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「ポゼッション」とは、相手に関係なく試合を優位に進める手段ではない【連載】The Soccer Analytics:第11回

オランダ・アヤックスのユースカテゴリーで分析アナリストを担当する白井裕之さんと、関西のバルサと異名をとり、その指導法が注目される興國高校(大阪府)サッカー部 内野智章監督による特別対談企画 第2回目をお送りする。

二人の話は、日本サッカーにある種の偏りが出ているという問題から、その背景にはサッカーを客観的に分析する視座の欠如があるのではないか?と話が進んだ。(構成/COACH UNITED編集部)

【特別対談企画】
試合開始10分で戦い方を変えるスペイン人と、変えられない日本人の違い
「ポゼッション」とは、相手に関係なく試合を優位に進める手段ではない
試合に負けた原因を「選手のメンタル」の問題にすり替えていないか?
子ども達にサッカーの戦術を指導することは「型にはめる」ことではない

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相手を分析してアジャストすることが"サッカーの戦術"

白井:「冒頭(前回の記事)で、日本のチームが相手を見てサッカーをしていないように感じると言いましたけど、日本では、相手の戦略や戦術を分析して、自分たちのサッカーに落とし込む、または自分たちのサッカーを分析するにしても、できたことと、できなかったことを的確な客観的指標に基づいて改善していくプロセスが足りないように感じます」


内野:「ただ、これも日本人の特徴かもしれませんけど、一つのフットボールのスタイルに対しての徹底的な研究ならできるんです。○○高校にはこのやり方というのは得意なんですよね」


白井:「目的に沿ったタスクがあるからできるんですね。でも他のやり方のチームには通用しない。いろいろなチームとやったときにどうかってことが重要だと思います」


内野:「うちはポゼッションサッカーをやっているんですけど、中学生なんかは自分たちから仕掛けていく"アクションサッカー"をイメージして入学してくるわけです。でも、ポゼッションでやるって、ある種のリアクションじゃないですか? 相手の守備陣形がこうだったらこうしようとか、相手があってという部分が大きい」


白井:「ポゼッションは相手に関係なく試合を優位に進められる手段だと思っている人が多いかもしれませんね。ポゼッションと言っても、ゲームメイク戦略の中でポジショナルプレーを志向するのか、ダイレクトプレーでやるのかによって違いますし、それを実現するためにはゲームを分析し、対戦相手にアジャストした"戦術"の部分が絶対に必要になってきます」


内野:「オランダ的なサッカーの話をすると、相手が1トップだったら守る方は2センターバックにしますよね。でも、結局そこから前がはまっていきます」

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白井:「何もしなければ1対1、もしくは数的不利になってしまいますからね」


内野:「スペースもありません。センターバックが1トップの脇を越えていってズレを作らない限りスペースが空かないんです」


白井:「中盤の数的関係が、センターバックによって3対3から4対3の数的有利なりますよね」


内野:「でも、それがなかなか難しいんですよ。相手もその線を消しながら守ってくるので、こちらとしては、サイドバックをわざと引かせてセンターバックと同じラインにサイドバックを置いて、そこにボールを配球するんです。これで相手のウイングを引っ張り出してボランチに流し込んで・・・・・・。こんなやり方をしていたら、バルサも同じことやっていました。これをやっていると、相手がまったく対応できなかったんです。でも2年くらいしたらマンマークで付いてくるようになって(笑)。今度は、10番をサイドに流すようにして、相手のマンマークで付いてくるボランチを引っ張って、スペースを作る。それでこっちの9番を落として来るみたいな動きにしました」

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ポゼッションすることは、ある種のリアクション

白井:「いま内野監督が仰った考え方は、アヤックスでもやっていて『ロクン(相手をおびき寄せる)』という考え方なんです。アクションもある種のリアクションと仰ったんですけど、まさにその通りで、センターバックがドリブルでボールを持って入っていったときに、攻撃的ミッドフィルダーがサイドに動くと相手はどうリアクションするかのかな? というのを見た上で、プレーするんです。ついてこなかったらフリーなのでパス、ついてきたら、そのままドリブルを続けてフリーの選手を探す。もちろん他の選手はその間もフリーになる動きをするわけです。サッカーとは何か?から考えると11人と11人が相対してプレーしているので必ず相手の影響を受けます。相手を分析してアジャストしていくことがサッカーの戦術であり、これこそサッカーの醍醐味でもあります」


内野:「そういうことをやりたいですし、そこを目指してプレーしています」


白井:「興國高校とビジャレアルの試合も見ましたが、オランダで勉強した自分からすると3年間しか時間のない日本の高校チームでここまでできているというのは驚異的ですね」


内野:「だけどね、90分続かないんです。うちはJ クラブには行けなかったり、選手権の常連高に行けなかった子たちが中心なんで、90分、80分プレーすると、必ずミスが出る。そのミスひとつでカウンターを受けて失点しているのが現状です」


白井:「そこを埋めるのが、サッカーのコンディショニングを考えたトレーニングですね。先ほど(前回の記事)も出ましたけど、サッカーはフィジカルじゃなくてコンディショニングなんです」


第3回対談記事へつづく~


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■内野 智章(うちの・ともあき)
興國高等学校(大阪府)のサッカー部監督を務める。ここ3年で4名ものJリーガーを輩出し、毎年3年生のうち20名以上が関東や関西の大学サッカー部へ推薦入学を決めるなど、選手権をゴールとしない育成方法で全国から注目を集める。また、高い技術力をベースとしたポゼッションサッカーは"関西のバルサ"と異名をとり、スペインではビジャレアルユースと互角に戦うなど海外でも評価が高い。

■白井裕之(しらい・ひろゆき)
2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。


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