12.10.2018
オフェンスで優位性を作り出す「ポジショナルプレー」とは? /相手のDFラインを攻略するための攻撃戦術
近頃、「ポジショナルプレー」や「5レーン理論」という言葉をよく耳にするようになった方も多いのではないだろうか?そこで今回は、日本で体育教師を務めた後にスペインのバルセロナに渡り、コーチングライセンスの最高位レベル3を取得した坂本圭氏に「ポジショナルプレー」の解説をしてもらうとともに、そこから発展し、同氏が定義したファイナルゾーンを攻略するための攻撃メゾットである「ダイヤモンド・オフェンス」を紹介してもらった。(文・鈴木智之)
相手の背後にポジションを取って優位性を生みだす「ポジショナルプレー」
COACH UNITED ACADEMY動画では、はじめに「ポジショナルプレーとはなにか?」からスタート。坂本氏は「ポジショナルプレーとは、コンセプトである」と説明する。
「ポジショナルプレーとは、攻撃側がポジショニングで優位性を獲得する『ポジション優位』という考え方が根幹となるコンセプトです。そしてポジション優位とは、相手の背後(視野の外)に、ポジションを取ることを言います」
攻撃時に守備側には守備システムがある。そのシステムのDFラインの選手の間やDFラインとDFラインの間、オープンスペースにポジションを取ること、もしくは基本的に守備側の選手はボールを見る。そこで、ボールを動かしながら守備側の注意をひきつけ、その間に攻撃側が相手の視野から消える(外れる)ポジションを取り、有利な状態でパスを受ける。これが「ポジション優位」という考え方だ。
「ヴィッセル神戸の監督を務める、ファン・マヌエル・リージョが、ポジショナルプレーの生みの親と言われていますが、彼は『このゲームは、相手ディフェンスラインの背後に優位性を生み出すことから成り立っている』と言います。ピッチを自陣、中盤、相手ゴール前と3等分し、それぞれをゾーン1、2、3と振り分ける考え方がありますが、ゾーン1、2で数的優位(2対1)の状況を作りながら、パスかドリブルでボールを前進させてファイナルゾーンであるゾーン3に入ります。スペイン語で『サリーダ・デ・バロン』とはゾーン1からゾーン2へボールを出すことを言います。『最初のボール出し(サリーダ・デ・バロン)でのパスをきれいに出すことができれば、すべてが簡単になる』とファン・マヌエル・リージョは言っています」
さらに坂本氏は、ポジショナルプレーのコンセプトについて、マルティ・パラルナウの言葉を引用。彼はグアルディオラにもっともと近いジャーナリストで「FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッド」「グアルディオラ総論」などの著書がある人物だ。
「常に維持されなければならない唯一のことは、優位性の探求です。別の言い方をすると ライン間にフリーマンを作ることです」(マルティ・パラルナウ)
「ポジショナルプレーのコンセプトで非常に重要なことは、ディフェンスのライン間にできるギャップやオープンスペースでプレーすることによって、オーバーロードを作り出すことです。オーバーロードとは、ある場所において、人数の上で優位になるために、守備より攻撃の人数を多く配置させることを言います」
安定したボール保持を実現させるためのポジショニングルール「5レーン理論」
ここからは、ポジショナルプレーを実行するための「5レーン理論」について、解説が進んでいく。坂本氏は、グアルディオラの例を用いて、5レーン理論の3つの原則を紹介。それが以下の事柄だ。
1)5つのレーンの、縦レーンの中には、最大2人まで入ってOK
2)4つの横ゾーン(ペナルティエリアを省いたエリア)には、最大3人までしか入らない
3)隣り合うレーンに位置する選手は、常に斜めの位置関係をとる。(ゾーン1、2まではこの原則を忠実に守る。ゾーン3は自由)
まず「5レーン」とはグラウンドを縦に5つ区切ったゾーンのことを指す。5レーンにはセンターレーン、右(左)サイドレーン、右(左)ハーフスペースがあり、相手ペナルティエリア外側(ハーフスペース延長上)のゾーンを「ポケット」と言う。
攻撃時には、選手がハーフスペースに入ってボールを受けることで、優位な状況を作り出していく。
「ハーフスペースの利点は、グラウンドの斜め前方、内側を見るだけで、相手ゴールが視野に入ること。グラウンドの中央から離れていないので、プレーの選択肢もセンターレーンでプレーするのと同じぐらいあります」
ハーフスペースを使ってプレーするのがうまいのが、イニエスタだ。相手のライン間にポジションをとり、パスを受けてドリブルで突破、もしくは前方や斜め前にパスを通し、ゴールに繋がるプレーをする。
ハーフスペースのパスコースは縦、外側、内側、後ろの4つ。センターレーンは縦、外側、後ろの3つとなり、ハーフスペースの方が選択肢は多い。さらにサイドレーンにも近いので、サイドレーンでのプレーと同様の効果も期待できる。
「ハーフスペースからハーフスペースへパスをすると、相手の守備が横に動かざるを得ないので、サイドチェンジの効果もあります」
ハーフスペースに選手が入り、攻撃の起点を作りながらポケットへの進入を狙う。それが、ポジショナルプレーにおける、攻撃のひとつの形だ。
「ポケットは相手ディフェンスラインの背後、相手GKから少し離れた位置にあり、相手DFの視野外になりやすい場所です。相手DFはDFラインを守りながら、ボールと相手の両方を見なければならないので、マークが外れやすいのです。ゾーン3ではポケットにパスを送り、シュートやクロスを狙います。なぜならDFはペナルティエリアの手前を守り、ボールが来ない限り、ポケットのゾーンには入らないからです」
COACH UNITED ACADEMY動画では、相手のシステムに対し、どのようなシステムで対抗することで、ポジション優位を作るか。オーバーロードを生じさせる、ハーフスペースの使い方などを紹介。FCバルセロナのメソッド部門ディレクターで、クライフ監督時代から2014年までFCバルセロナのフィジカルコーチを務めたフランシスコ・セイルーロが提唱する「ポジション優位」「数的優位」「質的優位」「社会的感情の優位」という、『4つの優位性を獲得しながらゴールチャンスを想像することが、ポジショナルプレーの目的である』といったことにも言及している。詳細はぜひ動画をご確認いただければと思う。
坂本氏は最後に、グアルディオラの言葉を引用して締めくくった。
「ポジショナルプレーは、各選手がどこにポジションを取ると優位性を獲得することができるかを、理解することが重要である」
「ポジショナルプレーの目的は相手を動かすことであり、ボールを動かすことではない」
「正しいポジションを取らなければならない。その位置はボールがどこにあるかによって変わる」
後編では坂本氏が提唱する、ポジショナルプレーに基づいた「ダイヤモンド・オフェンス」を紹介したい。
【講師】坂本圭/
北海学園札幌高等学校で13年間保健体育の教員(サッカー部顧問)を務めた後、スペイン・バルセロナでスペインサッカーコーチングコースを受講し、レベル3(S級相当)を取得。各育成年代で第一監督やアシスタントコーチを務め、2016~2017シーズンはバルセロナ近郊のクラブCF Badalona(スペインリーグ3部)のトップチームでスカウティングを担当し、リーグ5位に貢献する。
取材・文 鈴木智之