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疲れずに体を速く動かすコツは「股関節を先行させる」。サッカーのプレー動作を速める走り方と体の使い方

COACH UNITED ACADEMYでは、トレーニングメニューだけでなく、フィジカルやメンタルといった、サッカーを支えるあらゆる側面から講師を招き、専門的かつわかりやすい動画を配信している。

今回の講師は、フィジカル、コンディショニングコーチの西本直氏だ。西本氏はJリーグ開幕年にサンフレッチェ広島でフィジカルトレーナーを3年間務め、日本代表監督の森保一氏や、風間八宏氏らを指導。

その後、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレでもフィジカルトレーナーとして活動し、現在は広島市を拠点に、動きづくりを目的としたトレーニング、体のメンテナンスの指導を行っている。

指導経験豊富な西本氏のもとには「選手の足を速くするためには、どうしたらいいのでしょうか?」という質問が届くという。

そこで今回は、スピードアップをテーマに「サッカーのプレー動作を速める走り方と体の使い方」について解説をしてもらった。普段、なかなか見ることのできない西本氏の講義は必見だ。(文・鈴木智之)

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サッカーの走る行為において大切なのは、初動のスピードを速めること

「選手の足を速くするにはどうしたらよいか?」というのは、サッカー選手、指導者の永遠のテーマだろう。そのような相談を受ける際、西本氏は以下のように、問題点と正しい考え方を指摘しているという。

「スピードアップに関して、サッカー指導者の方から問い合わせを受けることが多くありますが、陸上選手のように、直線距離のスピードを速くすることが目的になっている指導者が多いと感じます。サッカーの"走る"という行為において大切なのは、初動のスピードを速めることや、怪我をしない、疲れない体の使い方をすることです」

サッカー選手にとって、速く走るという行為は、陸上競技のように決められた距離を速く走り抜けることではなく、「状況を的確に判断して、目的とする場所、方向へ、瞬時に動き出せる能力が最も重要になる」と西本氏は言う。

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また、サッカーは単純なスピード勝負ではなく、50m6秒8と7秒3の選手がいたとして、後者が必ず負けるとは限らない。的確な状況判断のもと、スムーズな体の動かし方ができれば、スピードのある相手を上回ることができるのだ。

「サッカーのプレーというのは、状況を理解して判断し、その後に自分の体を移動させます。その、体を移動させることに対して、技術があります。技術というとボールを止める、蹴るなどを思い浮かべるかもしれませんが、止める、蹴るの手前に、体をどう使えば、上手に動き出せるか、相手に対応できるかという技術があるのです」

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西本氏は「技術は難しいですが、一度身についた、できたとなると、それが当たり前になり、今までやってきた動きはできないというか、やらなくなります」と話す。つまり、体を正しく動かす技術をインストールすることができれば、新たな動きでプレーすることが可能になるのだ。

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股関節を先行させる走り方ができると、体への負荷を減らすことができる

動画では、図解と人形を使い、走る動作を解説。「一般的な、関節を屈曲させて走る行為は、地面に着地したときに、体重の2倍から3倍。最新の研究では4倍まで負荷がかかる」と説明。

「つまり体重60kgの人が全力で走っているときに、少なくとも2倍から3倍、120kgから180kg。もっと強烈に速く強く走る人は、それ以上の力で地面とぶつかり合っていると考えてください」

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陸上選手の中には、走行中に太ももやふくはらぎ、ハムストリングを負傷する人が後を絶たないが、それだけ爆発的な負荷がかかっているからだと言える。

西本氏はサッカーにトレーナーとして関わる中で「筋肉や関節の負担を減らしたい」と考え、「股関節を先行させる」走り方にたどり着いたという。

「股関節を前に運び、(股関節が脚を)通り過ぎた後に着地をするんです。すると、体重と同じか、それ以下の負荷しか接地面にかからないから楽ですよね。そのときに後ろ足は浮いているので、地面を蹴らないし、着地の感覚もほぼありません」

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西本氏が提唱する走り方は、サッカーのインステップキック動作に近い。サッカー選手は、普段からしている動作とも言える。

「チーターが全力疾走をするときは、足の付け根の関節部分よりも後ろに着地をしています。つまり、ブレーキがかからない走り方です。そのような使い方ができれば、体を傷めずに、90分間、自分が行きたい方向に思い切って動くことができると考えています」

動画では、西本氏とともにトレーニングをした、育成年代の選手の実例を紹介。中学生で175cm、70kgある選手に「足が遅い」「スタミナがない」などの課題があり、レギュラーに定着できなかったという。そこで西本氏のメソッドで1ヶ月間トレーニングしたところ、持久走で自己ベスト記録が出たという。

「彼は一生懸命頑張ることが大事だと信じて、体を使ってきました。でもそれは屈筋始動で力みに繋がり、無駄なエネルギーを使っていたことを自覚してくれました。私は『頑張らないように頑張る』というのですが、そのイメージを選手と指導者が共有することが大切なのだと思います」

動画では、ここで紹介しきれなかったエピソードを始め、「頑張るとは、どういうことか」「サッカー選手にとっての走るという行為は、単なる移動の手段ではない」といった情報が提供されている。ぜひ動画を確認して、西本氏の考えから指導のヒントを得ていただければと思う。

次回の後編では、理論をどのように実践していくのか。実技編に入っていく。

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【講師】西本直/
Jリーグが開幕した1993年にサンフレッチェ広島でフィジカルトレーナーを3年間務め、現日本代表監督の森保一や、風間八宏らを指導。その後は、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレでもフィジカルトレーナーとして在籍。
現在は、動きづくりを目的としたトレーニング、体のメンテナンスの指導を行っている。