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サッカーの動作に影響する良い姿勢と悪い姿勢の違いとは?/清水エスパルスが取り組む体幹トレーニング

COACH UNITED ACADEMYでは、清水エスパルス アスリート育成コンディショニングコーチの齋藤佳久氏による「適切な体幹トレーニングの導入法」を紹介中。育成年代の選手の運動能力の低下を防ぎ、フィジカルやコーディネーション能力を高めるために、エスパルスアカデミーで実施している体幹トレーニングの考え方、実技の様子をお届けしたい。(文・鈴木智之)

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日常生活から正しい姿勢を身に付ける意識を持つことが必要

後編のテーマは「基本姿勢の理解と身体の安定性を保つ体幹トレーニング」。近年、体幹トレーニングがブームとなっているが、理学療法士として病院勤務の経験を持つ齋藤氏は、正しく理解していない中で体幹トレーニングを実施することについて、注意を呼びかける。

「理学療法士として病院に勤務していると『体幹トレーニングの本を読んでトレーニングしたところ、腰を痛めた』いう方が多く来院されました。本を読んでイラスト通りに真似をした結果、正しく理解できずに特定部位に高負荷がかかり、痛めてしまったようです。普段から、インナーマッスルを中心とした、姿勢保持の筋肉を全く使っていない状態で体幹トレーニングをすると、過負荷の状態になり、ケガに繋がるおそれがあります」

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齋藤氏は「体幹トレーニングの方法論だけを教えるのではなく、根本を教えなければいけません」と言葉に力を込める。トレーニングをする前に、前提条件として重要になるのが、日常生活における姿勢だ。

「日常生活では、座ること、立つことが多いと思います。座る、立つの延長線上に、サッカーの動作である、走る、蹴る、跳ぶ、ステップを踏むなどがあります。まずは基本となる座る姿勢、立つ姿勢が正しくできていないと、サッカーのプレーにも影響が出ます」

育成年代の選手は、学校の授業や電車やバスでの移動、家での勉強など、日常生活の大半を座った状態で過ごしている。長時間、悪い姿勢をし、身体に悪い癖を植え付けている状態で、サッカーのときだけ体幹トレーニングをしても効果が見込めない。まずは良い姿勢で座り、良い姿勢で立つことを意識したい。

●座る時の良い姿勢

「座るときに意識したいのが、坐骨という骨で座ることです。坐骨とは、文字通り座る骨です。太ももの裏側、お尻に近い部分を触ると骨があります。それが坐骨です。骨で座る姿勢が、良い姿勢の目安になります」

座った状態で足を肩幅に開き、つま先と膝が正面を向き、坐骨で座ると、耳と肩と腰の位置が地面に対して一直線になる。それが理想の座り方だ。

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●座る時の悪い姿勢

「骨盤が後ろに倒れているのが、猫背の状態です。坐骨ではなく、お尻の筋肉で座っているイメージになります。他には、骨盤が前に傾く座り方も良くありません。一見、正常な姿勢に見えますが、『骨盤が前傾した状態=腰が反っている状態』になり、腰に負担がかかりやすくなります。これは、太もも裏の付け根に近い部分で座ることで生じます」

立つ時の良い姿勢と、座る時の良い姿勢は基本的に同じだという。

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「立つ時も骨盤を起こし、耳と肩の骨、太ももの横にある骨の出っ張りが、地面に対して垂直になるようにします。足は肩幅に開き、手の親指は前を向けます。骨盤が後傾すると猫背になりますし、耳と肩の線が一致せず、耳が胸より前に出てしまいます。このタイプは手のひらが内側を向いていることが多いです。骨盤が前傾しすぎると、胸を張る形で腰が反ってしまうので、気をつけましょう」

●悪い姿勢(猫背)による影響

・姿勢保持筋(体幹)が弱くなる
・肩甲骨周りの柔軟性や機能の低下
・痛みやケガに繋がるリスク
・後ろ体重になる
・下半身の柔軟性低下
・内臓への影響

齋藤氏は「サッカーは自分の身体の前にあるボールに対して、力を加えるスポーツです。後ろ体重になると、それだけでプレーに悪い影響が出てしまいます」と説明する。

動画では各項目に対する詳細が説明されているので、ぜひ参考にしてほしい。

体幹トレーニングはどこを鍛えているのかを理解して実施するのが重要

ここからは、実際にどのようなトレーニングをしているかを紹介したい。

「体幹トレーニングをする際には、まず良い姿勢を保持すること。そして、身体のどこに負荷をかけるのかを意識させます。基本姿勢がそのままトレーニングの形となります。ポイントは耳と肩と腰が一直線になり、骨盤がしっかりと立っていること。足は肩幅に開き、つま先と膝が正面を向いているのが良い姿勢です。それを理解していれば、形をそのまま体幹トレーニングに応用するので、それほど難しくはありません」

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動画ではフロント、サイドベンチ、バックと呼ぶ、基本姿勢を維持する体幹トレーニングを紹介。エスパルスではこれらの体幹トレーニングを、毎回の練習や試合前に、選手たちがグラウンドで実施している。

「エスパルスでは、ここで紹介した基本となる体幹トレーニングを行ってから、ジャンプ動作や片足立ち、バランスをとるトレーニングなど、ステップ1からステップ3へと段階を踏み、サッカーの動きに近づけていきます。サッカーをはじめとするスポーツの動作は日常生活の延長にあり、日常生活で姿勢が崩れている選手は、サッカーのパフォーマンスに良くない影響を与えてしまいます。日常生活から気をつけて姿勢を保持し、日常生活をトレーニングの一部として取り入れることで、サッカーのパフォーマンスアップにもつながります」

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まずは日常生活で正しい姿勢を意識すること。そして、体幹トレーニングを実施する際には、姿勢やどこの部位を鍛えているかに意識を向けることで、効果的なトレーニングにつながる。体幹トレーニングメニューの詳細は、ぜひ動画で確認してほしい。

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【講師】齋藤 佳久/
理学療法士(PT)、国際PNF協会認定PNFセラピスト、スポーツ栄養スペシャリスト。PTとして10年以上スポーツを専門とするリハビリとサッカーのトレーナー活動に携わる。現在、エスパルス育成部PTとしてメディカル部門を担当する一方、アスリート育成コンディショニングコーチとして、身体作りやパフォーマンス向上、食育に対しての取り組みも行う。姿勢・動作分析から選手を客観的に評価し、必要に応じてパーソナルトレーニングも実施している。