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アヤックスが育成年代から実践する「Lokken(ロクン)」とは

2003/2004にリーグ優勝をして以来、ほぼ10シーズンに渡る長い期間、リーグ優勝およびチャンピオンズリーグから遠ざかっていたアヤックスは、この状況を打破するべく2011年に大きな決断を下しました。それはFCバルセロナのアドバイザーとして活躍していたヨハン・クライフ氏の、クラブマネージメントへの本格的な招聘です。過去、クラブのアドバイザーとして意見を求められることはありましたが、今回はクラブ全体のマネージメントに関して、クライフ氏本人のアイデアと指揮のもと、抜本的な改革を進めることとなりました。現在までの間に、大きな変革が各分野に導入され日々実践されています。

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Photo:ADO-Ajax1-1 Ajax loopt in(voor de wedstrijd)


新生アヤックスのフィロソフィーとは?

アカデミー内の具体的な改革として、クライフ氏のフィロソフィーの1つである"アカデミーに所属するトップレベルの才能を誇る選手達は、元アヤックスの選手でなければ成長させることはできない"というアイデアが導入されました。つまり、アヤックスのアカデミーからトップチームへ昇格し、そこで活躍できる選手を育てるためには、その過程で何が要求されるのかを身をもって経験して理解していることが指導者に求められるわけです。このフィロソフィーのもと、ビム・ヨンク氏とデニス・ベルカンプ氏の二人がアカデミーのトップに就任しました。各カテゴリーの監督やパーソナルコーチも、元アヤックスの選手で占められています。

また、この新しいテクニカルスタッフを中心として"Skill Box (スキルボックス)"という新しいアヤックスのフィロソフィーが導入されました。これは、テクニックや戦術についてのテクニカル部門だけではなく、メディカルやコンディショ二ング、ムービングや栄養学など多岐にわたる総合的なフィロソフィーの総称となっています。また、インターネットでチーム専用のデータベースにアクセスをすることで、選手個々の情報を携帯端末で取り出せるなど、クラブのスタッフが情報を共有できるシステムのデジタル化も進められています。具体的な例として、アカデミーの週末のリーグ戦は全て録画され、データベースにアップロードされることにより、専用アカウントを有するスタッフは、試合後に自宅で確認することが可能になりました。コーチによるゲーム分析から、その試合で怪我をした選手の怪我をした瞬間の状況の把握などのフィードバックなどに使われ、このシステムの利点は計り知れません。各分野のスタッフの役割を繋ぐツールとして国内外から注目されています。

Skill Boxのテクニカル部門のチーム戦術に関して、攻撃や守備などの各モーメントに従って細かく各ポジションのタスクが定められています。U-17からU-19までのユース部門、U-12からU-15までのジュニアユース部門とU-8からU-11までのジュニア部門の3つのグループ別に目標とされるタスク内容やアクセントなどが異なります。今回は、その中でもクライフ氏により導入された新しい考え方の1つであります<Lokken・ロクン>について、具体例などを挙げてご紹介します。

Lokken(ロクン)という考え方の導入

Lokkenとはオランダ語の動詞で「ロクン」と発音します。"相手をおびき寄せる"という意味があり、これはアヤックスのコーチが頻繁に使うサッカー用語の1つになっています。具体的にどのような考え方なのか、順を追ってご説明します。

①チームがボールを持っている攻撃の際、特に自陣から敵陣へのビルドアップで行います。

②DFラインでボールを回している際にMFやFWの選手が、お互いにコミュニケーションを取り、相手をおびき寄せるポジションを意図的に取る。

*オランダでは、サッカー用語である"コミュニケーション"について、お互いに指示・コーチングをするという意味で使うのではなく、味方同士がお互いの動きを補完し合うという意味で使います。

③次に、そのボールを受けるためのポジションチェンジやフリーランニングの動きに対して、相手選手がそのままマークしてくるのか、それとも、マークしないのかを認知して、その先のボールの進め方を判断していきます。

④相手の選手が各ポジションで通常行っているチーム内での役割(ボールへのプレッシャーを掛ける、カバーリング、通常のマークの受け渡しなど)をこの動きで変えさせることで、相手守備のブロックを混乱させ、その中で最適なゴールへ直結する判断を実行します。

⑤ボールから近い選手だけではなく、遠くにポジションを取っている選手も積極的にポジションを変えて、自分だけではなく、周りの選手が数的優位になるように参加する。

⑥最終的には"ドミノ崩し効果"を狙います。常にイニシアチブを取り相手を対応させることによって、数的優位な状況(2対1の状況)を全ての局面で維持し、相手DFが対応できない状況を意識的に作り出す。

それでは、具体例を図を使ってご説明致します。

まず前提として、アヤックス(△)のフォーメーションは1:4:3:3で中盤は逆三角形、相手チーム(○)は1:4:3:3のトップ下がいるフォーメーションで説明をします。次に、アヤックスのアカデミーの各年代のチームが国内リーグで試合をする場合、対戦相手の8割が自陣または敵陣のセンターサークル付近まで下がって、ボールを奪ってカウンターを狙うチームです。ここで大切なポイントは、アヤックスは基本的に相手のフィールドでプレーする時間が長く、そこでは11対10の状況で合計21人の選手がハーフコート内にポジションを取っています。つまり、各選手の"時間とスペース"が極端に制限されている状況が挙げられます。早速、説明していきましょう。

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ウィングとサイドバックのフリーランニング
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攻撃的MFとウィングのフリーランニング
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どんな選手が求められているか?

フィールドのどこで、どの選手が有効なポジションにいるのかを認知して、それを利用する判断ができる選手の育成が、アヤックスでは攻撃時の重要な目標になっています。サッカーのプレースピードが上がっているモダンサッカーでは、ボールを持っている選手がフィールドの選手全員を把握することは難しくなってきているのも事実です。そこで、チームとしての戦術に関する約束事をジュニア年代から少しずつ覚え実践することが大切だと考えます。繰り返し実践することで、より早くより正確にプレーすることができるようになり、より先を考えた、より有効的なゴールへ結びつく判断やハンドリングができる選手の育成が可能となります。また、「チームを作る=約束事を決める」とオランダでは考えられています。

ただ、この考え方に対して、選手の主体性や創造性が欠けていると考える方もいらっしゃるかと思います。その部分がないとは言えません。ただ、プレースタイルや細かな約束事が確立されてないチームで、サッカーを知らない選手に対して「考えなさい、判断しなさい!」と、強要することも良いとは言えません。自分がアヤックスにいて感じることは、この方法でサッカーを実践できない選手はトップチームへは上がれないということです。そこには、良い悪いという考えは存在しません。なぜなら、このスタイルやフィロソフィーがアヤックスであるからです。

日本の育成の現場でも、このような考え方や発想が浸透してくることを願っています。アヤックスのトップチームで活躍した選手が、その後どんなキャリアを歩んでいるかをみると、指導方法の正しさが見えてくるかと思います。その多くが、ヨーロッパのあらゆるプレースタイルに適合しています。

日本人の特徴でもある、"何度でも繰り返すことができる"ボール扱いが上手い選手が増えてきているなか、次のステップとして、アヤックスで行っている様なチーム戦術に関して「チーム・組織を重んじる」や「約束事を正確に実践する巧みさ」などの特徴を発揮することで、より多くのサッカーが上手い選手の育成について、働き掛けられると確信しています。日本の育成現場でも「ロクン」というサッカー用語が使われることを願っています。

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白井裕之(しらい・ひろゆき)
1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。

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