12.03.2018
あなたはサッカーの集中力を正しく理解しているか?/イングランド流メンタル強化術
COACH UNITED ACADEMY、講師はイングランドのバッシュリーFCという9部(セミプロ)のトップチームコーチと、下部リーグを中心にチェックするノンリーグジェムズというスカウト団体にも所属している塚本修太氏。
後編では、前編でお伝えしきれなかったサッカー指導の現場におけるメンタル強化に必要な5Cコーチング理論の続きについて紹介したい。(文:内藤秀明)
集中力には「質」が存在する
5Cコーチング理論の3つ目にあたる「Concentration(集中)」において、集中力の質を規定する要素は大きく分けて2つ存在する。
それが「Attentional Scan(どこに集中を向けるか)」と「Attention Span(集中力がどれだけ持続するか)」の2つだ。
「もしコーチが話をしているのにもかかわらず、選手が後ろでやっている試合に目を向けている場合、その集中力は『持続しているけど向いている場所が間違っている』ので高くないと判断されます」
集中力の分類
また集中力は以下の4つにも分類される。
・狭い外的集中力
・広い外的集中力
・広い内的集中力
・狭い内的集中力
塚本氏によれば、外的集中力に分類される2つの定義はこうだ。
「『狭い外的集中力』とは、自分以外の特定の何かに意識があること。サッカーで例えるとボール、特定の味方や相手、またコーチの話を聞く行動をする際に必要とされる集中力です。一方『広い外的集中力』では、自分以外に広い意識を向けていることなので、スペースの認知、複数の味方や相手の位置を認知する際に『広い外的集中力』が必要になります」
外的集中力は自分以外に意識を向けるものと考えられるが、内的集中力は自らに依拠したものとして定義付けられている。
「『広い内的集中力』は、戦術を考えることや、実際にチームの流れが良くない時にその原因を考えること、ボールを受けた際に自分にはどういうプレーの選択肢があるかを考える際に必要とされます。そして『狭い内的集中力』では、コントロールする際に足に集中力を向けてボールへの感触を確かめることや、PKやFKの前のセルフトークなどの際に使う集中力とされています」
状況判断と集中力
選手たちはこの4つの集中力を、練習や試合を通して連続的に切り替え続けている。何か一つが足りないと状況判断を誤ってしまうためバランス良くトレーニングすることが大切だ。
「またイングランドは状況判断能力のプロセスにおいて使う集中力が違うと提唱しています。最初に視覚で情報を取り入れてその後に自分の中で認知をします。その際、『広い外的集中力』と『狭い外的集中力』を使います。その後の『Decision-making(状況判断)』のシーンでは、『広い内的集中力』『狭い内的集中力』が必要とされます。そして最後に、『狭い外的集中力』と『広い外的集中力』でプレーを実行すると考えられています」
しかし、状況判断のプロセスにおいては集中力以外にもう一つ重要な要素が存在する。それが「Football memory(サッカーの経験値)」と「Tactical knowledge(戦術理解)」だ。
これらの重要性を示す実験がある。それは「クロスが上がった瞬間に部屋のライトが暗転した場合、クリスティアーノ・ロナウドと一般人のどちらが多くゴールを決めることができるか」を競ったものだ。つまり、視覚以外の情報を頼りにゴールを決める必要がある。
結果には大きな差があった。一般人はボールを見失ってしまい、一度として触ることすらできなかったが、クリスティアーノ・ロナウドは部屋が暗転していたとしても、全てのチャレンジでゴールを決めることに成功したのだ。
「ロナウドは最初に視覚情報を得た後に、無意識下で過去の情報と照らし合わせて今の状況を判断するプロセスでプレーを実行したと考えられており、相対的に視覚から得た情報を使っていないのではないかと考えられています。過去の情報を今の状況に照らし合わせるというプロセスは、人が無意識下でやっています。視覚情報のみで判断する場合よりも時間がかからないため、状況判断が速くなると言われています」
このようにサッカーの経験値や戦術理解が前提としてあった上で、集中力が正しく機能した際に選手は初めて正しくプレーができるのだ。
戦術理解などについて今回は割愛しているが、この後にも集中力を正しくトレーニングできているかを確認するチェックリストや具体的な事例紹介。他にも自信の付け方や感情の制御の仕方などにも塚本氏が言及している。
この機会にメンタル面における課題を網羅的に解決するトレーニングを実施できているか、動画を視聴して確認してはいかがだろうか。
【講師】塚本修太/
前橋育英高校サッカー部でプレーした後、イングランド・サウサンプトンにあるソレント大学でサッカー学を専攻。大学に通いながら、現在はバッシュリーFCという9部(セミプロ)のトップチームコーチと、下部リーグを中心にチェックするノンリーグジェムズというスカウト団体にも所属する。
取材・文 内藤秀明