすべきポイントを、修正すべきミスや改善点だけでなくプレー原則が生かされた成功例も含めて見せます。木曜日以降は、次の週末に戦う相手についての情報を見せていきます。

そしてその日のトレーニングメニューにも、そこで見た内容が何らかの形で反映されています。必要ならばそのメニューの内容もアニメーションを使って見せておきます。つまり選手たちは毎日ピッチに立つ時点で、その日のトレーニング内容はもちろん、なぜそれを行うのか、それを行うことによって何をどのように修正、向上あるいは獲得するのかをあらかじめ理解しているわけです。

それが言葉のレベルだけでなく視覚的なイメージとして具体的にインプットされていることが重要なのです。すでに予測がついていたり、取るべき対応をわかっている状況における認知と判断のスピードが、想定外の状況におけるそれよりもずっと速いのは当然のことです。視覚的なインプットは、そうした認知と判断のベースとなる情報の引き出しを豊かにするために、非常に有効です。

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※レナート・バルディと片野道郎の共著「モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー

レナート・バルディ(Renato Baldi)
1978 年生まれ、イタリア・カンパーニア州カーバ・デ・ティレーニ出身。地元のアマチュアクラブで育成コーチとしてキャリアをスタートし、セリエB のランチャーノ、バレーゼでカルミネ・ガウティエーリ監督のスタッフとして戦術分析を担当。ミハイロビッチがサンプドリア監督に就任した際にスタッフに加わり、ミラン、そしてトリノにも帯同。チームのパフォーマンスと対戦相手の分析を担った。

エミリオ・デ・レオ(Emilio De Leo)
南イタリア・カンパーニア州サレルノに近いカーバ・デ・ティレーニ生まれ。地元のアマチュアクラブや当時3部のカベーゼ、ノチェリーノで育成コーチとして指導にあたり(06‐07シーズンにはカベーゼのU‐17を率いてセリエCのスクデットを獲得)、その傍ら独学で戦術研究を進める。2009年からマンチェスター・シティの外部スタッフとして戦術分析を担当。ミハイロビッチがイタリアでは珍しい戦術的ピリオダイゼーションを採り入れたコーチングメソッドを高く評価し、2012年のセルビア代表監督就任と同時に助監督に抜擢した。以来サンプドリア、ミラン、トリノとミハイロビッチの頭脳として行動をともにしている。