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「プレーモデル」を語る前に言葉の定義からはじめよう/TSAが考えるプレーモデルの作り方とプレー原則の設定

日本代表のベスト16進出も記憶に新しい2018 FIFAワールドカップ ロシアでキーワードの一つとしてしきりに挙げられたのが『プレーモデル』という言葉だった。優勝したフランス、準優勝のクロアチアをはじめ好成績を収めた各国の代表選手たちは、自チームの戦略を活かしながら、相手に応じて戦術を選択し、試合の中で『プランB』にも柔軟に対応して見せた。

COACH UNITED ACADEMYでお馴染み、オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストを歴任し、独自の分析メソッド『The Soccer Analytics』を構築する白井裕之氏は、「プレーモデルは、グラスルーツのクラブにこそ必要な概念」だと言う。プレーモデルを明確にして戦うチームと、自分たちのサッカーに終始するチームのサッカーはどこが違うのか? 『プレーモデル』概念そのものから、具体的な構築方法までを聞いた。(文:大塚一樹)

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そもそもプレーモデルとは何か?

「『日本代表のプレーモデル』『プレーモデルが大切だ』ロシアで行われたワールドカップ前後、『プレーモデル』という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。でも、このプレーモデルという言葉、人によって解釈が違う言葉の一つですよね」

オランダでサッカーの分析を徹底して学んだ白井氏は、曖昧に解釈されている『プレーモデル』の概念を定義することが重要だと言う。

「クラブにしてもナショナルチームにしても、特にヨーロッパでは、プレーモデルを明確にして、それをもとに強化、育成を進めることが常識になっています」

ヨーロッパのビッグクラブでは、監督選びから選手獲得、強化、育成に至るまでクラブの定めたプレーモデルを基準にする考え方が浸透しつつある。たとえ資金が潤沢なビッグクラブでも、能力の高い選手、実績のある監督を上から順番にリストアップしても必ずしもいい結果につながらない。

ではどうすれば良いのか? という壁にぶち当たったときの答えが、監督、選手、強化育成方法をクラブに最適化して統一感を持って最大の効果を得ようという考え方だった。

「まず、プレーモデルがあって、それがすべての基準になるという考え方ですね。では、プレーモデルとは一体どんなもので、どうやって定められているものなのでしょう?」

白井氏がアナリストとしてのキャリアを積んだアヤックスは、"アヤックス・スタイル"という言葉があるように、スペインのバルセロナと並んでプレーモデルに忠実なクラブとして知られる。白井氏がアヤックス、オランダサッカー協会での経験をもとに導き出したのが、今回紹介する『The Soccer Analytics』でのプレーモデルの概念だ。

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プレーモデルの出発点は『価値観』

「最初に伝えておきたいのは、プレーモデルというのは、複数の要素が集まった総合的なものだということです。これから詳しく説明していきますが、プレー"スタイル"はプレーモデルの重要な要素であってもすべてではなく、クラブの歴史や経験も単なる感傷ではなく、プレーモデルの構成要素になり得ます。そしてそれは、国や年齢、性別やレベルに関わらず、どんなクラブ、チームにも設定可能なものなのです」

白井氏がまず提示したのは、複数の要素が寄り集まってできているというプレーモデルの構成要素だった。

「出発点としては、クラブの『価値観』ですよね。クラブでも部活でもいいんですけど、そのチームがどんな価値観を共有しているかということです。どんな地域にあるのかなどの外的要因、どんな歴史があって、どんな特殊性があって、将来的にどんなクラブにしたいと思っているのか。どんなクラブでも、価値観によって個性が出てくると思うのですが、これはプレーモデルを考える上で欠かせない要素です」

どれが先というわけではないが、クラブの持つ価値観はそのクラブのサッカーに大きな影響を与える。どんなサッカーをしたいのか? はクラブの置かれた環境とも大きく関係しているのだ。

白井氏が次に挙げたのは、『ゲームアイディア』だ。

「サッカーという競技のなかで、どんな戦略を選択して勝利を目指すのか、どんな特徴を持ってプレーしたいのかの方向性を決めます」

The Soccer Analytics』ではお馴染みの考え方だが、自チームがゲームメイク戦略を取るのか、カウンター戦略で戦うのか? ゲームメイク戦略のなかで、ボールを保持しながら相手ゴールに迫るポジショナルプレーを選択するのか、ゴールに直接的に向かうダイレクトプレーを選ぶのか? ゲームアイディアは相手や状況ではなく、クラブとしての大方針として決定される。

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ここまでがプレーモデルを設定するための"前提"になる部分。次に紹介するのは、フィールド上で行われる具体的なプレーの内容についての構成要素だ。

ゲーム中のプレーを構成する『戦略』と『戦術』

プレー内容に関わるもので最初に挙げられるのが、対戦相手のことを考慮しない、自チームの理想的な戦い方である『戦略』だ。

「日本でよく耳にする『自分たちのサッカー』というのはこの戦略に近い概念ではないでしょうか」

ゲームを戦うに当たって、チームオーガニゼーション(システム)やフィールドごとの目的、プレー原則の設定、各ポジションの設定など、相手とは関係なく自チームが能動的に行うプレーの優先順位を決めていく作業だ。

戦略のあとに来るのが戦術だ。

「戦略で自分たちがやりたいサッカーを設定しますが、サッカーには相手がいます。相手との力関係や相手の戦い方によっては『自分たちのサッカー』をゴリ押しするだけでは通用しないこともあります」

さまざまな理由から戦略が通用しなかったとき、試合前に選択した戦略がうまく行かなかったときに登場するのが『戦術』だ。

「戦術は、対戦相手のことを考慮した自チームの現実的な戦い方のことです。スカウティングをもとにゲームプランを練り、フィールドごとに目的やプレー原則を調整し、各ポジションによる役割、セットプレーなどさまざまな要素を調整する。戦略を相手に応じて調整するのが戦術の役割です。各要素の説明は後で詳しく説明しますが、ここでは戦略だけでなく戦術もプレーモデルに含まれることを強調しておきたいです」

ジュニアのチームでも自分たちが理想とするサッカー、今回の説明で言う「価値観」や「ゲームアイディア」「戦略」にこだわり、それしか考慮していないと思えるようなプレーをするクラブがあるが、サッカーは相手より一つでもゴールを挙げることを最大の目的とするゲームだ。これを無視してサッカーは成り立たない。

「戦略は大切ですけど、戦術もプレーモデルを構成する要素の一つと考えると、勝利か、自分たちのサッカーか? みたいな葛藤はなくなるかもしれませんね」

「自分たちのサッカーができれば自然と結果はついてくる」と「自分たちのサッカーさえできれば試合に負けても仕方ない」は、似ているようで真逆の発想だ。戦略に加えて戦術についてチームとしてしっかり設定しておくことで、指導者や選手のジレンマが軽減される可能性がある。

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プランBを想定する『シナリオ』の重要性

今回のW杯で話題になったもう一つのキーワードが『プランB』だ。試合前に設定したプランAがうまく行かなかったとき、相手に対応されて封じられてしまったときに発動するのが、プランBで、主に日本代表は決勝トーナメント1回戦で敗れた相手であるベルギーや、決勝を戦ったフランスやクロアチアに比べるとこのプランBの想定がなかったと言われている。

白井氏は、戦略、戦術に続いてゲームを構成する要素として『シナリオ』という考え方を提唱している。

「いわゆる『プランB』は戦術の部分で柔軟に対応すればいいのですが、サッカーの試合は、延長戦、PK戦までを考慮すると、得点経過やカードトラブルによる退場リスクなど『プランB』に留まらない戦い方のバリエーションが求められます。『The Soccer Analytics』では、試合中に起こり得る特定の状況のための対処策を『シナリオ』としています」

たとえばロシアでの日本の初戦となったコロンビア戦。開始3分で相手選手が退場、1点先制という状況は想定するのが難しいシチュエーションだが、少なくとも退場者による数的優位、リードした状況という『シナリオ』設定ができていれば、そのシナリオにもっとも効果的な戦術を選択することができる。シナリオがないと、状況が変わっているのに、同じ戦い方を90分続けるという非効率な状況が生まれかねない。

「試合中はさまざまな要因で分岐点が生まれます。そのすべてをカバーするのは難しいのですが、勝っているとき負けているとき、点差や数的優位、不利、延長やPK戦を想定してその時々のシナリオを設定しておけば、選手たちは慌てなくてすみますよね」

ここまでが『The Soccer Analytics』が考える『プレーモデル』を構成する要素。重要なのはどれか一つではなく、これらすべてがプレーモデルを構成しているという考え方だ。

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まとめて紹介すると

・価値観
・ゲームアイディア
・戦略
・戦術
・シナリオ

がプレーモデルを構成する要素になる。『The Soccer Analytics』が考える『プレーモデル』とは、自分たちで設定したチームの戦い方を、実践するための枠組みということになる。
この枠組みを使ってプレーすることが、そのクラブ、チームの特徴となり、他チームとの差異になる。100チームあれば100通りのプレーモデルがある。だからこそ、実際にフィールドで表現されるプレー、それを実現するための強化や育成の方針はチームごとに違って当たり前なのだ。

「日本代表にプレーモデルがない」と嘆く人は多いが、プレーモデルとは何なのか? どうしたら設定できるものなのかを明確に議論できる土壌、ましてや指導者が自チームのプレーモデルを語れる土壌があるとは言い難い。
COACH UNITED ACADEMYではプレーモデルについて白井氏がさらに詳しく解説しているので、ぜひ受講してプレーモデルへの理解を深めて欲しい。

後編は『The Soccer Analytics』の提唱する『プレーモデル』の実際の作り方、自チームの成長にどう役立つのかについて紹介する。

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【講師】白井 裕之/ 1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得