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サッカーの「プレー原則」とは何か?その設定方法とは?/TSAが考えるプレーモデルの作り方とプレー原則の設定

オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストを歴任し、独自の分析メソッド『The Soccer Analytics』を構築する白井裕之氏が『プレーモデル』について解説する記事の第二弾は、より実戦的なアプローチへと踏み込むことになる。

前回は『The Soccer Analytics』の考える『プレーモデル』について、その構成要素を説明した。プレーモデル、ゲームモデル、プレースタイルなどその呼び名も含めてさまざまな言葉が飛び交っているが、ゲーム分析がサッカー指導の入り口にあり、常にアナリティカルな視点でサッカーを観ているオランダの考え方をもとに白井氏が構築した『The Soccer Analytics』を学ぶ上では、ひとまず前編でお伝えした 『プレーモデル』を前提に学んで欲しい。後編では、自チームの『プレーモデル』を検討、吟味し、創り上げる過程を紹介しよう。(文:大塚一樹)

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好き・嫌いや好みだけではないクラブの価値観

すでに紹介したようにプレーモデルは
・価値観
・ゲームアイディア
・戦略
・戦術
・シナリオ

で構成されている。
プレーモデルを設定するというと、経験のあるコーチほど、とかく「戦術的な話」から話をはじめようとする傾向があるが、プレーモデルは必ずしも「自分の理想とするサッカーを押しつけること」ではないことに注意が必要だ。

「幸か不幸か日本にはまだプレーモデルを考えようという概念があまり浸透していないので、指導者はある程度自分の裁量でプレーモデルの中身を設定できると思います。しかし、プレーモデルは例えば『バルセロナのパスサッカーが好き』とか、『南米の激しいサッカーが好き』などの好き・嫌い、好みだけで決められないということは頭に入れておくべきでしょう」

プレースタイルを検討する上で最初に考えなければいけないのが、自分たちのクラブはどんな価値観を持ってサッカーをするのかということだ。価値観のきっかけは、「バルセロナの」、「南米の」、もちろん「アヤックスの」など、目指したいサッカーから考えても構わない。ただし、クラブには歴史があり、創設間もないクラブであっても地域色やいまいるメンバーの特徴、環境や置かれている状況など「目指すべき理想」はともかくとして、現実的な制限を受けることになる。

現実ばかりを見ていては妥協しかなくなり、理想ばかり追い求めていても地に足がついた本当の成長は見込めないのはどの世界も同じだが、クラブの価値観を考えるときには、現実の制限と将来的に目指したい理想をしっかり見据えることが重要だ。

「自然にできていくものだという考え方もあると思いますが、コーチやスタッフの間でこうしたことをディスカッションすることは重要ですし、選手自身に問いかけることも貴重な経験になると思います」

価値観についてはチーム事情などでクラブとして統一したものを持つことが難しい環境の場合もあるが、学年ごとにバラバラなサッカーをしているという事態を避けるためにも、まずは指導者同士がコミュニケーションを取ることが大切だ。

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フィールド上でのプレーを具体化する『プレー原則』

ゲームアイディアもクラブとして目指すサッカーという意味では価値観に近い。

「よくゲームメイク戦略が良くてカウンターは良くないんですよね? とか、ポジショナルプレーの方がダイレクトプレーより良いですよね? と聞かれることがありますが、これは善し悪しではありません。『より積極的で能動的なサッカー』を志向するチームがあってもいいし、『相手にボールを支配させておいてダイレクトプレーで点を取る』チームがあってもいいわけです」

ゲームアイディア、戦略、戦術、シナリオについては、前編で詳しく説明したので、ここからはこれらを実行する際に具体的に必要になってくる『プレー原則』について話を進めよう。

「プレー原則とは、サッカーにおける4つの局面、攻・守・攻守の切り替え(攻→守、守→攻)において、"それぞれの局面で最優先で実行すべきこと"を指します。『サッカーの原理原則』という言葉が一人歩きしている感がありますが、プレー原則は『サッカーだからこうしなければいけない』という原理的なものではなく、自分たちのプレーモデルに応じて4つの局面で優先させるプレーの原則と考えてもらえれば良いでしょう」

白井氏の設定するプレー原則は、1~3のフィールドごと、4つの局面ごとに優先するプレーを設定するものだ。

攻撃の局面を例にとると、たとえばアヤックスでは、フィールド1のビルドアップでは
1. ポジションを広く、深く取る(自陣全体を使う)
2. 2対1を作り出す(数的優位な状況を作り出す)
3. 横パスより、まずは縦パスを狙う
4. ロングパスは、FWが1対1の状況で選択
というプレー原則を設定している。

これはアヤックスの価値観、ゲームアイディアや戦略、戦術、シナリオに基づいて設定されたもので、アヤックス以外、ゲームモデルが異なるクラブではもちろん設定されるプレー原則は変わってくる。

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プレー原則を設定することで選手たちは自分たちのクラブ、チームがどんなサッカーをするのかと言うことが具体的に見えるようになり、どんなプレーをしたらいいかの方向性が示されることになる。プレー原則が設定されていれば指導者はこのプレー原則を実行するためのトレーニングを行うことができる。

「大切なことは、設定したプレーモデルを『トレーニング可能化』することです」

プレー原則を設定すれば、プレーの方向性を示せるだけでなく、試合での評価基準、トレーニングですべきことが可視化できるようになるのだ。

プレー原則は何のためにあるのか? から逆算すると『目的』が見えてくる

プレー原則を設定するメリットはおわかりいただけたと思うが、『The Soccer Analytics』では、プレー原則には、そのフィールド、チームファンクションでチームが目指す『目的』が必要だと考えている。

「順番が逆になりましたが、プレー原則は各フィールドで目的を達成するための手段です。フィールド1のビルドアップなら、フィールド1での目的、大きくはフィールド2へ進む、より具体的にどういう方法で進むのかと言うことを目的として設定します。その目的達成のために、プレー原則が設定されていくのです」

紹介の順番は逆になったが、フィールドごと、チームファンクションごとに自分たちの『目的』を設定し、そこからその目的を達成するために効果的な手段=プレー原則を設定していくやり方がスムーズだろう。

慣れないうちは難しいかもしれないが、目的を設定する際には、自チームがそのフィールドでどんな状態を意図的に作り出したいか? という問いを重ねることで自チームが必要としている『目的』が設定できるようになる。

「目的もプレー原則も、選手に伝える際にはできるだけ具体的である必要があります。その際になるべく形容詞は使わず、できれば数字を用いるなど『具体化』して伝えることを心がけましょう」

広く幅を取るといわれても人によって解釈が違ってはチームの共通理解にはならない。コーチの「広く!」が30メートルでも、選手の「広く」が10メートルだった場合、コーチは「もっと広く!」という怒声を必要なだけ繰り返さなければいけなくなる。はじめから「30メートルの幅を取る」ことをプレー原則にしておけば、こうした問題は労せず解決できるというわけだ。

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目的、プレー原則を設定することは、プレーモデルをフィールド上でどう表現するかという方向性を決めることができる。それまで設定した・価値観、ゲームアイディア、戦略、戦術、シナリオはすべて、目的とプレー原則によってプレーに落とし込まれることになる。

プレーモデルについてはどこか一つを抜き出して説明するのが難しいため、早足で全体を紹介することになった。

COACH UNITED ACADEMYのオンラインセミナーでは、プレーモデルの具体的な作り方、目的とプレー原則の例なども詳しく説明されている。自チームのプレーモデルづくりに興味がある方はぜひ白井氏のセミナーを受講して欲しい。

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【講師】白井 裕之/ 1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得