04.17.2023
「小刻みに股関節を揺らして、行きたい方へ体を倒す」。疲れを感じずに体を速く動かす走りのトレーニング
試合中、疲れを感じずに体を速く動かし、スピードアップすることができたら......。サッカー選手であれば、誰しもそう思ったことがあるのではないだろうか。
フィジカル、コンディショニングコーチとして豊富な経験を持ち、サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸、川崎フロンターレなどで活動してきた西本直氏。COACH UNITED ACADEMYでは、前回より西本氏による「サッカーのプレー動作を速める走り方と体の使い方」をテーマにした動画を公開中だ。
今回の動画では「実践編」と題し、具体的に体をどう動かすことで、疲れずにスムーズな動きを可能にするのかを紹介したい。(文・鈴木智之)
スピードを速めるためには、腕は真下(地面)に向けて振る
実践編ではモデルの動きをもとに、西本氏が解説していく。まず従来の走り方を行い、次に前編で説明した走り方にチャレンジするという流れだ。
西本氏は「腕の振り方の違い、太ももの引き上げ方、着地位置の違い、そして後ろに引き上がるかかとの違い、この辺りをポイントに見ていただければと思います」と話し、レクチャーがスタートした。
最初に行う「普通の走り方」は、腕を真横に振って走るが、西本氏の走り方は、腕を真下(地面)に向けて振っている。ここが大きな違いだ。
さらに、西本氏の合図によって走り出す動作に着目すると、その場で足を後ろに引いてから、前に出ていることがわかる。西本氏は「3歩目でスタートラインを越えなければいけない。これが、体重移動で地面を蹴る人の走り方です」と説明する。
「いまは『GO!』という合図を出しましたが、サッカーの試合中に合図はありません。走り方も技術です。その場に止まっていてはダメで、小刻みに股関節を揺らして、行きたい方へと体を倒します」
体を倒せば、必ず左右どちらかの足が出る。左足を大きく前に出すと、右の肩が連動して前に出てくる。
「その次にどうするか。この出た手、ひじを引き上げます。そうすると、逆の足が出て逆の手が出ます。それを繰り返すという、これだけのことなのです」
西本氏はこれらの動きを実演を交えて説明。詳細は動画で確認していただければと思うが、「前に行かなければいけないと思ったときに、後ろに下がるのではなく、思いっきり肩を出す。足ではなく、肩から始動している感じです」とポイントを解説する。
横への動きも、前方への動き時と同様に肩を地面に振り出して走る
続いては、左右の動きに言及。サイドステップというと、多くの人が反復横跳びの要領で動いている。反復横跳びの動きだと、体が浮いた瞬間にボールを通されたり、相手に動き出されると対応することができなくなってしまう。
「また、進行方向に体が向き直ってしまうと、それ以外のところ(横側)が見えません。そうならないために、目だけでなく、上半身は常に相手を見ている状態を作ります。そして下半身と上半身を逆にねじることで、常に相手の方を見ながら動きます」
横への動きも、先程の前方への動き時に行った、肩を地面に振り出して走るフォームを用いて行う。
「横から誰かに押されたというイメージでグーッと倒れて、肘を振っていく。これだけで横移動ができますし、相手を見ることもできます。この動きが『相手を見ながら、横へ移動する』ための正しい動きになります」
前方への動き出し、横への動き出しに続き、後方への動きもレクチャー。プレーが前で起こっていて、自分が後ろに走らなければいけない状況は、とくに相手にロングボールを蹴られたときの、ディフェンスの選手によくある場面だ。
「後ろへ移動するときに、一瞬で背中を向けてしまうと、前方の状況はわかりません。そのため、真後ろに180度振り向くのではなく、右側から回りたいのであれば、右足を軸足に体重をかけて、先程の横移動の動きで後ろへと捻ります」
動画では、西本氏が動き方やポイントをていねいに解説。動き出しの準備にあたる「アイドリングの状態から、肩を前に出して走る方法」や「足を出すのではなく、体を前に倒す」といった動作を紹介している。
西本氏による理想的な動きの再現も収録されているので、繰り返し見て実践し、動作を身につけていただければと思う。
練習を重ねると「スピードが上がる」、「疲れない」の効果を実感できる
動画にモデルとして出演した男性は「アイドリング(股関節を揺らす)や腕を上から下に降ろすイメージというアドバイスをもらい、練習を重ねると、『股関節を先行させる』走り方ができるようになりました。マラソンなど走る機会がある際は『股関節を先行させる』走り方を取り入れており、一般的な走り方に比べて疲れない、速く走れるようになった実感を得ています」と感想を話してくれた。
西本氏は「サッカーという競技を安全に楽しく行い、なおかつ上手になることができ、長く続けていくためには、技術や戦術以前に、基礎となる仕組みに沿った体の使い方があるという視点を持つことが大事だと考えています」と話す。
他では、なかなか見ることのできない、西本氏による体の動かし方解説。理論、実技に加えて、指導者として、選手とどう向き合うかといった事柄にも言及しているので、多方面から学びになること間違いなしだ。ぜひ動画を繰り返し見て、日々の指導に役立てていただければと思う。
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【講師】西本直/
Jリーグが開幕した1993年にサンフレッチェ広島でフィジカルトレーナーを3年間務め、現日本代表監督の森保一や、風間八宏らを指導。その後は、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレでもフィジカルトレーナーとして在籍。
現在は、動きづくりを目的としたトレーニング、体のメンテナンスの指導を行っている。
取材・文 鈴木智之