09.05.2022
日本とオランダの練習内容はあまり変わらない。オランダサッカー協会が掲げる育成において重要な3つの指針
"サッカーコーチのコーチ"として活動中の倉本和昌氏。COACH UNITED ACADEMYにも過去にご登場いただき、好評を博している。倉本氏は2021年12月に、家族5人でオランダに移住。新たなチャレンジを行うとともに見識を広げている。
前回の動画で「オランダの練習内容は、日本とほとんど変わらない」という報告があった。しかし、オランダからは多くの有名選手が生まれ、ワールドカップ準優勝を含めて、強国の一角として知られている。なぜ日本と同じような練習をしているにも関わらず、オランダは多くの成果を出しているのだろうか? それが今回のテーマだ。(文・鈴木智之)
ジュニア年代からサッカーは「集団スポーツ」と意識させることが大切
倉本氏は「オランダに来て練習を見るまでは、特別な練習をしているから、すごい選手が出てくるのだろうと想像していました」と話し、次のように続ける。
「でも実際はそうではなく、日本と同じような練習をしていました。そこで、成果が同じではない理由は、トレーニング自体の問題ではないのではないか? と考えるようになりました」
この話を進めるにあたり、重要な問いがある。それが「サッカーとはどのようなスポーツか?」ということだ。
倉本氏は「サッカーに対する捉え方が、日本とオランダでは違うのではないか。だから、同じ練習をしても成果が違うのではないでしょうか」と語る。
日本サッカーの、とくにジュニアや育成年代の現場においては「個を伸ばす」という言葉があるように、選手個々のプレーのみにフォーカスを当てることが多い。その結果、自分一人でプレーをしようとする、あるいは完結してしまう傾向にある。
倉本氏は過去に居住し、長らく指導現場に立ったスペインやオランダのサッカー観を踏まえ、サッカーに対する捉え方を、次のように提示する。
「サッカーは"集団スポーツ"です。みんなで協力しながら、相手を攻略するゲームです。同じピッチ内に相手がいるので、邪魔をしてきます。こちらも、相手がしようとすることを邪魔します。それを一人ではなく、11人という団体でするゲームです。その視点が抜けると『試合の中で、どうやって自分の技術を発揮するか』に目が向いてしまいます」
集団の中で、周囲との関わりにおいて自分の個性、技術を発揮するためにどうするか。その視点が大切であり、日本のサッカー指導に欠けている部分ではないのかと、倉本氏は投げかける。非常に的を得た指摘だ。
「オランダサッカー協会は指針を出していますが、サッカーはそもそも遊び、ゲームです。そのサッカーの目的は、集団で勝利を収めることです。集団で戦って、相手より多く点を取るという目的があります。つまり、みんなで協力しながらやるスポーツという前提があるのです」
その中で攻守があり、得点チャンスを作ること、ビルドアップすること、それらを阻止、妨害するといった要素がある。
このようなサッカーの構造から、実際にプレーとして起こす動作、つまりプレーアクションを、オランダ協会は次の3つに分けているという。それがテクニック、インサイト、コミュニケーションだ。
オンザボール、オフザボールのプレーを支えるものとして、インサイト、(インテリジェンス)、コミュニケーションが入っているのが、おわかりいただけるだろう。
「インサイトとは、相手が何を狙っているのか、味方はどんなプレーをしようとしているのか、ピッチコンディションはどうかなど、周囲の環境を洞察することです。コミュニケーションは、周囲と協力してプレーするために、互いのやりたいプレーなどについて意思疎通をすることを言います」
サッカーを始めたばかり子どもは、テクニックの習得が必要だが、トレーニングをする上で、インサイトやコミュニケーションの要素がゼロであってはいけない。
「子どもの頃、比重を置くのはテクニックですが、年齢が上がっていくごとに、インサイトやコミュニケーションの比重が多くなり、最終的には全部できるようになることを目指します。オランダの育成年代では、その完成形から逆算した指導をすることで、アヤックスのように、17、18歳でプロしてプレーできる選手が育っていると考えられます」
技術は日本の子たちが上。それでも大切なのがコミュニケーション力
倉本氏はオランダで7、8歳の練習や試合を何度も見たという。そこで感じたのが「日本の子どもたちの技術の高さ」だ。
「ドリブルやキックの技術は、日本の子の方が総じて上手です。もしこのチームの中に、日本人のドリブルが得意な子が入ったら、すごく目立つだろうなと思いました」
さらに、こうも言う。
「でも、1回目はドリブルができても、2回目はできないのではないかと思いました。おそらく2回目は、相手チームの子が『この選手は、体ごと行かないと止められないぞ』と気づいて、タックルや体をぶつけられてしまうからです。そうなるとドリブルの得意な選手は、どこでボールを受けたほうがいいのか、どこでドリブルを仕掛ければ良いのかを考えるようになります」
相手のプレーを妨害する、妨害されないように方法を考える。これこそがインサイトであり、集団としてそのプレーを円滑にするために必要なのがコミュニケーションだ。
倉本氏はこれら高めるために、指導者のアプローチに対してアドバイスを送る。
「相手チームが何を狙ってきているのか。いつ狙ってきているのか、誰を狙ってきているのかを感じ取るかことが大切で、そのためには『自分のプレーに集中します』と、内側に入ってしまってはいけないのです。そうなると、相手のこと、味方のことを見られなくなってしまいますから」
サッカーにおけるインサイトとは「ピッチの中にある、目に見えないものを感じる力」だ。動画の中で、倉本氏はインサイトを高めるために「フニーニョ(4ゴールゲーム)」導入のすすめや、コミュニケーションを円滑にするための、試合中の声の出し方(ヘイ!は禁止、具体的な言葉で表現する)など、実例をあげて紹介している。
また「日本人選手が海外に移籍したときに、ボールが回って来ない理由」「日本の社会的、文化的背景を踏まえた上で、どのようにトレーニングを組み立て、コーチングをした方がいいのか」などを、日本の指導現場に即した言葉で説明している。
これまで、倉本氏の動画は様々な気づきを与えてくれたが、今回も非常に役立つものになっている。指導カテゴリーを問わず、必見の動画と言えるだろう。
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【講師】倉本和昌/
サッカーコーチ専門コーチ。高校卒業後、スペインのバルセロナに留学。アスレチック・ビルバオにて育成の仕組みについて学び、スペイン公認上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後は湘南ベルマーレ南足柄、大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、2018年よりサッカー専門コーチとして独立。Jクラブ、大学、高校、町クラブ、幼児など様々なカテゴリーのコーチをサポートしている。2021年12月から家族5人でオランダへ移住し、ヨーロッパのサッカーの様々な情報を発信している。
取材・文 鈴木智之