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ボールは足で獲りに行くのではなく、お腹を近づけて獲る/鬼木祐輔(フットボールスタイリスト)

 世界のトップチームにおけるディフェンスを見ていると、傍目には「簡単に」ボールを奪ってしまうように見える。ブラジルW杯で準優勝したアルゼンチン代表のDFハビエル・マスチェラーノなどは、その好例と言えるだろう。力まずにスムーズに身体を運び、スッと足を出してスマートに、時には激しく奪い取る。世界トップレベルのディフェンダーは、そういう能力を備えている。
 
 では、そうしたディフェンダーが共通して持つ『相手に脅威を与えるアプローチ』方法とはどのようなものだろうか? 『フットボールスタイリスト』という肩書きで活動し、先日は全国高校総体で準優勝した京都精華女子でフィジカルコーチを務めた鬼木祐輔氏が解説する。(取材・文/澤山大輔 写真/COACH UNITED編集部)

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お腹を近づけて獲りに行く

 優れた選手は、お腹を近づけてボールを奪い取りに行っています。足ではありません。私は、『足で獲りに行くと、脚が短くなる』という仮説を持っています。この足と脚という漢字が違うところがミソで、脚というのはくるぶしから足の付根までのLEGの部分です。

 人間は2本足の動物ですので、片脚を上げに行くと必然的にもう片方の脚で身体を支えることになります。従って、脚を出しに行くと水平方向に移動しづらくなります。動けるのは、垂直方向のみです。ここから脚が届くエリアには動けますが、そこから剥がされてしまうと強く早く動けません。脚を出しに行くと、そこから移動できなくなります。
 
 私は身長165センチですが、身長180センチの選手が僕とマッチアップしたら恐らく「こんな小さいやつにボールを獲られないだろう」と思うでしょう。しかし身長の小さな選手は、実はナメられるという点でラッキーだとも思いますね。身長が小さくとも、脚ではなくお腹を近づけることで、ストライドの短さに関係なく相手から奪うことができます。逆に、脚から獲りに行ってしまえば、自分のストライド以上には絶対に動けません。
 
 歩行しているときを考えると、踏ん張らずに前に進むことで逆側の脚は勝手に出てきます。ヨーロッパや南米の選手は、脚の前側の筋肉(大腿四頭筋)を緊張させずに相手に近づき、スッと足を出してボールにアプローチしています。私が関わっているチームが以前ブラジルのチームと対戦したのですが、やはりお腹から近づいて最終的に脚を出してきたので、その脚に重心がしっかり載っていて「重い」アプローチになっていました。

 繰り返しますが、足で獲りに行くのではなく、お腹を相手に近づけることが重要です。そうすることで、相手に近づき、最終的に差し出す脚に重心が乗るわけです。

脚は移動するための手段

 ボールを奪うことが目的であるわけですが、足で奪うことが目的化してしまうと、相手にかわされてしまいます。海外の選手を見ればみるほど、止まっているのではなくスッスッと身体を伸ばすようにしているシーンが多いと思います。止まるために足を使うのではなく、その次のプレーのために足を残しておく。うまい選手は、そういう身体の使い方ができているように思います。あくまで「脚は移動するための手段でしかない」という考え方が大事です。
 
 そのためには、お尻を上げて両脚をフリーにすることです。先ほども延べましたが、踏ん張ってしまうと足の前側の筋肉を使ってしまうため、ブレーキがかかってしまいます。お尻を上げることで、両脚が力まず、前側ではなく後側の筋肉を使えるようになり、スッと相手に近づくことができます。

 身体の前側の筋肉を使うと、思ったほど力は出ませんし、すぐにスタミナ切れを起こしてしまいます。しかし後側の筋肉はより大きなパワーを出すことができ、しかも疲れにくいという特性を持っています。後側の筋肉を主に使って動くことで、より反復した動きを続けることが可能になってきます。
 
 例えばサイドステップを行なうとき、進行方向の足を目的地に向かって出すようにすると、ついた足はそこで踏ん張ってしまい、余計なパワーを使うばかりか次の動作が遅くなります。しかし、進行方向にお腹を動かすイメージで動けば、1回の出力はそんなに大きくならず、足の前側を踏ん張ることなく、スムーズに移動することが可能です。
 
 これらのプレーについては、COACH UNITED ACADEMYにおいて『姿勢と移動の仕組みから考えるボールを奪うためのディフェンス』と題して動画による解説を行なわせていただきました。詳しくは、下記をご覧いただければ幸いです。

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鬼木祐輔(おにき・ゆうすけ)
サッカーがうまくなるために「身体を上手に動かす」という観点からサッカーを捉え、その方法を一緒に考えいていきます。しなやかで、シュッとしていて、立ち姿が美しく。頑張らない、息まない、力まない。サッカー選手をスタイリングして行きます。現在は幼稚園児から高校生までのスクールやチームでサポートを行っております。また、ケガをしないための身体作りやケガから競技復帰までのお手伝い。自分で自分の身体の状態を知るためのお手伝いもしています。ケガでお悩みの方もご相談ください。ノリシロヅクリ.com