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試合に負けた原因を「選手のメンタル」の問題にすり替えていないか?【連載】The Soccer Analytics:第12回

オランダ・アヤックスのユースカテゴリーで分析アナリストを担当する白井裕之さんと、関西のバルサと異名をとり、その指導法が注目される興國高校(大阪府)サッカー部 内野智章監督による特別対談企画 第3回目をお送りする。

2人の熱い話はサッカーの分析から実践へと議論が進んだ。日々現場で格闘する内野監督に、同じくアヤックスのユースカテゴリーで戦う白井さんが語りかける。(構成/COACH UNITED編集部)

【特別対談企画】
試合開始10分で戦い方を変えるスペイン人と、変えられない日本人の違い
「ポゼッション」とは、相手に関係なく試合を優位に進める手段ではない
試合に負けた原因を「選手のメンタル」の問題にすり替えていないか?
子ども達にサッカーの戦術を指導することは「型にはめる」ことではない

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現象に対して改善する"コンディショニング"という概念

内野:「90分、80分プレーすると、必ずミスが出る。そのミスひとつでカウンターを受けて失点しているのが現状です」


白井:「そこを埋めるのが、サッカーのコンディショニングを考えたトレーニングですね。サッカーはフィジカルじゃなくてコンディショニングなんです」


白井:「オランダサッカー協会のライセンスカリキュラムで学ぶ「コンディショニングメソッド」では、一つひとつのプレーのクオリティ(大きさ・爆発力)が大きければ大きいほどその選手のプレーのレベルが高いということになりますよね。次に来るのが、クォンティティ(quantity:頻度)です。サッカーに落とし込むと、頻度ですよね。クオリティの高いプレーが、30秒後にすぐできるのか、1分休憩しないとできないのか? クオンティティが高いほど再現性があるということになります。さらに次に来るのが、そのクオリティとクオンティティを90分間維持できるか? 持続性(キャパシティー)ですね。回復の能力の低い選手だと、試合が経過するごとに各サッカーのアクションのクオリティの大きさが小さくなります。また、サッカーのアクションの間(頻度)が減ってしまうんです」


内野:「それを高めるようなトレーニングをしなければいけませんね」

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白井:「そこなんです。海外でもいまだによく見られる素走りは、質なのか量なのか、持続性なのか、何かに刺激があってたまたま効果があるのかもしれません。しかし、サッカーの何に効いているのか誰も答えを持っていません。でも、いま挙げた"コンディショニング"の概念を知っていれば、意図して質や量、頻度、持続性を上げる方向にアプローチできるんです」


内野:「これは、久しぶりに未来が見えるお話ですね(笑)。どれもこれも分析不在に尽きる気がしてきました。サッカーの分析ができていないから、足りないもの必要なものが見えなくて、ピッチで起こっている現象に対処するようなトレーニングができないんです。特に高校生年代は問題をメンタルの話にしがちです。分析ができないからそこに逃げているのかもしれません」


白井:「オランダのライセンスカリキュラムではサッカーの分析が重視され、サッカーはあくまでもサッカーの言葉で語るような成り立ちになっています。もちろんトレーニングもその分析をベースにオーガナイズされます。監督がチームの戦略、目的、原則を設定しその枠組みの中で選手はプレーします。そこで出た課題や成長度を分析しトレーニングに落とし込むのです。枠組みがなければ選手はプレーを実行できませんし、何がうまくいったか?できなかったのか?の正しい評価もできません」

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分析なくして質の高いトレーニングはできない

内野:「本当にそう思います。これは笑い話ですが、欧州視察に日本の指導者グループが行って、熱心にビデオを回していたそうなんです。彼らが帰った後に、視察を受けた指導者が『ところでこの前来た日本人は、なんでこの練習してるか聞かないで帰ったけどいいのか?』と言うわけですよ。彼らがやっているメニューが大切なんじゃなくて、どんな現象が出て、何を改善するためにやっているかが大切なのに」


白井:「すべての指導者の方がそうではないと思いますが、この枠組みを設定せずに、トレーニングにはメニューが大切と考えている方は少なくないかもしれません」

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内野:「たとえば、2対2の守備の局面でコーチングしてくださいって言われたとしますよね。僕は、それだけでは指導できません。どこの守備なのか? だから『ゴール前の守備ということにさせてもらいます』って言って、『この前の試合でこういうことがあったと仮定してそれを改善するための練習をいまからします』とそこまで説明してから始めるんです」


白井:「トレーニングの効果を考えたら当たり前ですよね。よく指導現場では、『3人目の動きを創り出せ』とよく言いますけど、どのフィールドでプレーしているかによって動き方と目的が違います。このフィールドの原則はこう、でも次のフィールドに進んでいたら原則はこう。それぞれ狙いが違います。相手の動きも含めてそれをトレーニングで高めていくわけです。漠然とした2対2のチャレンジ&カバーなら、あまり効果的ではないかもしれません」


内野:「僕もあるところでまったく同じことを言いましたよ。分析なくして質の高いトレーニングはできませんから」

第4回(最終回)対談記事へつづく~


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■内野 智章(うちの・ともあき)
興國高等学校(大阪府)のサッカー部監督を務める。ここ3年で4名ものJリーガーを輩出し、毎年3年生のうち20名以上が関東や関西の大学サッカー部へ推薦入学を決めるなど、選手権をゴールとしない育成方法で全国から注目を集める。また、高い技術力をベースとしたポゼッションサッカーは"関西のバルサ"と異名をとり、スペインではビジャレアルユースと互角に戦うなど海外でも評価が高い。

■白井裕之(しらい・ひろゆき)
2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。


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