12.19.2022
GKの指導も同時にできる!FC東京が行うGKにフィールドプレーヤーの経験を体感させるトレーニング
FIFAワールドカップカタール2022で、日本のゴールを守った権田修一を筆頭に、各世代別代表に選ばれた波多野豪、青森山田高時代、高校選手権で活躍した廣末陸など、優秀なGKを輩出するFC東京アカデミー。
COACH UNITED ACADEMYでは、トップチームのアシスタントGKコーチとして活動する山下渉太氏、トップチームの藤原寿徳GKコーチによるトレーニングを公開中だ。
FC東京アカデミーでは、どのようなトレーニングを通じて、現代サッカーに適応するGKを育てているのだろうか? 動画後編では「フィールドプレーヤーのプレーを体感する実践トレーニング」を紹介したい。(文・鈴木智之)
シューターの経験をするとフィールドプレイヤーの難しさがわかる
後編最初のトレーニングは「1対1GKでのブロッキング&ドリブルシュートの対応」。担当するのは山下渉太コーチだ。
山下コーチは「動画後編では、GKにシュートを打たせるシチュエーションのトレーニングとGKがフィールドプレイヤーとして行うゲーム形式を行っていきます」と説明。GKがシュートを打つ、フィールドプレイヤーの役割を行うことで、双方の考えを知る狙いがあるという。
設定としては、ゴール前にDF役の人形を(GKから見て)右と正面に置き、右の選手はドリブルからシュート。GKはそれを防いだ後、正面からのシュートに対応する。
ポイントは、ドリブルシュートの選手に対して、素早く反応してシュートコースを消すこと。その後、正面からのシュートに対応するため、素早く動いて、ボールと両ゴールポストを結んだ等角線上に立って準備をすること。
このトレーニングでシュートを決められてしまうケースとしては、ゴールの中心からやや右にずれた状態に立つことで、左サイドのコースが空き、そこへシュートを流し込まれることが多かった。
山下コーチから、ポジショニングに対するアドバイスが送られていたが、素早く適切なポジションに入ることの重要性がよくわかるトレーニングだ。
2つ目のトレーニングは「中央からサイドへパス~シュート」。DF役の人形をゴールを挟んで両サイドに設置し、中央から左にパスを出し、左の人形の背後からキッカーが出てきてシュートを打つ。その後、同じ流れを右のキッカーも行う。
山下コーチは「ボールにアタックする」「予測を早くする」といった点を重点的にアドバイス。その根底にあるのは「積極的にアクションを起こす」というマインドだ。
ここではキッカーの状況を見ながら、プレーの判断を変えた選手に「ナイス!」と声をかけていた。
さらには「相手に強くアプローチすること、ボールを奪うこと。その感覚を持ってプレーしてほしい」など、GKが前向きな心構えを作ることで、アグレッシブなプレーにつながることを強調していた。
GKもフィールドプレーヤーとしてゲームに参加する
最後は「3対3+2GK+2フリーマン」。このトレーニングを担当するのは、ロンドン五輪代表を始め、トップレベルでの指導経験が豊富なトップチームの藤原寿徳GKコーチだ。
ルールはアンダー3タッチ。藤原コーチは「攻撃側は、ポジションチェンジをしてシュートを生み出せるように」「守備はシュートを打たれないように」と声をかけ、アグレッシブなプレーを推奨していく。
さらにはプレーを見ながら「ゴール前の設定なので、時間をかけずにシュートに持ち込むこと」「GKはボールの状況に応じて、常に良いポジションがある。後ろからはよく見えるので、周りに指示を出しながら、シュートを生み出そう」など、ゲーム全体に関わるようにうながしていく。
また、藤原コーチは「フリーでシュートを打たれそうなときに、DFを動かして、自分がどのポジションに入るかが大事。周りと連携しながら、ゴールを守ることを意識しよう」「常にいいポジションがあるはず」と繰り返し、声をかけていく。
トレーニングの終盤では「ボール周辺だけでなく、周囲を事前に見ておくこと。どうすれば守備のとき、攻撃のときに得をすることができるか。フィールドプレイヤーはどうやって判断しているのか。そこを理解することが大事」と、ゲーム理解を深めることの重要性を説くなど、GKの技術・個人戦術にとどまらない、大局的な視点を示していた。
充実したトレーニング終了後、藤原GKコーチはCOACH UNITED ACADEMYに向けて、次のようなメッセージをくれた。
「今回のトレーニングは、育成年代に必要な基本技術、ポジショニング、状況を見る力を主眼にしてきました。シューターの経験をすることで、フィールドプレイヤーの難しさがわかります。その感覚をわかりながら、GKをするのも狙いのひとつです」
「ゲーム形式では、シュート場面を多く作りながら、基本的な技術、戦術、フィールドプレイヤーとしての経験をすることを目的としました。チーム全体を指導する中で、同時にGKの指導も可能になるので、ぜひ取り入れてみてください」
今回の動画は、練習メニューに加えて、経験豊富なGKコーチ陣が、何を重視して指導しているかが、よくわかるものになっている。GKコーチだけでなく、チームの監督やコーチもこの動画を見て、GKの育成に必要なことは何かを感じ取っていただければと思う。
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【講師】山下渉太/
JFA公認B級、JFAGK-L3級ライセンス保持。東京学芸大ではキャプテンを務めた後、早稲田大学GKコーチとして指導をスタート。2011年にFC東京U-15深川・むさしにGKコーチとして加入。12年からは、U-15深川GKコーチ専任、16年途中からトップチームのGKコーチを担当。2017年~2020年はFC東京U-18でGKコーチを務め、2021年からは、トップチームのGKコーチを担当している。
【講師】藤原寿徳/
駒澤大学を卒業後、同大学でサッカー部のコーとして指導をスタート。1995年には、鹿島アントラーズのGKコーチに就任。ユースのGKコーチも兼任して、後にワールドカップ日本代表にも選出された曽ヶ端準などのプロ選手を輩出した。2009年に京都サンガF.C.のGKコーチに就任。2011年には、ロンドンオリンピックを目指すU-22日本代表のGKコーチに就任した。2013年、ジェフユナイテッド市原・千葉のGKコーチに就任。その後、2016年10月から12月まで、レノファ山口FC、2017年にはFC今治でGKコーチを務めた。2018年には、大宮アルディージャ、2020年にはサンフレッチェ広島のGKコーチに就任した。現在は、FC東京でGKコーチを務めている。
取材・文 鈴木智之