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速く走れない原因の1つは鉄分不足。指導者が知るべき選手のパフォーマンスを向上させる栄養の知識と活用法

神奈川県の名門・東急SレイエスFCでコーチをしながら、管理栄養士の資格を活かし、育成年代の栄養指導にあたる木下洸太朗氏による「フットボールのプレーを向上させる栄養の考え方」セミナー。

後編ではメンタルと栄養。学習と栄養。エネルギーと栄養について解説をしてもらった。育成年代の指導者だけでなく、保護者や選手自身も必見の内容だ。(文・鈴木智之)

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コミュニケーションが苦手な子どもは「栄養不足」が原因の可能性も

まずは「メンタルと栄養」について。メンタル=心と考えている人も多いと思うが、心はいったいどこにあるのだろうか? 木下氏は「頭、つまり脳に心がある」と話す。

「脳が体に信号を送って、体を動かしたり、いろんなことを考えたり、何かを見て知覚します。考える、見る、話す、物を作る...。こういったことはすべて脳が司っています」

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つまり、脳を起点に神経伝達物質が信号を送り、体を機能させているのだ。神経伝達物質には、ノルアドレナリンやアドレナリン、ドーパミンといった、体を活性化させるものや、神経を落ち着かせる抑制系の物質GABAなど、様々なものがある。

「ノルアドレナリンは興奮ホルモンで、それの元になるフェニルアラニンやドーパミンから変換されていきます。フェニルアラニンの元になる食品には、こんなものがあります」

●アーモンド、アボカド、バナナ、牛乳、牛肉、鶏肉、卵、チーズ

これらが原料になり、興奮ホルモンが作られていく。元になるアミノ酸がホルモンに変換される中で、鉄やビタミンB6、ビタミンC、銅などが必要になるという。

「現代の子どもは、感情の起伏に乏しいと感じることがありますが、食事を含めた環境にも要因があるのかもしれません。なかでも亜鉛不足が叫ばれていて、牡蠣やレバーに含まれる栄養なのですが、亜鉛が不足すると怒りっぽくなったり、イライラしやすくなります。ほかに神経症や心配性、こだわりが強いのも、亜鉛不足によるところがあるのではないかと言われています」

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亜鉛は免疫にも関わる栄養素で、免疫の低下や傷の治りの遅さ、味覚障害や偏食、疲れやすさなどにも影響があるので、日頃から意識して摂っていきたい。

近年、注目を集めている神経伝達物質に「GABA」がある。精神を安定させる抑制性の神経伝達物質で、ストレスの緩和や睡眠の質向上に影響があると言われている。

「GABAはトマトやブドウ、バナナ、発芽玄米、キムチ、キノコ類などに含まれています。中でも、GABAの元になるグルタミン酸を変換させるために必要なビタミンB6は、興奮作用を抑え、ストレスを軽減させてくれます」

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GABAが不足すると、会話がうまくいかない、不安感が強くなる、攻撃性のある行動が増える、アイコンタクトができないなど、社会性に影響が出る可能性もあるという。

木下氏は「社会性がうまくとれない、コミュニケーションが苦手だというお子さんがいた場合、その子の性格などではなく、栄養不足が原因なのかもしれません」とアドバイスを送る。

成長期に必要な栄養素の中でとても大切な「鉄」は不足しやすい

成長期に必要な栄養素は多岐にわたるが、なかでも「鉄不足」は深刻だ。育成年代でサッカーをする子どもたちにとって、必要な鉄分量はとても多い。また、運動による衝撃で赤血球は壊れやすく、鉄が流れ出てしまうことも、鉄不足の一因としてあげられる。

鉄分はレバーに多く含まれているが、毎日食べるのは難しい。そこで木下氏は「鉄は赤身の魚に多く含まれているので、カツオやマグロを積極的に摂るといいですね」と教えてくれた。

ただし、次のように付け加える。「前編の最初にお話ししましたが、栄養は全部繋がっていて、相互作用しています。そのため、ひとつの食品だけ、これを摂っていれば間違いないというのではなく、バランスよく総合的に摂ることが大切です」

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セミナーでは、脳を動かすために必要なブドウ糖、糖質の話や「なぜ、甘いお菓子やジュースはサッカー選手にとって悪影響なのか」などを、血糖値の急上昇、急降下を例に説明している。

ほかにも「学習と栄養」の観点から、脳に必要な栄養の話や、魚に含まれるDHAやEPAの重要性に加え、成長期のサッカーをする子どもたちはしっかりとカロリーを摂ること、朝食と学力の関連性など、様々なトピックについて説明している。

専門用語を交えながらも、語り口は明快でわかりやすいので、指導者だけでなく、サッカーをするお子さんをお持ちの保護者や、選手自身が見ても勉強になるだろう。

最後に木下氏は、ひとつのエピソードを紹介してくれた。チームで持久走に取り組んでいたところ、全力を出して頑張っているのに、なかなか速くならない選手がいたという。

「何かおかしいと感じたトレーナーのすすめで血液検査をしたところ、鉄分がかなり不足していました。それを踏まえて食事とサプリメントで改善し、持久走で学年1位になりました。彼のように、走れない、頑張れないのは精神的なことではなく、栄養が不足していることが原因なのかもしれません」

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このように、指導者が栄養の知識を持つことで、別の視点から選手にアドバイスすることができるだろう。それが選手のより良い成長につながるはずだ。

今回の前後編における木下氏のセミナーは、育成年代の指導者にとって、非常に有益な知識を得られる動画になっている。ぜひ視聴して、日々の指導に役立てていただければと思う。

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【講師】木下洸太朗/
1990年9月29日生まれ。大学時代に栄養学を専攻し、管理栄養士の資格を取得。大学を卒業してから3年後にサッカーコーチを始め、現在は東急SレイエスFCでTOPチームのコーチ、U-6~12のスクールコーチ、ユースとジュニアユースの栄養指導を担当している。