08.22.2022
オランダの育成年代ではどんなトレーニングを実施しているのか?オランダサッカーの実情と実際の取り組み
"サッカーコーチのコーチ"として活動中の倉本和昌氏。COACH UNITED ACADEMYにも過去にご登場いただき、好評を博している。倉本氏は2021年12月に、家族5人でオランダに移住。新たなチャレンジを行うとともに見識を広げている。
オランダといえばアヤックスを始め、育成に秀でた国というイメージが強い。近年では、アヤックスからバルセロナに移籍したフレンキー・デ・ヨング、ユベントスに移籍したマタイス・デ・リフト(現バイエルン・ミュンヘン)などのスターが誕生しており、選手輩出クラブとして世界的に有名だ。
そこで今回は倉本氏による「オランダサッカーの育成現場レポート」を2回に渡ってお届けしたい。なぜオランダから、次々に良い選手が生まれるのか? その背景に迫っていく。(文・鈴木智之)
オランダはメガクラブに人材を輩出する意図を持った育成を実施している
セミナーの最初に、倉本氏は「僕はいまオランダに住んでいて、過去にはスペインにも住んでいました。その経験をもとに各国の違いを紹介する中で、『日本のサッカーコーチはどうすればいいのだろう?』と考えるきっかけになればと思っています」とあいさつをし、プレゼンテーションがスタートした。
オランダの人口は1600万人。東京都ほどの人口で、国土も九州程度の広さしかない。近隣にはドイツ、フランスがあり、海を渡ればイギリスがある。サッカーの5大リーグはイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスで、オランダは、ポルトガルに続いてその次のランクに位置する。
「おそらくオランダ人はこう考えたのだと思います。近隣にはドイツを始めとする大国があり、オランダは人口も少ない。サッカー大国に勝つのではなく、そこに人材を輩出するポジションになろうと。オランダの人口は1600万人ですが、サッカー協会の登録者数は100万人いるそうです。街のいたるところにグランドがあり、プロサッカークラブは36あります」
人口1億2500万人の日本の場合、サッカー協会の登録者数は83万人(2021年度)だ。オランダのサッカー人口が、いかに多いかがわかる。
「FIFA管轄の『スポーツ研究国際センター』によると、ヨーロッパ中のリーグでプレーする選手の中で、15歳から21歳までの間に少なくとも3年間どのクラブに在籍していたかを調べたところ、アヤックスに所属していた選手の数がダントツに多いというデータが出ました」
アヤックスはトップチームの他に、「ヨング・アヤックス」(オランダ語でヤング・アヤックスの意味)を有しており、オランダの2部リーグに所属している。
「昨シーズン、ヨング・アヤックスは2部リーグで20チーム中7位で、昇格プレーオフに参加できる位置でした。僕が見に行った試合の、スタメンの平均年齢は19歳。そんな若いチームが2部で優勝争いをするほどの力があるわけです」
倉本氏が観戦した試合には、17歳の選手が2名出ていたというから驚きだ。
「ヨング・アヤックスで活躍した選手は、シーズン途中でもトップチームに入れて、試合で起用します。そこでダメだったら、またヨング・アヤックスに戻す。それを繰り返すことで、若手を育てている印象があります」
今季開幕前、アヤックスから3人の主力選手(リサンドロ・マルティネス、セバスティアン・ハラー、ライアン・フラーフェンベルフ)がマンチェスター・ユナイテッド、ドルトムント、バイエルン・ミュンヘンに移籍した。
「彼らの移籍金総額は150億円でした。ちなみにライアン・フラーフェンベルフは、19歳で100試合出場にしています。アヤックスは、例えば22歳でバイエルンやバルセロナなどのメガクラブに選手を買ってもらうことを見据えて、そこから逆算して選手を育てています。20、21歳の頃に、プロとして100試合出場するには、16、17歳でトップチームにデビューする必要があります。そのためにアカデミーに入った8歳から、どのような段階を経て育成していこうかと考えているのです」
アヤックスからユベントスに移籍したマタイス・デ・リフトは、17歳でトップチームに昇格し、17歳でオランダ代表にデビューしている。その後、19歳でアヤックスのキャプテンを務め、チャンピオンズリーグでベスト4に進出した。
「アヤックスは、20歳前後でメガクラブに移籍するような選手を育てよう、30、40億で買ってもらえる選手を育てるにはどうしたらいいのかという逆算から、意図を持った育成をしていることがわかります」
日本では学校の壁、クラブの壁が存在するため、オランダのような考えで育成をしたくても、慣習的に難しい部分がある。しかしながら、選手の将来を見据えてレールを敷き、意図的にステップアップさせていく考えは参考になるだろう。
オランダの育成年代のトレーニングメニューはあまり日本と変わらない
続いては、オランダの育成年代のトレーニングについて。倉本氏はプロクラブのU-11のトレーニング(サマーキャンプ)を視察した際に、以下のようなトレーニングを実施していたと話す。
・ボール一人に1個
・グリッド内でぶつからないようにドリブル(コーチの合図も)
・ボール蹴り出し
・1対1
・2対2
・5対5のゲーム
「ボールを扱うような技術練習から始まり、パスや対人、最後にゲーム形式と、日本の指導現場で見られる同じような流れでトレーニングを行っていました。他のチームのトレーニングもいくつか視察に行きましたが、それほど大きな違いはありませんでした。特別な練習メニューがあるのではなく、トレーニングに対する考え方やメンタルの部分が大切だと思います」
動画では、実際にどんなオーガナイズでトレーニングが行われていたのかを解説しているので、ぜひ確認してほしい。
他にも動画では、「オランダは、文化的に1-4-3-3システムが染み付いていて、ウイングとサイドバックの対決が頻繁に行われている」「オランダの大人が子どもを怒鳴らない理由」など、興味深い話が次々に飛び出している。
倉本氏の語り口は明快でわかりやすく、日本の指導者が知りたい情報を提示してくれている。知識や考え方をアップデートするためにも視聴をおすすめしたい。
後編では「オランダの事例を踏まえ、日本の指導者はどうすべきかのアクションプラン」をお届けする。
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【講師】倉本和昌/
サッカーコーチ専門コーチ。高校卒業後、スペインのバルセロナに留学。アスレチック・ビルバオにて育成の仕組みについて学び、スペイン公認上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後は湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、2018年よりサッカー専門コーチとして独立。Jクラブ、大学、高校、町クラブ、幼児など様々なカテゴリーのコーチをサポートしている。2021年12月から家族5人でオランダへ移住し、ヨーロッパのサッカーの様々な情報を発信している。
取材・文 鈴木智之