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ボール扱いのうまさがゴールではない。サッカーの試合で活かせる「止める」技術とは?

COACH UNITED史上、過去もっとも反響が大きかったのが、内藤清志氏に解説してもらった『「止める」「蹴る」を確実にできる選手を育てるには?』という記事だ。多くの読者から『プレーの基礎である「止める」について、深く知りたい』『効果的な練習方法をもっと教えてほしい!』という声が寄せられ、それに応える形で制作したのが、ここで紹介するDVD「トラップ新指導論~サッカーをうまくする「止める」技術の教え方~」である。

「トラップ新指導論」の
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このDVDはジュニアを始めとする育成年代から、アマチュアサッカー選手やプロ選手まで、幅広い年代、レベルの選手にとって、参考になる理論が収められている。その内容をさらに深堀りするため、DVDを監修した内藤氏に「なぜいま"止める"が大切なのか?」をテーマにインタビューを実施した。単なる技術論にとどまらない、『試合で活用できる技術』『戦術と融合した技術』の習得法を知りたい人は、ぜひ参考にしていただければと思う。

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「止める」が試合の中でどのような優位性を生み出すのか?

――なぜ「止める」というプレーにフォーカスしようと思ったのでしょうか?

内藤:以前、COACH UNITEDに出演させて頂いたときのテーマが「ボールを止める」にフォーカスしたものでした。日本サッカー協会の指導指針を見ても「止める、蹴る」という言葉は普及しており、その部分の向上が日本サッカーにとって必須であると考えられています。そこで、ボールを止める場所や置く位置によって、どういうことが起こるから、質を高めなければいけないのかといった、「止める」というプレーの理論であったり、ボールを意図したところに止めることで、試合の中でどのような優位性を持つことができるかという部分に、よりフォーカスして考えてみようと思いました。プレーの基礎となる「止める」という技術の高め方に加えて、そこを伝えることができれば、技術と戦術を融合させた、試合で活きるプレーになるのではないかと思ったのが、「止める」にフォーカスした理由です。

――単なる技術習得のトレーニングを紹介するだけでなく、「習得した技術を、試合の中でどう活かすか?」に踏み込んだことは、興味深いです。

内藤:昨今『ポジショナルプレー』という言葉をよく聞きますが、立ち位置で優位性を作っていても、ボールをうまく扱うことができなければ、優位性は失われてしまいます。ボールを扱うことに長けている人は、技能的にボールを動かなくする、つまり止めることはできるので、その技術をベースに、サッカーという競技特性の中で発展させることを考えたときに、どこに、どのような向きで立つことで、その技術がより活かされるのかにも目を向けることで、より適切なプレーをすることができます。サッカーのプレーを適切に実行するためには、技術と個人の戦術の両面から捉えていくことが大切で、その部分を伝えられればと思っています。

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立ち位置と認知・判断、それを具現化する技術が大事

――DVDの中で"止める"について、「何でもできる位置にボールを置く」と表現しています。何でもできる位置にボールをピタッと止めることで、プレーする上で生じる時間のロスがなくなります。その技術がある上で、どこに立てばいいかという、立ち位置の優位性を知ることにより、さらにプレーがしやすくなるのでしょうか?

内藤:はい。トップレベルのサッカーを見ても、まるで手でボールを扱うように、技術は正確になってきています。そのような背景から技術に加えて、思考が重要視されてきていて、頭で考えて実行しようとしたときに、ボールが足元から1メートル離れていたら、触るまでにタイムラグが生じてしまいます。そう考えると、すぐにボールを蹴ることができるところに置く方がいいですよね。キックの精度に目を向けると、利き足の前にボールを置いた方が、正確性は高くなります。さらに、身体がどこを向いているかによって、キックを蹴る角度も変わります。

――「止める」技術は、キックにも大きく影響するのですね。

内藤:技術面に加えて、キックであれば個人の認知、判断も重要になります。ボールが来る前に周りを観て、あらかじめ「ここに蹴ろう」と決めている選手と、ボールが来てから「ここに蹴ろう」と考える選手では、プレーのスピードが変わります。事前にいくつかのプランを持っている選手は、状況によって判断を変えることができるので、「こっちに蹴ろうとしたけどダメだった。じゃあ、こっちに蹴ろう」と、寄り道をしなくて済みます。そうなるためには、ピッチの中でどこにポジションをとっておくのかという立ち位置や、何を見て、情報を入れるのかという認知と判断、プレーのイメージを具現化するための技術。大きく分けて、この3つが大切になると考えています。

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技術を大切にする日本の指導と、欧州の戦術的な思考力を合わせれば

――整理されていてわかりやすいです。そのような考えになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

内藤:これまで、技術の習得についてはこだわってやってきました。それに加えて数年前から頻繁に欧州に行くようになって気がついたのが、どの国の子ども達も、スタートポジション(立ち位置)を、すごく重視することでした。日本とヨーロッパの子どもたちが試合をすると、小学3年生ぐらいだと、日本の子の方がボール扱いははるかに上手なことが多いです。3人、4人とドリブルでかわしていきます。でも、4人目を抜く頃には、1人目に抜いた選手が戻ってくる。日本の子どもたちは、即興性や俊敏性で対処していく瞬発力は優れていると思いますが、「交通整理された道路であれば、そんな凄いドライビングテクニックは必要ないのではないか? 」と思ったんです。運転がそれほど上手くはなくても、道が広くて信号がちゃんとあれば、事故は起こりませんよね。

――つまり、ドリブルの技術がそれほど高くはなくても、適切なポジションをとって、優位な状況を作ることができれば、サッカーのプレーとしては上手くいくということでしょうか?

内藤:はい。欧州の子どもたちはサッカーを上手くプレーするための立ち位置であったり、交通整理の仕方を小さい頃から学んでいるので、運動が苦手な子でも、サッカーの試合の中でそれなりにプレーすることができます。良い位置に立って、無駄なくプレーするので、試合の流れは崩れない。それを見た時に、技術を大切にする日本の指導の良い部分と、欧州の戦術的な思考力を合わせれば、さらに良い選手になれるのではないかと思いました。

――立ち位置も含めた良い判断ができて、さらに技術も正確な選手ですね。

内藤:そのための考え方とトレーニングメニューを、DVDの中で紹介させてもらいました。テーマは「止める」ですが、ボールを止めることはゴールではなく、すべてのプレーの始まりです。言い換えると、ボールを止めることは、サッカーのスタートなんです。時に「止める・蹴る」という言葉が広く普及しているために、ボールを止めることが目的として考えられることもあるので、そのあたりを改善するための手助けになればと思っています。(第2回に続く)

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内藤清志(ないとう・きよし)

筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、筑波大学蹴球部でヘッドコーチなどを長く歴任。谷口彰悟や車屋紳太郎など日本代表選手を指導。その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。