06.10.2020
「認知」を伴う「技術」が発揮できるようになればプレーは正確になる
COACH UNITED史上、過去もっとも反響が大きかったのが、内藤清志氏に解説してもらった 「止める」「蹴る」を確実にできる選手を育てるには?という記事だ。COACH UNITEDでは、その内藤氏にサッカーの基礎であり、プレーの第一歩である「止める」の技術をどのようにして高め、試合で活きる技術にしていくかについて連続インタビューを掲載中。
インタビュー最終回となる第4回目は、内藤氏が監修を務めるDVDトラップ新指導論~サッカーをうまくする「止める」技術の教え方~で実際に内藤氏がDVDの中で紹介した実際のトレーニングを中心に話を聞いた。
「認知」と「技術」どちらによるミスなのかを見分けることが大切
内藤氏は「止める」の重要性を、次のように説明する。
「なぜ止めるが大切かと言うと、サッカーはボールを受けて、最終的にはキックをしますよね。キックとは足で自分の意思を伝える行為ですが、必ずしも正確に行えるとは限りません。イメージしたところに正確に蹴るためには、もっとも蹴りやすい位置にボールを止めることが大切で、それがプレーの第一歩になります」(内藤氏)
ボールを蹴りやすい位置に止めることができなかったり、足から離れてしまうと、正確なキックをすることが途端に難しくなる。サッカー経験者なら、共感してくれるのではないだろうか。
「止める」にミスがなければ、キックもドリブルも成功する可能性が高くなる。ではどうすれば、ミスなく止めることができるようになるのだろうか?
ポイントになるのが、ミスの理由を分析することだ。
「サッカーの中で起こるミスの現象は、2つに分けることができます。1つが認知のミス。どこで、どのような身体の向きでボールを受けて、何を見て、どのようなプレーを選択するかという部分です。そこで難しいプレーを選択すると、難易度が上がって成功率は下がります。もう1つが、技術のミスです。プレーの選択は正しかったのに、それをうまくボールに伝えることができなかったので、ミスをしてしまった。それが技術のミスです」(内藤氏)
指導者が選手のプレーを分析する時に、うまくいかない理由が「認知のミスなのか、技術なのか」を見分けることが大切だという。
「例えば、指導しているカテゴリーの段階によっては、まずは認知のみを鍛えるトレーニング、技術のみを鍛えるトレーニングを分けて実施し、それぞれのレベルが高まってきたら、認知と技術を融合させてトレーニングをすることで、試合の中で活用できる技術が身についていきます」(内藤氏)
足のどこでボールを触れば次の動作に移行しやすいのかを理解する
メニューを例にあげると、いつも行なっている少ない人数の3vs2などをハンドパスで行ってみる。不確実な足ではなく、正確な手を使ってボールをパスすることで、タイミングや位置取り、身体の向きなどに意識を向けやすくなる。結果として技術力に関係なく、認知力は向上する。
内藤氏は「同じ要領で、人との関わりのない止めるという技能に特化した練習を繰り返せば、技術力は上がっていきます。そして最終的には、両方が同時に実行されて行くようなメニューに戻して行くということですね。このように、サッカーの全体像、試合から考えた逆算が指導者には求められています」と言葉に力を込める。
DVDの中に「2人組の対面パス(グラウンダー)」を選手たちにトライさせ、内藤氏が実演する場面がある。そこでは「向かってくるボールに対して足を引いて勢いを殺すのではなく、上下の力を使って、身体の下(正面)にボールを落とすようなトラップをする」と説明している。これが内藤氏の「止める」の中で、もっとも重要な部分だ。
ボールがほんの少しでも浮くと、「地面から2、3センチ弾んでいるよ。それが次のキックの精度に影響してくるからね」「力まずにリラックスして、一回のタッチでボールの息の根を止めよう」と、細部にも目を向けアドバイスを送っていく。
「止める」はグラウンダーだけでなく、浮いたボールにも必要なプレーだ。内藤氏は浮き球の場合は「足首や、足の指の関節の曲げ伸ばしだけでボールが止まることを理解する」「足を引いて浮き球を吸収しようとするのではなく、できるだけ低い位置(地面に近い位置)でボールに触る」など、具体的に指導。実演を踏まえ、シンプルかつわかりやすく説明している。
「止める」のもっとも重要なポイントは「蹴りやすい位置に、出来るだけ早くボールを置く」ことだ。足のどこでボールを触れば止まるのかを理解し、自分の正解を作り、パスもドリブルもできる位置にボールを置く。これはジュニア年代から意識しておきたい部分だ。
DVDでは対面パスで「止める」感覚の基礎を養い、「4人組で行う角度を変えるパス」や「動き出しを伴ったパス」「動き出しからのシュート」「1対1」「ボールポゼッション」「ゲーム形式」など、「止める」にフォーカスしながらも、「身につけた技術を、試合中にどのような認知・判断のもと、プレーに活かしていくか?」という視点で突き詰められたトレーニングが収録されている。
単なる「止める」技能のみを向上させるためのトレーニング紹介DVDではなく、個人レベルでサッカーがうまくなり、全員が「止める」の共通理解を持つことで、チーム力をアップさせるところまで設計された、非常に実戦的な内容だ。
基礎技術を高めるジュニア、ジュニアユース年代のチームにはもちろんのこと、選手間で技術と戦術に共通理解を持たせ、チーム力をアップさせたいと考えるコーチにとって、手助けになるDVDと言えるので、ぜひ手にとって確かめてみてほしい。
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内藤清志(ないとう・きよし)
筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、筑波大学蹴球部でヘッドコーチなどを長く歴任。谷口彰悟や車屋紳太郎など日本代表選手を指導。その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。
取材・文 鈴木智之