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アヤックスの守備戦術「1/2ポジション」とは

前回は、攻撃時のビルドアップについて、アヤックスの「ロクン・誘き出す」という代表的な考え方についてご紹介をしました。今回は、トータルフットボールの時代から革新的な戦術を実践している「アヤックスの守備についてのフィロソフィー」をご紹介します。

<<アヤックスが育成年代から実践する「Lokken(ロクン)」とは

imagesCA05ZOP6.jpg文・写真:白井裕之(アヤックスU-19チーム ゲーム・ビデオ分析アナリスト)  

■アヤックスの守備戦術のキーとなる1/2ポジションとは?

アヤックスの守備について、下記の3つが目的となります。 

・「アグレッシブに、できるだけ速くボールを奪い返すこと」
・「相手ゴールの近くで奪い返すこと」
・「他のチームが実践していない革新的な方法を実践すること」

特に3つ目の革新的な方法というのがアヤックスにとってとても大切で、日々トップチームのスタッフとユース年代のスタッフが話し合っているのを見掛けます。

この3つの目的を実現する為に、アヤックスでは「1/2ポジション」という守備戦術が導入されています。「1/2ポジション」の意図としては、下記の3つになります。

1)相手チームのビルドアップの為の、パスコースやスペースを消すこと。
2)自分の前にいる相手選手だけではなく、前方へ同時に一人以上の複数の相手選手をマーク、牽制することで、ディフェンスにおいてもイニシアチブを取ること。
3)前方へこのポジションを取ることで、チーム全体をよりコンパクトにする、またコンパクトを維持することが可能になります。

それでは、解説図を用いて守備の戦術についてご説明致します。

*相手チーム(青色)のフォーメーションは1:4:3:3のトップ下10番がいる三角形の形。アヤックス(赤色)のフォーメーションは1:4:3:3で攻撃的MFは8番と10番の2人からなる逆三角形の形。分かりやすくする為に、今回は相手チームのゴールキックからのシチュエーションに絞って説明します。オランダでは、ゴールキックの際またはDFラインでスペースがある場合は、後方からボールを回しながらビルドアップを進めるのが一般的になっていますし、ここがオランダサッカーの長所になっています。

解説図①.PNG
方法:相手DFラインに対して、アヤックスは3人のFWと1人の攻撃的MFでプレッシャーを掛ける( 1対1の状況 )。
目的:相手ゴール近くでのボール奪取すること。また、相手選手をプレッシャー下に置いて、正確な判断やプレーを妨げる。

1.アヤックスのFWの3選手は意図的に引いて、相手GKに3番もしくは4番へパスをさせ、後方からのビルドアップをさせる。
2.アヤックスの9番は、2人のセンターバック(3,4番)の内のパスをされた選手へプレッシャーを掛ける。(図では相手3番へ)
3.相手4番へはアヤックス7番の選手がプレッシャーを掛けに行くのではなく、攻撃的なMFの10番が行きます。何故なら、7番が行ってしますと相手チームの4,5と8番との3対1、もしくはアヤックスの10番が図の様に相手8番をマークした場合でも3対2の数的不利な状況になってしまいます。
4.次に後方の選手の役割ですが、自分の前の選手のみをマークするのではなく、相手選手の間(この場合は、相手8番と10番の間)にポジションを取ります。そうすることで、1人の相手選手だけではなく、近くの相手選手も牽制し、場合によってはプレッシャーを掛けることが可能です。
5.アヤックスの最終ラインは3番が前へ行く関係で、最終ラインが1対1の状況になるので、サイドバックは内側へ絞ってゴールへの最短での攻撃を防ぎます。

解説図②.PNG
相手チームの対処策として、図の様に相手のDFラインとMFの距離をできるだけ長く取って、アヤックスのMFのプレッシャーを回避することが実践では考えられます。この場合、相手フィールド上で5対3になり、ボールを奪うのは難しくなります。またアヤックスの9番が相手3番へプレッシャーに行くことにより、フィールド中央にスペースを与えてしまいます。

この問題については、次の方法で対処します。

解説図➂.PNG
方法:相手DFラインに対して、アヤックスはFW3人でプレッシャーを掛ける。
目的:相手ゴール近くでのボール奪取すること。

1.アヤックスの9番は中央に、7番と11番はセンターバックとサイドバックの間にポジションを取ります。その際、図の様に意図的に相手のサイドバックをフリーにします。
2.この7番、9番、11番の3人のポジションによってフィールド中央で相手チームは数的有利な状況を作り出すことができなくなります。
3.そこでの相手チームの選択は、ロングボールを前線へ送るか、フリーになっているサイドバックへの二つになります。ロングボールの場合、アヤックス最終ラインは4対3の数的有利な状況を維持していますので問題なく対処が可能です。フリーになっているサイドバックへのパスの状況では、「1/2ポジション」を取っている10番の選手によって、図の様にボールがサイドバックへの移動中にプレーシャーが掛けられます。

利点:
・アヤックスの9番がフィールド中央から動く必要がないので、相手に有利なスペースを与えることが無くなります。
・ボールを奪った瞬間には、中央に残っている9番がフリーでボールを受けられチャンスが大きくなります。
・ボールへのプレッシャーが中から外へ掛けることが可能になり、自陣ゴールへの最短距離での相手の攻撃を防ぐことが可能になります。
・ボールへプレッシャーを掛ける為の各選手の走行距離が短くなります。

解説図④.PNG
相手チームの対処策として、図の様に11番のポジションを内側へ、また5番のポジションを高くして、アヤックスDFのマークのズレや、アヤックス10番がプレッシャーに行けないように距離を長くしてくることも考えられます。

その場合は、
1.相手5番にはアヤックスの2番がプレッシャーを掛け、内側へ入ってきた相手11番にはアヤックス3番がマークすることで対処します。
2.その他のアヤックスの選手は、フィールド中央へカバーリングまたは「1/2ポジション」を取って自陣ゴールへの最短距離での相手の攻撃を防ぎます。

トップチームが導入しているこの2つの方法は、U-16からU-19のアカデミーの選手にも高いレベルで実践できることが求められています。なぜなら、アカデミーの目的は一人でも多く質の高いアヤックスのサッカーを実践できる選手の育成だからです。また、この守備の戦術についてもアヤックスの新しいメソッド「Skill Box」中で、選手が身に付ける1つ1つのハンドリングが状況ごとに細かく決められています。

■日本代表に欠けていた守備戦術とは?

最後に、先日グループリーグで敗退をしたブラジルワールドカップの日本代表は、「攻撃的なサッカー」「自分達のサッカー」という言葉がメディアで取り上げられ、特に攻撃について(特にボールを持っている時について)各メディアで取り上げられていました。ただ、サッカーではボールを持っていない時には守備をしてボールを取り返さないといけないのですが、この「攻撃的なサッカー」「自分達のサッカー」を実現する為の守備戦術を見ることができませんでした。コートジボアールやコロンビア戦を例に挙げてご説明致します。

解説図⑤.PNG
解説図⑥.PNG

ここで注目したいのが相手チームのビルドアップの方法です。現在、ヨーロッパでも主流になってきている方法ですが、解説図⑤または⑥の様に守備的ミッドフィルダーがセンターバックのポジションまで下がって2対2の状況から3対2の数的優位を作り出します。コートジボアールとコロンビアの両チームとも常にDFラインで数的優位をつくり、大久保選手と本田選手の2人がプレッシャーを掛けに行きますが、3対2では走る距離も長くなり、ズルズルと下がらざるえないシーンや本田選手が空けたフィールド中央を使われるシーンが何度となくありました。日本の選手のコメントにも「プレスがはまらなかった」「ズルズルと下がってしまった」とありましたが、この相手チームのビルドアップに対する答えを日本代表は持っていなかったように思います。そこでは、解説図③の方法を取ることで、フィールド中央を空けることなく、また攻撃の選手に守備の負担を掛ける事無く、相手チームのヴぃるどあっぷビルドアップの阻止とボール奪取、またはフリーでいる大久保選手を経由したカウンターなどが可能だったと考えられます。

以上、今回はアヤックスで実践されている守備についてご紹介をさせて頂きました。皆さんのチームで守備のチーム戦術導入の際の1つの方法として活用して頂けますと幸いです。

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白井裕之(しらい・ひろゆき)
1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。

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    白井 裕之 氏

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